18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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雨と無知と蜜と罰と 弟双子/気紛れ弟/クール弟

雨と無知と蜜と罰と 20

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 乱れたブラジャーからこぼれた膨らみが叩き込まれる律動に合わせて大きく揺れた。執拗に舐めねぶられた先端部は張り詰め、昨晩塗った保湿クリームの効果を失い乾燥していた。それでいて加霞かすみの全身はしっとりと汗ばんでいる。ベッドがぎしぎし呻めき、牡になった弟のリズムを外部にも知らせる。
「姉貴………っ、」
 汗を落とし、雫恋かれんは夢中になって姉の唇を吸った。
「んあ……っあっぁ……」
 濡れた肩を遠ざけようとする手は頭上で纏められた。弟の猫でもしないような愛しそうに細まる目を恐れる。揶揄でも冷やかしでもない情を見出してしまう。受け取れないものを往なし方も知れずに注がれている。
「姉貴………気持ちいい…………」
 舌を舌で遊んだ後、彼は姉の耳朶にも口元を寄せた。腰がぐいとさらに進められ、加霞は激しく打ち付けられる。中で往復する感覚は分かるものの、熱によって肉と肉は融解し癒着したような感じもある。息苦しさに似た殴打に近い快楽に意識的な拒否はもうできなかった。あとは身体が過ぎた快感を恐れて牡を嫌がる。血の繋がりはないが姉弟で交合まぐわっていることに対する倫理観と潔癖性はもう働かなかった。粘着質な水音と衣擦れ、ベッドの軋みと荒々しい息遣いがさらに2人を追い立てる。
「かれ、んちゃ………っ、あっ、あっ、んッ」
 体内で暴れる楔を不本意に引き絞ってしまう。接触部分がさらに広くなり、最奥が滲む。牡のほうでも愛しい女に甘い声で呼ばれ、侵入した器官が膨れ上がり速度を増した。
「あっ!あァ、、、」
 加霞は身悶えた。収縮が雫恋の漲りを扱く。
「………―っ!」
 瀞んでおきながらきつい肉淫に晒されて彼は小さく唸ると姉の身体に落ちてしまった。
「や………っぁ、」
 注がれていく粘液から逃げようとしても汗ばんだ身体の下から抜け出すことはできなかった。腰を強く当てられ、内部全域に塗りたくらんばかりに緩く動きはじめる。神経を剥き出しにされたのかと思うほど感度の上がった狭筒を擦られ、加霞は嬌声に喉を痛めた。
「姉貴………」
 甘えた調子で弟は彼女に頬を擦り寄せる。健気けなげな感じがあるが、加霞にとっては可愛らしさの欠片もない相手である。
「はな……れて、………」
 背中が蒸れている。弟の身体も汗ばんで熱く、不愉快だ。オーガズムの波がまだ引き切っていなくとも彼への忌避感はそれなりにはっきりしている。
「姉貴…………」
 姉の意向など構いもせず、雫恋は彼女の腕を放すと腰を抱き寄せ、キスに夢中になった。加霞の唇を舐め、舌を吸うことに没頭する。情欲を満たしたはずだ。しかし彼に満たされた様子はない。姉を串刺しにしているものはまだ剛直を保っている。
「ぅ………んっ、………」
 一度深々と挿した雫恋の腰が徐ろに揺れる。それでいて濃密な口付けはやめない。彼は姉の口を給水所か何かと勘違いしている猫だった。
 挿入が解かれることはないまま、3度目の射精が終わる頃には外の色も変わってきている。著しく体力を消耗し、加霞にはすでに雫恋を押し退ける意思も湧かなかった。
「姉貴………気持ちい…………」
 化粧してあることも厭わずに弟は情けない犬みたいにピンク色の舌を姉の顔に這わせた。べろべろに舐め回し、吸い、啄む。4度目に突入するらしかった。
「も、………や、ぁ………も………やぁっ、ん……ッ」
 彼女は顔を隠し、寝るのを邪魔された子供みたいな譫言を繰り返す。そういう姉を雫恋は蕩けきった目で見下ろし、鼓動に近い間隔で穿つ。
「ぁ、ぁうぅ………」
「姉貴、姉貴、」
 徐々にピストン運動は速度を上げていく。苦しそうに弟は姉を呼び続ける。彼女の腰に節くれだった指が食い込み、濡れた楔が変色していく粘液を伴って2人の間を伸縮する。
