18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 34

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 ベッドが緩やかに軋む。激しさはないが相手の形を捉えるたび、快感が湧き起こる。そうするとまた彼の輪郭を捉え、締め付けてしまう。うぶな教師の薄い肉体を抱き寄せていたかった両腕は、彼の大好きな手繋ぎでシーツに止められている。加霞かすみだけでなく彼女の手指も、生天目なばために覆われ下に敷かれていた。
「久城さん……」
 舌を吸っていた彼の唇が拳ひとつも入らない程度に離れ、額をぶつける。鼻先を当て合うのも好きらしい。
「なんですか」
 ゆったりしたピストン運動によって彼のものに押される感じがあった。じんわりと彼の喋り方の如く心地良さが沁み渡り、彼女は目を細めた。
「仕合わせです」
 感極まったのか、彼は何度もキスをする。加霞は目を逸らす。 
「久城さんには酷なことを言いました」
「いいえ……部分的な幸せというものもありますから………」
「久城さん」
 鼓動よりも緩やかに腰を入れていた生天目が、急にすばやく動き出す。手を結ぶ力も強まった。
「ぁっ、せんせ………っ、!」
「……おれが仕合わせになります。久城さんのことも置いていかない」
 突然凶暴な貪り方をする男に、加霞は恐怖するどころか興奮した。
「久城のことはおれも背負います。忘れません。忘れられない。おれの教え子です、これからも。だから、おれの仕合わせも、久城さん、貴方に半分渡したい」
 繋いでいた手を解き、その腕は彼女の背に回る。彼女もまたあまり厚さのない肉体にしがみつく。内部に埋まったものが滾るのを感じる。
「せ、んせ……っぁ、あ!」
 滲んでいく。腹の奥を突かれ、彼を引き留めるたびに訪れる衝突から悦びが生まれた。
「なば、ためせ………せ、気持ち、い………あっん、!」
 地球が激しく宇宙を転がるような動きに怯え、固い背中に爪を立てた。この男にしがみついてなければ銀河へ放り出されてしまう。脚も彼に絡み付く。
「久城さん……」
 密着が深くなる。打ち込まれて抽送される楔も膨張してさらに深まった。
「きもち、いいです!せんせ、あっあッ!」
 頭の芯にまで響く鈍い快感が腹奥で渦を巻く。摩擦を敏感に知覚する。熱くなった。収斂してさらに牡を煽り、真上から聞こえる淡白げな生天目の劣情に満ちた喘ぎが彼女を昂らせる。
「持っていかないで……」
 上下に揺れる男が、加霞の耳元に顔を伏せ、悲哀の色を帯びながら囁いた。譫言うわごとめいている。彼女はそれを聞くと、弱々しさを見せた彼を強く掻き抱いた。爪をその皮膚にさせず、両手が滑る。
「久城さ……んっ、」
「、出します、か?」
「ごめんなさい……―」
 彼女の背中にあった腕が徐々に後頭部のほうへ持ち上がり、極限まで密着して彼はスキンの中に放精する。心臓が臍の下に移動したかのように、内部でリズムを刻んでいる。
 彼が自分の身体で果てている。その実感で加霞も妖異な興奮を覚えた。官能よりも感情に訴えかけるような欲情を催している。
「ごめ………んなさい………」
 薄い肉体なりの重みを感じたと思うと、彼は肘を張って上体を起こす。謝りながら快感の余韻に浸って蠕動している。理性を取り戻すのは早いようだが、肉体は本能の虜になっている様がまた加霞におかしな欲熱を与えた。
「気持ちよかったなら、良かったです」
「久城さんは……?」
「よかったですよ」
「本当に……?
