18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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蒸れた夏のコト 全36話+α(没話)。年下男子/暴力・流血描写/横恋慕/高校生→大人 

蒸れた夏のコト 8

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 シーツを握り締め、そこに額を当てた。脚の間、腹の中を探られる。相手は祭夜ではない。感情も肉体の違和も、平生へいぜいよりも深い呼吸によってやり過ごす。防衛本能は夏霞かすみの意図に反して舞夜まやの指を受け入れるための蜜を溢れさせた。瑠夏るかにまで卑猥な音は届いているのだろう。
「ぅ………っう、」
 両腕を結ぶ縄を齧り、呻きを殺す。
「痛いか」
「いい………から、早く…………終わらせて」
 固く目を瞑った。屈辱を口にする。
「苦しいならまだ挿れられない」
「大丈夫……」
 中を穿つ手が止まり、もう片方の手が少し雑に髪を梳いた。朝に櫛を入れたがもう乱れて絡んでいる。
「舞夜さん、ゴム持ってるんですか」
 瑠夏は挑発するように訊ねた。夏霞は呆然として顔を上げた。舞夜を見られない。
「ない」
「ははは、可哀想。赤ちゃんデキちゃうかも知れませんね」
 冷水を浴びせられた心地がした。先程まで服従を示していた夏霞は激しく暴れ出す。だが興奮した男の力の前では容易に組み伏せられた。
「いや!やだ……!そんなの、!」
「カレシさんはいつも避妊してくれるんですか。いいカレシさんですね。僕なら夏霞さんに、僕の子産んで欲しいですけど」
「このままする。責任取るから」
 上から圧迫されてもう身動きは取れない。腰や尻に欲情の証が当たった。恋人以外の侵入を許すつもりのなかった秘部から指が抜かれる。次の行動など訊かずとも分かった。
「やだ、やだ、やめて……挿れないで……っ!」
 シーツと汗ばんで蒸れる男の肌に挟まれ、夏霞はそこからどうにか抜け出ようとするが、やはり無駄な労力だった。柔らかな腿肉に長い指が減り込む。脚を開くように担がれる。
「待ってください。僕も夏霞さんを気持ち良くしたいです」
 瑠夏の存在を知る。彼は未成年だ。弟よりも年下の子供で、夏霞にとっては性的対象外であるどころか嫌悪感さえ否めない年頃である。
「何を言ってるの?あなた子供でしょ……」
「ですけど、このストリップショーの主催者です。汁男優さんに犯されて終わり、じゃつまらないでしょう?」
 夏霞は顔を顰める。瑠夏は楽しそうだ。
「意味分かるんですか。夏霞さんってそういうの観るんですね。あ、カレシさんと観たんですか?巨乳モノですかね?でも巨乳っていうには夏霞さん、他のところはスレンダーだからなぁ」
 舞夜に押さえ込まれたまま、夏霞は何の抵抗もできずに少年の白い手で頬や顎、唇を触られる。愛玩動物にされたのだ。
「舞夜さん、夏霞さんの膝、こっちに向けて開いてください」
「待って……!」
 否応なしに真後ろの男に抱き上げられて膝を開かされた。蜜花が子供の目の前に晒された。
「美味しそうですね」
 桜色の唇を、薄紅色の舌が舐めた。そして夏霞の密所に潜っていく。さらさらとした色素の薄い髪が彼女の膝の間に嵌っていく。
「や、あっ!」
 舞夜にも何度か繰られ捏ねられていた柔芯が蕩ける。鋭くも痛みのない痺れが骨まで浸透していく。小さな頭が小刻みに動く。彼は高校生だ。しかし巧みな舌遣いは子供のそれではない。甘い感覚を与えられては焦らされていく。円を描く動きまで鮮明だった。果ててしまう道則までを知らされたかと思うと急に動きが変わり秘唇を遊ばれる。腰が震える。肉体の大半が接している舞夜にも知れているだろう。やはり尻に欲熱の蛹の気配を感じる。
「やめ………っ、瑠夏くん、瑠夏くん、あぁ!」
 黙れとばかりに蜜口に質感のあるものが入り込む。締め付けてしまう。唾液と潤みが混ざり水音がした。繊細な亜麻色に近い髪が閉じようとする内腿に当たり、撫でられている気分になった。
「ぁあ……っや、んん……ッ!」