「も、ムリ、だめ………っ、もう……ああ!」
 加霞は苛烈な絶頂に身体をしならせた。背筋が身を灼く快楽で溶けてしまいそうだった。
「早漏だよね、姉貴。俺もまたイっていい?」
 許可を得るような体裁で、それは宣言だった。感度の下がることなく上がったままの蜜肉を擦られ、溢水する奥を突かれ、悦楽という強大な負荷がかかった。彼の爆発と共に加霞の意識も雲散してしまう。



 軽い頭痛を覚え目蓋が開いた。見慣れない高さの天井がまず視界に入った。周りを見渡せば部屋が薄ぼんやりしてる。ふと嵐恋あれんのことが思い出された。飛び起きる。ぎし、と軋る音がする。掌で何かを踏んだ。
「痛いよ、姉貴」
 隣から聞こえた声に反応ひとつ示さず、加霞は端末に手を伸ばした。
「何する気?姉貴はここでお泊まりするんだよ?逃げるとかダメだから」
 手首を掴まれ、スマートフォンの入ったバッグとは反対方向に捻られる。
「あーくんに連絡させて。心配させちゃうから……」
「させとけば?」
 雫恋は首を捻った。そして加霞を放すやいなや、バッグの上辺に置かれた端末をベッドサイドの抽斗ひきだしに入れてしまった。鍵まで掛ける。
「返してよ!返して……!」
 雫恋に縋り付いた。冷たく見下ろされている。
「現代人はスマホ依存症で良くないよ。スマホ持ってなかった頃を思い出してよ。スマホの代わりに俺のこと見て?」
 この男に嵐恋と連絡をとる機能は備わっていない。見ても意義はない。
「あーくんのごはんは?」
「は?自分で作れるでしょ。いくつになったんだよ。俺があれくらいのときには自炊してたんだけど?」
「わたしの帰りを待って、何も食べられないかも知れないでしょう……」
「面倒臭っ。せっかく姉貴といんのに嵐恋あいつのことで喧嘩しなきゃならないの?じゃあ弁当届くように手配してあげるよ。それでいい?」
 弟を睨むが、雫恋から見れば上目遣いなのだろう。彼はむっとした顔をして自分のスマートフォンを手にする。
「わたしの、返してよ。連絡させて!」
「やだ。姉貴は俺のだろ。嵐恋のことなんて放っておけよ」
「雫恋ちゃん!」
 操作する弟に縋り付き、彼の端末を奪おうと試みた。空いた腕に抱き寄せられる。
「姉貴から来てくれるの?大胆じゃん」
「ちが、」
「ねぇ、俺のこと好きって言って、姉貴からキスしてくれたら返してあげる。霙恋えれんより愛してるって言えよ」
 咄嗟に弟の胸板を突っ撥ねた。
「それが答え?可愛いあーくんのためならプライドなんか捨ててよね。いっぱいおまんこされてド派手にイきまくってプライドなんかもう無いでしょ?」
 乾いた笑い声を上げ、雫恋は部屋の電気を点けた。加霞はわずかに目を細める。そうしているうちに脱がされたものを掻き集められ、没収されてしまった。加霞にはブラジャーと揃いのショーツしか残されていない。
「やめて……」
「姉貴に似合う服買ったんだ。着てよ。絶対可愛い」
 雫恋は下の階への足音も気にせずに洗濯機へ駆けていった。そしてすぐに戻ってくる。嬉々としてクロゼットから引き出したのはホルターネックで丈の短く、露出の多いワンピースだった。胴体とかろうじて下着を隠す程度にしか布がない。
「いや!」
「じゃあこっちは?少し子供服ロリっぽい?でも俺、姉貴のこういう姿見たい。ギャップ?今も今でドエロいけど、昔は制服姿の姉貴でヌきまくったな」
 次に取り出されたのはどうみても本物ではないコスチュームプレイ用のセーラー服である。生地からして数年ほぼ毎日着て耐えられるものではない。色味も鮮やかな、日常に溶け込まない不自然な彩度である。
「本当に最低……」
「あとでバニーガールセックスもしよう」
 彼はバニーガールのコスチュームも揃えていた。加霞は両腕で自身を抱く。
「そう引くなよ。霙恋なんか、ウェディングドレスでしたいって言ってたぞ。それよかノーマルでしょ」
 雫恋は適当に何着か見せた。他にはワインレッドのベビードールや胸元を見せる切り替えのあるニットワンピース、シースルーの羽織である。どれも部屋着として適さない。
「2人きりなんだから肌見せろよ」
「………」
 加霞は唇を噛んでへらへらと笑っている弟を半目で見た。姉に対する蔑視が甚だしい。