 真横にある腕に頬擦りする。久城家のボディソープが薫る。彼の匂いもした。
「ですが、久城さんは……まだ…………」
「でも、気持ちよかったです」
「最後まで気持ち良くなって欲しいです。おれでは、だめそうですか」
 それは卑下や気遣いというよりも確認だった。真っ直ぐな眼差しだった。照れや恥じ入ることのほうが野暮だと言わんばかりだ。
「だめでは、ないと思いますけれど…………そんな目で、見ないでください」
 加霞は自身の顔を覆ってから、彼の目元に手を伸ばした。視界を奪う。
「アダルトビデオでは簡単に終わりますが、あれは演技なのでしょう?女性は難しいと聞きました。すみません、おれが先に…………」
「いいんです。最後まではいけませんでしたが、気持ちよかったのは本当です。生天目先生……」
 戸惑っている生天目にしがみつく。白濁液を留めるゴム袋を処理する。口を縛ってゴミ箱に放ると、もう一度薄い身体に抱きついて体勢を変えた。彼を寝かせ、その薄い胸板をシーツと枕にする。
「久城さん……」
 汗ばんでいる手を遊ぶ。
「先生……もう眠いですか?」
「まだ冴えてます。むしろ、眠れそうにない」
「先生」
「なんですか」
 身を重ねていた時は汗ばんでいても、すぐに冷たくなっている青白い肌が、不思議と肌理きめに沿う。
「幸せだと言ってくださったのに、寄り添えなくてすみません」
「おれが莫迦だっただけです。ご不幸があったばかりの久城さんに言うべきではありませんでした。ただ……今すぐにとは言いません。久城さんがいかに久城を愛していたのか、分かっていないつもりはないんです。ただ、ただ……長いこと引き摺らないでください」
 加霞は指を組んだり絡めたり、握ったりしながら遊んでいた手から持主の顔へ目を滑らせた。
「分かっています」
「……説教をするつもりはないんです。ただ久城さんが、自分の仕合わせを恐れて、様々な機会から逃げはしないかと思うと…………悲しくなってしまったんです」
「自分と重なりましたか」
 彼女はまた節くれだった男の指で遊ぶ。汗がひき、乾燥している冷たい手だった。爪は綺麗に切り揃えてあるが、縦筋や逆剥けに生活感があって気に入った。弟は温かく、子供みたいな手で、ぺたぺたとした質感あった。双子はどちらにしてもネイルカラーが施されていた。片方はホストクラブでホストをしているというし、片方はアイドルだ。そうでなくとも大学生だ。今のうちにとばかりに爪に色を付けて遊んでいたかも知れない。
「重なったりはしていません。おれはそんな殊勝な兄ではありませんでした。けれど久城さんは違う。重なったのなら………おれは仕合わせです。今だけは……今だけは、仕合わせを得たことを、否定できません」
 そう言っている面持ちは思い詰めている。本当に幸福だというのなら、その現状は教え子の死の上に成り立っている。加霞もそれが分かっている。彼に対する怒りは湧かなかった。弟の死を喜んでいるわけではないのは分かっている。
 彼女は俯いた。生天目が幸せだというのを否定することもできず、また否定したくなかった。だがそこには、弟の死がある。弟の死と向き合わされる。
「寝ましょう、このまま。寒いですか?」
「まだ寝たくないです。もう少し久城さんと居たい」
 遊んでいた指が彼女の手の中をすり抜ける。
「居るじゃないですか、わたしと……」
「夢をみます。おれは毎日、夢を見るんですよ。そうしたら久城さんと会えない」
「どんな夢をみるんですか」
「つまらない夢です」
 遊ばれるのから逃げた手は、遊んでいた女の腕や肩を撫で摩る。彼の愛猫になった気分だ。
「つまらない夢ですか」
「夢は願望の表れだなんて言われているうちは、誰にも打ち明けられない夢です」
「わたしは嫌な夢もみますよ。酷いことをされる夢です。あれは願望とは言えません…………生天目先生が出てきたこともあるんですけれど…………あの時は、あの子のこと、先生に頼るしかなかったから…………」
 外方向いていた生天目が首をもたげる。表情に乏しいと思っていた顔から、いつの間にか微細な色が分かるようになっていた。
「おれは、久城さんの頼りになれていたんですか」
「わたし言いましたよ。生天目先生のおかげです、お世話になりました、って」
「社交辞令かと思って……」