 ダイレクトな刺激に耐えようとしている最中、耳にも別の舌が伸びた。耳朶の付け根を抉られる。
「かわいい」
 その湧き上がった衝動を彼は夏霞の小さな耳にぶつけた。歯では弱く、唇では強く噛まれる。耳だけでは飽き足らず舞夜は髪に頸に鼻先を埋めたり、首を舐めたり忙しない。春情に浮かされた吐息が聞こえる。その間も蜜花は淫らな音を出しながら貪られている。びくびくと股関節が跳ぶように天使の輪を冠する艶やかな髪を挟んでしまった。それはさらに舌戯を求めているようでもあった。少年と恋人のいとこの間で揺れる腰はすでに淫靡な技に自らを委ねてさえいた。蕊がくすぐられていく。
「瑠夏………く、ん…………」
 子供に追い詰められている。滲んでいく汗は舞夜に舐め取られ、溢れ出す蜜もまた瑠夏に啜られる。雨漏りや入浴直後の風呂場のような音が羞恥を煽り、脚の間で起こる官能に置換されていく。
「放して…………っ」
 少年の舌は一点に集中しはじめた。最も敏感な場所を舌先で捏ね回され、唇が食んだ。吸われる。背筋を電流が駆け上る。
「あぁッ!」
 舞夜を振り切りそうになるほど戦慄いた。頭の中が真っ白になる。緩やかになった瑠夏の舌に弱い芽を転がされるたび脳裏に稲光が落ちる。
「愛する人をイかせることができて、男冥利に尽きますよ」
 顔を上げた瑠夏の桜色は可憐さを失い妖しく照っている。頭の中は急激に冷やされていくものの、まだぼんやりと状況を飲み込めずにいた。ただ肉に減り込む長い指が痛いのと、同じ体勢を固定され関節が軋むのは分かった。
「夏霞さん。素敵です」
 額や口角に張り付いた毛をを子供の白い手が除けていく。
「あとは舞夜さんに気持ち良くしてもらってください?」
「ま…………や…………っうんっ!」
 こういう類いの快感を与えてくれる恋人は「さや」だ。瑠夏に言われた人物を思い出す前に、冴えない頭は復唱していた。途端、彼女はシーツに押し倒された。唇を塞がれた。荒れるほど口付けている。リップカラーは落ちただろう。
 真上を陰が覆う。粘こい目に見下ろされている。
「夏霞」
 祭夜の声ではなかった。ふいと彼女は視線を切り離す。物音がした。その音の正体を知っている。身が竦んだ。下肢にはまだ快感の余韻に浸かり放しで、いやに気怠い。また腿を担がれる。衝撃があったが、夏霞はすでにそれを覚悟していた。熱楔は一気に彼女の肉体を割り開いた。祭夜の姿に黒いもやがかかっていく。
「あうぅ……っん、」
「夏霞」
「あ………ぅっ」
 痛みはほぼないが、異物感はまだ拭えない。穿たれた場所が熱い。目頭も炙れていく。
「夏霞、苦しい?」
「う………っぁあ……」
 彼女は答える余裕もなかった。口を開くと涎が滴り、瞬くと涙が落ちていった。祭夜とも薄い膜を隔てていた。それを好きでもない男とは何の隔たりもなく交合している。
「夏霞さん、泣いてるの?かわいい」
 傍観に戻っていた瑠夏がまた眼前にまでやってきて涙を払っていく。
「でもごめんね。夏霞さん」
 彼はすっと端末を翳した。ほぼ反射だった。縛られた腕を上げて顔を隠す。
「舞夜さん。ちゃんと腕押さえてください。脚も。誰が誰のもの咥えてるのか分からなきゃ、脅迫にならないでしょう?」
「いや……、!」
 夏霞は身を縮めた。舞夜が枕を手繰り寄せ、彼女の下に敷く。
「撮るな」
「あれ?舞夜さん、夏霞さん抱くの1回こっきりでいいんですか?それともいとこさんにバレるの怖いんですか」
 麗しい笑顔の少年は端末を下ろしもしない。ただ画面から目を離し、女の裸体を観賞している。
「3つ願いを叶えられるなら、お願い叶えてもらう回数増やしますよね?恵まれない国のボランティアも、物資与えるだけじゃダメでしょう?生産する技術を教えなきゃ」
 シャッター音が聞こえた。夏霞を犯す男の手が彼女の顔を隠す。
「撮るな」
「舞夜さんはかっこいいですよ。でも負けたんです。いとこなんでしたっけ?夏霞さんのカレシさん、別にあの人もどこか悪いとは思いませんでしたけれど、きっとモテるのは舞夜さんのほうだろうなって思っていたんです。それが実際はこれだもんな。好きな女をレイプして、泣かせるような人なんだもんな。いいんですか、1回で。上手に脅せば恋人プレイもしてくれるかも知れませんよ」