「そんな嫌がるなら、姉貴に買ったもの着る必要ないよね」
 相変わらず彼の眼差しはいやらしかった。女をどう嬲ろうか、まだ満ち足りていない欲求に妖しく光っている。
「どういうこと……」
 雫恋は屈み、抽斗式になっている衣装ケースのユニットからドレスシャツを取った。
「………それって、」
 嫌悪を催す。加霞は眉根を寄せた。雫恋は片方の口角を吊り上げている。
「カレシャツ、しろよ。姉貴が何でもかんでも頭ごなしに拒否するからいけないんだろ。着ろよ。第三ボタンまで開けて」
「嫌。フツーの部屋着とかないの?」
「あるけどさ、つまんないじゃん。せっかく姉貴いんのにそんなの。姉貴が悪いんだろ?俺と遊ばないから。俺のところに来てくれないから。俺を拒むから」
 受け取らない姉に雫恋は痺れを切らした。シャツを開き、無理矢理着させる。
「いやだよ!」
「あのね、姉貴。俺は別に姉貴のその姿でも何も困らないよ。姉貴の貴重なブラジャー姿だし。ただクーラー点けてるし、肌寒いかなって。嫌なら着なくていいよ。俺は姉貴が触れるならどっちでも同じなんだし」
 臍を曲げたような物言いだったが、彼は力尽くで姉にシャツを着せ、加霞の額や頬に接吻する。
「頼まれて土下座されたら誰にでもやらせちゃいそうな姉貴が心配だったけど、そこまで威勢がいいなら安心だわ。俺の前だけ?それもそれで嬉しいけど」
「そんなわけ……」
「でも愛しのあーくんの危機をちらつかされたら、やらせるでしょ。現に嵐恋に知られたくないから俺たちにやられちゃってるんじゃないの。他の男にされてたらムカつくよ。外に出したくない。姉貴、俺の家に暮らせよ。面倒看るし、養える」
 ボタンを下から閉めていく。膨らみによって張った胸元に薄らとブラジャーが透けた。
「女上司モノ、いいじゃん。踏まれたいよ。いつもはゴミみたいに見下してくるクセに、俺のことちゃんと認識して、俺を俺とみた上で、俺のを虐めてくるんだよな。姉貴にぴったり。俺は姉貴に踏まれて乗られて舐めるように強要されたいけど、姉貴は?姉貴は俺のこと踏みたい?顔騎してよ」
「雫恋ちゃんとは一緒にいたくない!」
 シャツの中に入って胸を触る雫恋の手を掴んで払う。後退った。
「は?」
「帰らせて!スマホも返して」
「やだよ。姉貴は俺と暮らすの。養うって言ってるじゃん。俺は嫌ってことは、霙恋はいいのかよ。なんで?1億円プレーヤーのテクニックにやられちゃったの?」
 果たして霙恋が本当に1億円プレーヤーであるのか信憑性に欠けた。加霞にとって信じる要素が何ひとつない。顔面が端整で多少小綺麗なだけではやっていけない世界だということしか知らない。彼は口数少なく陰気だ。煌びやかな印象のあるその業界で稼げているとは思えない。雫恋のはったりであり、吹かしであり、随分と極端に盛った話に違いない。
「弟にそんなことなるわけないでしょう!」
「どうかな。弟とのセックスでイく女なんだから」
 反論のしようのないことを言われては黙るほかなかった。
「姉でイけて姉をイかせられる弟と、弟でイける姉。俺たちいい姉弟きょうだいじゃない?世間体とかどうでもいい。俺の恋人おんなになって」
「そんな都合のいいことばかり言って、アイドルはどうするの?」
 今度は加霞が冷ややかな笑みを作った。
「辞めようか?そうしたら事務所の役員希望して裏方になるよ。少し給料は下がるけど、貯金はあるし。それともワタシノカレシはアイドルだって自慢したい?そうしたらアイドル続けるよ。でもテレビで公表させて?姉弟きょうだいで付き合ってるって。結婚、まで言っちゃおうか」
「そんなの世間が許すはずない」
 当事者でありながら加霞も不快感を覚えてしまう。血の繋がりはない。だがやはり「姉弟」という観念に「男女の仲」は結びつかないのだ。点と点が結びついたとき、そこには社会通念的な不潔を覚えることになるだろう。
「改宗でもする?」
 血は繋がっていない。もしかすると法律の範囲で結婚は可能なのかも知れない。だがやはり世間的には「姉弟」である。信仰の自由にかこつけ、同胞きょうだい婚を可とした宗教に入信したところで世間の目は変わらないどころか、むしろ奇異の眼差しを向けられるだろう。