「社交辞令の中に、たまには本音もあります」
 肩を撫でていた薄く硬い手は彼女の腕を辿り、大好きな手繋ぎをする。行動パターンに可愛らしさを感じてしまった。
「おれは、社交辞令、だから嫌いなんです。本当に伝えたいときに本心が伝わらなくなる……」
 彼の鼻先はまた外方を向くが、視線だけがちらちらと加霞を窺った。
「……夢の中のおれは、どうでしたか。無礼はしませんでしたか」
「今だから言えますが、夢の中でも生天目先生は、優しくわたしを抱いてくれました」
「夢の中のおれのほうが巧かったら、なんだか嫌です」
「巧さを分かるほど、わたしもあまり、そちらのほうには長けていません」
 ほんのわずかに拗ねているらしい生天目の唇に近付こうと、肌理細かな身体を辿る。接した胸が滑りたわみ弾む。男は目を見開いて口元を押さえた直後、顔を背ける。常時澄ました顔のとっつきにくい教師という図像が脆くも崩れ去った。
「胸………」
 掠れた声で生天目が呟く。
「ごめんなさい。はしたなかったですね」
「い、いいえ……あの………いや、柔らかくて……」
 先程まで触っていたのを忘れたみたいだった。視線だけ寄越される。ちらちらと、忙しないのがダウンライトの影から分かる。
「そういうの興味無さそうでしたから」
「あります。言う必要がなかったから言わなかっただけです。訊かれたら答えますよ。答えたでしょう……?」
「それもそうですね。そのとおりです」
 加霞はへらりと軽く笑って馴染む肌に寝る。
「夢は頭の中の掃除ですから……気にしなくていいと思います―だなんて、他の人には言えるんですが自分のこととなると気にしてしまうんです」
 片腕が彼女の背に回る。視界が半転する。ベッドが軋み、真上に生天目の顔がある。
「でも、久城さんを抱いて寝たら、そんな夢をみなくても済むかも知れませんね」
「試してみますか?」
「素敵な提案ですが、寝る前に心残りがあります」
「心残り……ですか?」
 男の影絵がこくりと頷く。
「久城さんが最後まで気持ち良くなっていません」
 腕立て伏せの如く彼は肘を曲げ唇を吸う。嗅ぎ慣れた匂いに汗が混じり生天目にアレンジされている。弟の教師と裸で重なり合っている。その意識が鮮明になる。
「胸を触ります」
 彼女は頷く。律儀に許可を取るこの教師に笑いを堪えた。オーガズムは遠のくが悪くなかった。彼の触り方も己の好奇心を満たすようなものではなく、あくまで相手の女への気遣いが大半を占め、それから残りは意地の悪さだ。キスをしながら焦らされ、張り詰める胸の先端をくすぐる。笑っていられたのは刹那的な一瞬であった。ホストクラブのホストや現役アイドルほどケアされていない無骨な指の感触が生々しい。
「ぅ、ぁん……」
 口腔に2枚ある舌を甘く噛む。身動みじろぐと肌と肌が擦れ合った。彼の下半身の熱塊に気付いて手を伸ばしたがわずかに届きそうになかった。
「久城さん……」
 離れた唇から伸びる細い蜜糸が目に入った。
「おっぱい弱いから……あんまり、されると、………」
 彼女は顔を半分隠して火照った肌を拭う。
「ご自分で触れますか」
「恥ずかしい……です、」
「綺麗です」
 顔にある指の背に口がスタンプされる。
「あ………ぁっ、」
 胸から絶えず送られてくる快感は睡魔にも似ていた。だが呑まれずにいるのはランダムに落ちてくるキスのせいだ。
「せんせ……おっぱい、わたし………」
「そろそろ下を触りますか」
 純粋な彼の問いすらも意地が悪く感じられる。羞恥心を煽られるが、これもやはり悪くなかった。生天目の前に恥ずかしい自身を晒すことに悦びの念が芽吹いている。
「そのまま………してくださ……っ!あっ、!ぁあッ」
 指と指で摘まれ擦り合わされるのに弱かった。読まれているのかと疑うほど的確な触り方と力加減に彼女の限界はもう近い。
「せんせ………っ、あっ、も……だめ、だめで、す………っぁっあっ!」
「だめですか?ではやめます」
 本気なのか意地が悪いのかもう分からない。両手がぱっと胸から離れた。彼女は泥沼のような官能からやっと息が吐けた一方で、引き離されていく絶頂に落胆する。下腹部が疼いている。空虚な感じがする。滾るものを待ち侘びている。その形をきっちりと覚えている。
「なばた、め………せ、んせ……」
「はい」