 中で滾ったものが疼いた。音叉を叩いたような響きを持つ。
「恋人プレイ……」
「い……や、そんなの………気持ち悪い………」
「夏霞!」
 ほぼ譫言だったが拒絶の言葉を吐いたはずだった。しかし舞夜は激しく興奮している様子で彼女の内肉を擦り上げた。
「あっあっあぁ………」
 シャッター音が鳴る。彼女の視界はまだ自分を犯す者の手によって閉ざされていた。シャッターが何度も切られる。恋人を何度受け入れても狭いままの媚肉を灼熱が去っては抉じ開け、去っては抉じ開ける。その様を撮られている。
「うっんッ」
「夏霞、気持ちいい?」
 じわりじわり臍の裏の辺りから仄かな熱が滲んでいく。舞夜の情炎を移されたみたいだった。祭夜に感じ、祭夜に求めたものを、祭夜ではない人から秘奥に植え付けられている。それが嫌だった。それでいて肉体反応は感情と離反する。
「夏霞……っ」
「あっあっあっ!」
 扱かされていた潤肉が舞夜を引き絞る。出ていくなと引き留め、奥へ連れていこうとする。
「夏霞、夏霞……」
「もうだめ…………やだ…………祭夜ちゃ………っ」
 体位までもが祭夜とのものに変えられる。横臥して前後に重なっていたものが対面し力強く抱き合えるものに変わる。縛られた腕を下ろされ、夏霞は涙ぐんだ目で舞夜を見なければならなかった。
「俺を見て」
 下半身がぶつかる。リズミカルにわずかな間隔を作っていたくせ、突然接着が目的になったのか、彼は腰を押し付けた。
「あっう、んんっ!」
 快感が胎内に広がった。噛み千切るほどに舞夜を締めた。蜜壺がこの快楽を運ぶ淫情を逃がそうとしないのだ。それはもう夏霞の御せる範疇を越えていた。前の実核を刺激されるよりも深く広く柔らかな快感が少しずつ濃くなっている。舞夜は彼女の内側の束縛を振り解き、奥を突く。
「いや、いや……!もう………あ、ぁんッ……、!」
 ぶるぶる腰を震わせて夏霞はとうとう果てた。その強烈なうねりが舞夜を呑む。耳元で小さな呻めきを聞く。結合部が爆ぜた。苛烈な悦びも覚めぬうちに迸りがそこに加わる。祭夜との営みでは得たことのないものだった。矛先も正体も分からない激情が湧くと共に目の前が白飛びし、前後不覚に陥った。




 起き上がる。口腔は渇ききり、喉が痛んだ。慣れない服は見知らない寝間着で、ダークグレーともネイビーともいえない前開きで白い縁取りが差し色のようだ。袖が捲られている。両手首に包帯が巻いてあるのが見えた。温かく軽いダウンケットが掛けられている。冷房が少し強い。
「起きましたか」
 瑠夏が部屋のドアを開けた。スポーツドリンクとグラスの乗った盆を持っている。
「今何時」
「5時頃です」
 出窓の外はまだ昼間のようだった。まだ暗くなるのを知らない。秋冬ならば真っ暗でもおかしくない。瑠夏はグラスにスポーツドリンクを注いで渡した。
「飲んでください」
 一瞬、飲みかけた。しかしグラスが口にぶつかったときに思わず硬直した。おそるおそる瑠夏少年の動向を窺う。
やましいものは入ってませんよ。今開けたばっかりですし。試しに僕が飲みましょうか?間接キスになりますけど。ああ、口移しも悪くない」
 夏霞は眉を下げ、一か八か、グラスのドリンクを飲んだ。後を引く。大半を飲んでしまった。
「好きに飲んでください。たくさん汗、かきましたからね」
 その言い様はまるでスポーツでもしてきたかのような朗らかで清々しい。
「………あの人は?」
「舞夜さんですか?下に居ますよ。すぐに帰ると夏霞さんの帰る足がないって」
「わたしは大丈夫だから、帰ってもらって……」
 溜息が漏れた。すぐ傍の子供の危険性などは今更どうでも良くなっている。彼女を蝕むのは、今下の階にいるという男なのだ。恋人のいとこと性交してしまった。それだけでなく、腹の中にその子種を受けてしまった。受診しなければならない。気が重い。
「どうやって帰るんです」
「歩いて」
「遠いでしょう」
「歩いて帰れない距離じゃないから……」
「でも今日は疲れてるはずですよ」
 夏霞は帰る支度をしようと部屋の中を見回した。
「わたしの服は……?」
「そこに畳んであります」