「アイドルって人気商売でしょう?個人の幸せなんて求めないで」
 何より加霞に、彼と交際し結婚する意思がまるきりない。
「は?」
「それがアイドルじゃないの……?美味しいもの食べて綺麗な服着て、行きたいところ行けばいいけれど、ファンのこと裏切る欲求シアワセは、ダメだよ…………」
 いつの日か足利あしかが尊由起たかゆきが言っていた。熱愛報道を仄めかされたとき、そのようなアイドル観を語っていた。
「ふぅん。じゃあ俺のオンナとして、日陰の道を歩いて」
 雫恋はひょいひょいと距離を詰め、所有物よろしく彼女に触れた。
「だからもうしないの、そういうこと」
「バレなきゃ無かったも同然だよ。バレなきゃいいし、バレたら姉貴がオカズに使われそうでやだ。俺だってオカズに使われるかも知れない。いいの?俺が女のオナニーのオカズにされても」
「知らない……っ」
「姉貴にならいいよ。俺のこと考えて、ひとりでしても。っていうか俺のこと想ってして。姉貴の中の俺、ちゃんとかっこいい?」
 髪に伸びかけた手を加霞は払い落としてしまった。
蜂須賀はちすかでしてるの?」
「おかしなこと言わないで」
 断固とした拒否にめげず、雫恋は姉へのスキンシップをやめない。小さな攻防があった。だがスマートフォンを封じた抽斗が低く振動し、加霞は大きな隙を作ってしまう。嵐恋に違いない。雫恋の勝利かに思われたが彼女は弟の腕をすり抜ける。
「あーくんからだ」
「姉貴、」
「開けて、お願い。開けて……」
 抽斗を引っ掻いた。時間帯からしてもうに嵐恋は帰宅し、夕食の品々が匂いで判明する頃である。一人寂しがってはいないか。今朝も元気がなかった。ふさぎ込んでいる感じがあった。哀れな末弟を放っておけない。
「開けて……あーくんが…………」
「開けて欲しかったら?」
 まだ加霞が実家で暮らし仲の良いとはいえない4人で姉弟をやっていた頃にもこういうやり取りがあった。猛暑日の高温に達した倉庫に隠れんぼと称して嵐恋を閉じ込めたときだ。
―開けて欲しかったら奴隷になれよ、姉ちゃん。
 確か双子のどちらかが言っていた。同じ顔、同じ声、同じ服。どちらがどちらでも両方、小憎らしく可愛げのない弟であることは変わらなかった。
「開けて……欲しかったら………」
―オレたちとも遊ぶって誓えよ。
―嵐恋とばっか遊ぶな。
 加霞は雫恋の冷めきった双眸を見つめてしまった。
「好きだよ、雫恋ちゃん」
「で?」
「………」
 加霞は背伸びをした。自分から次弟の口角に唇を当てる。
「やだ。そんなのじゃ」
 あの時は戸惑った。弟たちの意地の悪さに。結局嵐恋は倉庫の中でぐったりし、意識朦朧になるくらいの熱中症を起こしていた。また手遅れになる。今度はどう手遅れになるのか想像もつかなかった。
「好………き」
「誰より?」
「霙恋ちゃん………」
「それから?」
 彼は兄を蹴落とさせると、自分の唇をタップした。加霞はまた背伸びをする。彼の肩に手をつき、爪先で立った。彼女は次弟の唇を唇で塞ぐ。
「ムカつくよ」
「………お願い…………」
「嵐恋のためならそんなことまでするんだ。変態淫乱エロ女」
 悪態を吐きながら彼は抽斗の鍵を開けた。加霞は拳を握り締める。屈辱を感じていないわけがなかった。嵐恋さえ関わっていなければこのような真似はしなかった。スマートフォンが戻ってきたことでは到底紛らわせない。しかし悔しさに踏みとどまってもいられない。こうしている間にも嵐恋を一人にしているのだ。意外にも振動しなくなったスマートフォンに表示されたのは舞夏まなつの番号だった。着信拒否に入れたのを解除し、登録し直してある。
「なんで蜂須賀から電話くるの」
「いいでしょ。別に」
 掛け直すと舞夏はすぐに出た。
舞夏まなちゃん、どうしたの?」
『あ、加霞サン、無事?よかった。ビックリしちゃった。嵐恋くんから連絡来てさ、帰ってきてないっていうから』
 からからと朗らかな調子だった。能天気でさえある。
「そうなんだ。ごめんなさい、舞夏ちゃんのことまで巻き込んじゃって……今日は帰れそうになくて……ちゃんと連絡すればよかったのだけれど、手が離せなくて、」
 平然と嘘を吐いてしまった。