「挿れて………挿れて、ください………」
 ほんの一瞬、間があった。加霞が自分で何を口走ったのか理解するには十分だった。全身に火が付いたようだった。恥じらいなのか春情なのか、区別もつかない。
「……少し、待ってください」
 避妊具の袋を破る冷静な生天目を押し倒す。
「先生……」
「だめです、付けないと。大切にするって言いました」
 冷静なことを言う口を口で黙らせる。彼の舌を突ついた。
「んっ、んっぁ、」
 自分で胸を揉む。先端を自ら刺激するまでには至らなかった。むしろ更なる快楽を欲する小さな箇所を誤魔化すように膨らみを押さえているようだった。
「せ………んせ、」
 男の中でも痩せ型な分、隆起の際立った喉から聞こえる嚥下の音が、いやに淫らだった。猟奇的な感じがある。それ却って加霞の保護欲と表裏一体の征服欲を剥き出しにする。
「んっ………久城さん、いいですよ」
 彼女はおそるおそる振り返り、避妊具に包まれた生天目の牡芯を認めた。自らそこに腰を落とす。
「あ………ぁあ……!」
 待ち望んだ快感が脳天まで突き抜けていく。ぼんやりした。体内に迎えた猛りを食い締める。
「久城さ……ん!」
「なば、ためせ………んせ、」
 彼女は生天目の腰の上でゆっくり浮沈を繰り返すが、やがて、肩で息をして項垂れた。快楽を身体が恐れている。停滞している腰を知った質感の掌が押さえた。ただ、先程とは違い汗ばんで熱を帯びていた。
「せんせ………だめ、おかしくな、あっあっああああ!―……」
 苛烈な突き上げだった。瞬く間に絶頂を迎え、意識を失いかけたが、それでは初めての男が心配をする。彼女はなんとか意識を繋ぎ留めた。固い抱き枕を宥めながら、その上で眠りに墜落する。



 兄弟2人を同時に失った夫婦が目の前で土下座をしている。加害者遺族ともいいきれない、被害者遺族でもある、複雑な立場の者たちだった。まだ当人たちもその悲しみとは向き合えていないだろう。
 加霞は言葉を失っていた。感情も失っていた。白髪混じりの2つ並ぶ頭頂部を呆然と凝らしていた。ただ視界に入るものを受け入れるだけで、そこに何の思案も発見もない。果たして本当に弟は死んだのか。そればかりである。現実を疑っていた。何度も殺されかけた状況から切り抜けてきた。突き飛ばされて頭を打ったこともあれば、蒸し殺されかけたこともある。熱湯をかけられたこともあれば、川に落とされたこともある。怪我もした。骨折も大火傷もした。流行り病に罹ったこともある。すべて切り抜けてきた。医者や薬に頼り、付き切りの看病もしたけれど、元気に過ごしていた。それが、死体となって帰ってきた。水死体となって。発見が早かったために激しい損壊は免れたとは後で聞いたが、それでも骸となっていた。眠っているのかと叩き起こしたくなっていたくせ、その蝋人形みたいなのを叩くことなどできなかった。被せられた白い布を捲った時の苦しみが甦る。死化粧を施されても色の悪い唇にジュースを塗ったときの悲しみが鮮明にそこにある。ほぼ毎日持たせていた弁当箱の箸を柩に納めたときのやるせなさが再現されている。火葬場の炉が閉まったときの絶望が……


 目が覚める。日の光で薄暗い。ダウンライトは消されていた。隣には生天目が寝ている。1人用のベッドに2人で寝ているのだから狭くないはずがなかった。布団をすべて捲らないように気を遣い、彼女はベッドの端に座る。ほんのりと腰が痛む。
 目元を拭った。冷静になる。2人の息子を突然失っただけでなく、加害者遺族同様になってしまった夫婦に対して、何かしらかける言葉があったはずだ。責める言葉もなければ悼む言葉もかけられなかった。怒りは不思議と湧かなかった。あまりにも信じられず、他人事にさえなりかけ、夫婦には非がないことを理解していた。或いは運転手にすらも非はなかったかも知れない。事故である。ただ、後悔だけがあった。快く送り出してしまった。
 高い衣擦れの音が後ろから聞こえた。加霞は裸のまま抱き竦められる。互いに布の感触はない。少し冷たいくらいの生温かさが背中に籠もる。
「おはようございます」
「おはようございます、生天目先生」
 振り向くよりもはやく、吸血鬼の如く生天目は項垂れて彼女の肩に頭を預けた。そこで寝る気らしい。
「寝違えてしまいますよ」