 ジーンズとシャツの上にブラジャーが見せ物の如く置いてあった。恋人だけ知っていればよい形状や生地や色であったはずだ。だが怒りも悔しさも起きない。ひたすらに疲れてしまった。
「わたし、着替えるから……」
「どうぞ」
 少年は退室の意思を見せなかった。今の夏霞にとっては、彼に裸体を晒す羞恥心などは機能していなかった。だがそれでも相手は未成年の子供である。良識は捨てきれない。
「トイレ借りる」
 着替えを抱いて重い身体を引き摺った。トイレに入り鍵を掛けた瞬間、夏霞は眼球に裏から殴られたみたいな情動に駆られた。最近、泣いてばかりだ。しかし泣いている場合ではない。乱雑に目元を拭いて、来た時の服に戻った。脱いだ寝間着は洗って返すつもりだったが、瑠夏に回収されてしまった。良からぬことに使うと言っていたが彼女はよく聞いていなかった。パニックホラーに出てくる生ける屍よろしく階段を降りる。肩も肘も腰も膝も背骨も鈍く痛んで重さがある。玄関までもう少しだった。しかしリビングから呼ばれた。腹の奥が痛む。それは激しく突かれたからだろうか。
「雨堂。送るよ」
 舞夜が傍までやって来た。少し足を速め、玄関の框(かまち)を降りる。
「いい……」
「送らせてくれ」
「家、知られたくないから……」
 嗄れた声は感情が消えていた。触れようとする手を払う。夏の夜に飛び回る蚊よりも忌々しい。玄関での気怠い攻防をしていると階段から瑠夏が降りてきた。
「カレシさんに連絡しましたよ。家にいるらしいので迎えに来てくださるそうです」
 心臓が脈を飛ばす。陵辱の場面が白ずんで脳裏に映し出された。
「祭夜に、言ったの……?」
 気が遠くなる。倒れそうになったのを、叩き落としたばかりの腕で支えられる。しかし彼を突き放し、自らの足で立つ。
「舞夜さんと中出しセックスしたことは言っていません。例の件で夏霞さんが来てますよって言っただけです」
「そう……」
「謝るのは後日でいいですか。さすがに来てもらって、ついでに謝るというのも悪いでしょう?」
「謝ってくれるの……?」
「要求を呑んでくれましたからね」
 泥沼の中に放り込んだものをやっと探し当てられたような、そういう安堵感があった。それでも蹂躙された彼女には微々たるものだ。
「でも、祭夜にはすぐに復帰してほしい」
「分かりました。では、カレシさん来るまで待っていてください。冷蔵庫、好きな物飲んでいいので」
 外で待とうとするのを瑠夏は目敏く気付いたらしい。しかし気遣いどころか意地の悪さが窺える。自分を犯した男と居られるはずがない。
「俺は帰る」
「まだ居てくださってもいいんですよ」
「帰る」
 彼はそのまま三和土に降りていく。夏霞は眉根を寄せた。
「待っててくれてありがと」
 言うべきか迷った。しかし瑠夏の言うのが本当ならば、彼なりの時間を無下にしたことになる。表情と言葉は一致しなかった。無言のまま玄関扉が開いた。開閉を知らせる鈴束が小さく軋る。
「残酷な人ですね、夏霞さんは。そんなに舞夜さんの前でもいい人でいたいんですか」
「どうしてわたしがあの人のために自分を曲げなきゃいけないの」
「そういうところが、舞夜さんだけでなく夏霞さんの首も真綿でぎっちぎちに絞めてるんだと思いますよ」
 不気味な美少年から目を逸らした。彼は清らかに笑うだけだ。ソファーを勧めると、彼はカウンターキッチンに回って棚を調べ始めた。屋敷のようなリビングだが、キッチンテーブルセットの上に見えた食品などはよく知るメーカーで生活感があった。
「座っててください。何か食べますか。インスタント麺くらいならありますよ」
「要らない」
「そうですか」
「ご両親、帰り遅いんでしょ?ご飯はどうしてるの」
 瑠夏はカウンター越しにソファーに座す夏霞を見つめた。
「自分で作ります」
「そう。なら良かった」
 彼女は余計な世話を焼いたことをいくらか恥じた。弟が瑠夏と同じくらいの頃は、料理などできなかった。実際に祭夜もあまり料理は得意ではないらしかった。だが瑠夏は印象と同じく器用なのだろう。
「そんなことを訊いて、作れないって言ったらどうするつもりだったんです」
 少年の桜色の唇は弧を描いているが、声音には棘を帯びている。家庭環境に口を挟んだことに気分を害しているらしい。