『そっか……嫌じゃなかったら、オレ、嵐恋くんの様子見てこよっか?』
「ごめんなさい、頼んでいい?家のものは好きに使ってくれて構わないから」
『うん、おっけ。じゃあちょろっと行ってきます。加霞サン、あんまり無理しなさんな』
 彼は仕事か何かで帰れないと思っているらしかった。詮索されないことはありがたい。だが労いの言葉が沁みる。
「この埋め合わせは、ちゃんと……」
「埋め合わせ?埋め合わせって何させる気」
 どくん、と鼓動が大きくなった。雫恋が口を挟む。端末のマイクはそれを拾う。
『……誰かと一緒?』
「俺だけど。蜂須賀?」
『えーっと……』
 声のみでは分からなかったらしい。雫恋の甘たるい声質はそう特徴的でもない。会わなければすぐに忘れるだろう。
「雫恋ちゃんと一緒にいて……」
『あ、ああ!雫恋くんか。久しぶり』
「埋め合わせって、姉貴に何させる気」
 加霞は雫恋からスマートフォンを遠ざける。
「ごめんね、舞夏ちゃん。あーくんのことを頼みます。埋め合わせは……」
 何か美味しいものを奢るか、作るかするつもりだ。
『デートがいい。デートっていうか……家の中でも、どこでも、加霞サンと1日過ごせたら』
 雫恋が乱入したときとは違う、しかし焦燥に似たものが胸の奥に張り付いた。顔が火照る。身体の内部一帯が疼く。舞夏の姿を思い描いていた。
「う、うん……あ、えっと、あーくんのこと…………」
『うん。晩飯まだならなんか作るし。オレもまだだから』
「お願いします。行ってらっしゃいって、ヘンだけど……」 
『おう、行ってきまぁす』
 また一言二言交わして通話を切った。途端に手から端末が引き抜かれ、ベッドに放り投げられた。
「埋め合わせって、何?何する気?おまんこ貸すの?蜂須賀なんかに?」
「違う!あなたには関係ない」
「あるよ、関係。蜂須賀と穴兄弟になるとかやだし、姉貴がアイツに脚開くとかムリなんだけど」
「そんなことしない」
 昏く据わった目付きを警戒した。一段低くなった声音と消え失せた表情も剣呑な感じだった。
「だってアイツ、姉貴のこと好きじゃん。好きな女相手でしょ。犯したいし中出ししてあわよくば孕ませたい、くらいは思ってるよ。男ってそういうもんだろ」
「それは昔の話で……舞夏ちゃんは、そんなんじゃない」
「そういうもんだよ?男の俺が言ってるんだから、白馬の王子様にわーきゃーヒスったみたいに騒ぎたい女の姉貴に男の生理の何が分かるのさ?顔見て可愛いかブスか、勃つか勃たないか、付き合いたいか付き合いたくないか、これしか考えてないよ、男なんて。蜂須賀もそうじゃない?どうやってアンタのナカにゴム無しで入ろっかな、そればっかだと思うけど?」
「やめて、そういう話……思うだけなら勝手だし、舞夏ちゃんは別に、わたしに対しては………そんな………」
 舞夏に対してそういうことを考えるのは汚辱するようで恐ろしかった。彼の筋肉の硬さ、体温、掌の感触を思い出すことも彼を辱めているような気がしてならない。
「おめでたい人だな、姉貴は。俺のことは極悪人の病原体の黴菌ばいきん扱いするくせにさ」
「舞夏ちゃんはあーくんのこと大切にしてくれて、わたしにも優しいもの……」
「は?俺だって優しくしてるでしょ。嵐恋は他所よその、しかも好きな女の大切なお人形なんだから、女体ワンチャン狙うのに優しくするのなんか当然だろ。それに俺、姉貴のこと殴ったことあったっけ?分かったよ、姉貴。優しくする。ステキで立派なカレシになるよ」
 そう言いながら雫恋は肉体の持ち主の同意も得ずに彼女の胸を触った。
「やめてったら!」
「俺も優しくしてあげる。おまんこイきまくってまたイくの苦しいだろ?だから乳首でまたイけよ」
 履き違えた会話だった。シャツの上からブラジャーを擦られる。
「やだ……っ!」
「優しくしてあげる、姉貴。姉貴が俺に優しくしてくれなくても。蜂須賀の下心を優しいだなんて思い込んじゃってるバカな姉貴に優しくするよ、俺は」
 表情ひとつ変えず、抑揚のない調子で雫恋は嫌味たらしく姉の胸のほんの一部を摩った。布越しの曖昧な刺激に加霞は息を乱す。
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