「久城さんが、どこかに行ってしまったのかと思って焦りました」
「どこにも行きません」
「おれとも?」
 首元でクロスした腕に彼女は頭を凭せ掛ける。
「先生となら、別ですけれど」
 悪夢の息苦しさが解けていく。しかし無かったことにはできなかった。弟のいない現実は続いている。背中の温もりがその証だった。
「先生……」
「寝ましょう。もう少し、寝ていたい。久城さんと」
 髪に頬擦りされ、後ろに引かれ、加霞は掛布団の中に吸われていった。
「手、握りたいです」
 乾いた音が曇って聞こえる。彼の腕がシーツの繊維を擦っている。
「好きですね、手、握るの」
「久城さん、嫌でしたか」
「嫌ではないですけれど、生天目先生は、もう好きな領域だなって」
 彼女のほうでも徘徊している節くれだった指を探す。発見した。期待した質感を捕まえる。
「言葉には限界がありますから。口下手の自覚もありますし」
 彼は加霞のほうを見てへらへらと笑った。見たことのない新しい笑みはどこか偽悪的でニヒルな感じを纏っている。
「手を握っておけばいいと思っているわけではありませんよ?」
 生天目の緩やかな表情は今にも透けてしまいそうだった。腕を絡ませ、肩に頭を押し付ける。擦り寄る猫みたいにセルフサービスで髪を撫でた。いつの間にか熱気を握っていた。蒸れている。
「でも今するのはおれの判断ミスでした。朝からムラムラしちゃいます」
「しますか」
「朝ですよ」
「それもそうですね。もう少し寝たら、お風呂入りましょう」
 あっさりと引くと握られる力が強くなった。手は繋いだまま空いたほうの手が加霞の肩に伸びる。
「なんですか」
「したくなりました」
「朝ですよ」
 彼と同じことを言い返す。生天目は唇を尖らせる。
「自分でしてきます」
「冗談です。生天目先生の好きにしていいですよ。すごく気を遣ってもらったので……足りなかったんじゃないかなって思って」
 加霞の視界が急に翳る。後頭部を押され、肌理細かな皮膚に額や鼻を押し付けられる。知った匂いと他人の匂いが混ざる。汗の匂いもアクセントを作っている。
「生天目先生……?」
「抱きたいは、抱きたいんですが………なんだかすごく、心が気持ち良い」
 彼は抱擁したまま動かない。そのまま寝たのかも知れない。
「生天目先生、寝たんですか」
「寝てません」
 そう言いながらやがて頭上から聞こえたのは寝息である。

 結局共に目が覚めたのは昼前だった。風呂前に脱衣所で身体を重ねる。後ろから貫かれ、腹を捩って交わした深いキスは離れる際に橋を架け、呆気なく崩壊する。生天目の片手は彼女の手を離さずシートベルトみたいだった。片手で押さえられた腰に男の硬い下半身が力強くぶつかる。彼女の丸い尻が弾んだ。粘着質な接合音と嬌声が狭い空間に沁み入る。耳元で男が息を詰めた。脈動を感じるのと同時に加霞も下肢を戦慄かせる。自ら生天目に尻を押し出す。体内に迸りは届かないが、その牡の鼓動を媚肉で扱く。
「久城さ………ん」
「んっぁ………一緒、でしたね……」
 終わったかと思いきや、吐精した直後だというのにまだ硬度を保っている。彼女は身体を離した。抜けていく時に冷たさを感じる。
「久城さん……」
 瞳と瞳を一直線に繋いだまま彼のものを覆うゴム袋を処理する。
「手でします。いいですか?」
「はい……」
 ほんのりと頬を淡く染めた教師に口付ける。背伸びをしたまま彼を壁に押しやり、キスを続けながら手淫した。上からも下からも水音がする。風呂場からもお湯を注ぐ音が響いてくる。舌を絡めているだけで加霞も気持ち良くなってしまった。
「久城さ………っ」
 彼の切羽詰まった声と共に、湯の溢れる感じがあった。意地悪をしたように彼女はすっと今にも精を噴きそうな牡芯から手を放した。
「久城さ……ん、」
「お湯を止めてきますから、我慢していてください。ちょっとだけ」
 加霞は淫らな教師に背を向け風呂場に出る。湯はまだ溢れていたなかったけれども、湯船に入った瞬間に氾濫するだろう。蛇口を捻る。戻ろう踵を返すと、寂しがりの子犬みたいなのが真後ろで腕を広げて待っていた。捕まる。手を握られ、冷たいタイルに背中を押しやられ、すぐさま温かくなる。
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