「ごめんね、変なこと訊いて。弟が君くらいの時は料理なんてできなかったから、わたしが居ない時はよく作ってから出掛けてたんだ。だから気になっちゃって」
「…………そうですか」
 瑠夏のバニラ大福アイスの如く白い顔からふと微笑が消えた。
「本当に……夏霞さんにとって僕は、子供なんですね」
 やはり彼の口調は刺々しい。
「子供にしか見えないから、舞夜さんにはあんなに怒るくせに、僕には警戒もしてくれないんだ」
 夏霞は困惑した。飄々としていた瑠夏が何をそんなに感情的になるのか分からない。
「僕子供です。ご飯作れません。夏霞さん、好きに使っていいので作ってください……」
 瑠夏は落胆した様子だった。夏霞は戸惑いながらも彼も入れ替わりにカウンターに入る。かなり無機質な感じのする冷蔵庫の中にはある程度食材が揃っていた。見知らない海外の調味料も揃えてある。タッパーに入った白米を使いオムライスを作った。ラップに包んで冷蔵庫にしまう。瑠夏はソファーでぼんやりしていた。ちょうど良いタイミングで祭夜が迎えに来る。
「洗い物、できなくてごめんね」
「いいです。家政婦さんがやるので」
 夏霞が、「えっ」と咄嗟に声を上げると瑠夏は罰の悪そうに顔を背ける。
「カレシさんに謝罪すればいいんですよね」
 まもなくインターホンが鳴った。瑠夏がドアを開けると祭夜は挨拶も忘れ、焦燥一色で飛び込んできた。
「夏霞ちゃん!」
「祭夜ちゃん。ごめん、迷惑かけて……」
「何言ってるの!」
 家主の存在も忘れて夏霞は框から、祭夜は三和土から抱き合おうとした。しかし祭夜の目は彼女の両腕の包帯を捉えている。抱擁がキャンセルされ、温かい手に患部を包まれる。
「お手々、怪我してるの?」
「えっと……」
「そこの階段、急でしょう。転んでしまって捻挫したみたいです。両手をついていたので念のため両方処置しました」
 祭夜も瑠夏の存在を初めてそこで知ったような反応をした。
緋森ひなもりさんに謝らなければならないことがあります」
 そして瑠夏は夏霞に約束したようなことを正直に打ち明けて祭夜に頭を下げた。そこに飄々とした笑みはない。ただ己の罪と向き合うかのような真面目な態度がある。
「でも、どうしてそんなコトしたの?」
 少年は理由を述べはしなかった。普段はぽやぽやと気の抜けたような祭夜も、そこはきちんと話は聞いているらしい。夏霞は高校時代よりも大人びた恋人に気付く。
「寂しかったんです。家に帰ってもこのとおり、広い家に一人で留守番ですから。もちろんこんなこと、理由にはなりません。雨堂さん、本当にすみませんでした」
 瑠夏は夏霞にも深々と頭を下げた。
「う……うん」
 祭夜の手前、返事は限られている。あなたのいとこに暴行されて写真を撮られた。そのことが言えない。包帯の下にある擦過傷が痛む。
「保存会の皆さんにもきちんと僕から連絡します」
「夏霞がお世話になりました。行こう」
 祭夜の腕に支えられ、夏霞は弟と揃いで色違いのシャワーサンダルに爪先を突っ込んだ。転んで怪我をしたと信じて疑ったもいなげな玄関アプローチの急な段差も祭夜は彼女を支えた。
「勝手なことしてごめんね、祭夜ちゃん。余計な手間もかけちゃって………」
 手は繋いだままだが彼は無言だ。怒っているようにも見えた。門を出る。路上に停まっている祭夜の車の近くまでくると、やっと彼は夏霞を振り返った。
「二度とこんなコトしちゃわないように、ちゃんと怒んなきゃイケないんだろうケドさ、夏霞ちゃんの顔見たら、別にいいやって思って。夏霞ちゃん無事なら。あの子、女の子みたいなカオしてるけど、男の子なんだよ?男子高校生なんて野獣だよ。夏霞ちゃん……」
 泣きそうな顔をして祭夜は夏霞に抱き付いた。
「でも、祭夜ちゃんは……」
「夏霞が大事だからずっと我慢してただけ。高校生男子なんてそんなモノ。オレだって夏霞でえっちなコトばっか考えてたよ。出来るコトならすぐ抱いちゃいたいって思ってた。今だから言えるケド……」
 彼は情けない声で彼女に縋り付く。少し汗ばんだ背に回した擦過傷が包帯に擦れて滲みる。
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