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スカイブルーめろんぱん  恋愛/BL含む/ラブコメ(?)()

スカイブルーめろんぱん 2

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「なぁ」
 自分が作った出汁巻卵を美味しそうに食べる青空に声を掛けるのをためらったがついに宙来は意を決した。
「なに?」
 顔を上げて、しばらくもぐもぐしていたのを呑みこむと青空は口を開いた。上品な仕草に本当にこいつと義兄弟でやっていけるのか、眩暈を覚える。本題に入らない宙来に青空は微笑んだ。
「今日の出汁巻卵も美味しいね。こんなお義兄にいさん持てて、僕、幸せだな」
 宙来は青空の言葉に顔面を殴られ、顔を下げてしまう。背中からいきなり暑くなる。
「っ・・・・あのなぁ」
 青空が笑いかけたときの驚きに舌を噛んでしまって、口元を押えながら出汁巻卵を飲み込んだ。
「あまり誰にでもそうやって笑いかけるなよ・・・・?」
 痺れから痛みに変わっていく舌に顔を顰めながら宙来は言った。青空はうん?と聞き返すように首を傾げると箸を進める。青空と義兄弟になったときから宙来は義母に変わって2人分の弁当を作ることになった。
「変なストーカー野郎が勘違いするんだよ」
「ストーカー?そんな物騒なものじゃないんと思うんだけれど」
 いつもと少し違う出汁を使ったというのに呆れて味も感じない。徹底的にこの義弟は自分が守らなければならないのだな、というのを宙来は実感する。自分の作った弁当をいちいち美味しそうに食べる義弟をみていると、そんなことは取るに足らないことだ。
 教室内を回る扇風機がさらさらの青空の髪を掻き乱す。直さなければと立ち上がり、手を伸ばすと青空と目が合い、微笑まれる。長く濃い睫毛に胸を鷲掴まれるような感覚に息を飲む。
「岬くん」
 2人の世界に邪魔者が。宙来は舌打ちして席に着き、弁当を掻き込む。
「あ、増山さん、どうしたの?」
 増山が青空に緑色の箱を渡す。たけのこを模したチョコレートのお菓子だろう。宙来は眉を顰めてそれを見ていた。いつもより手間をかけて作った弁当の味も、宙来には感じなかった。
「メロンパン、ありがとう。お礼にと思って。2人で食べて」
 増山は垂れ下がった横髪を耳にかけ、青空に笑いかける。美しさで目を引く青空に増山は地味だけれど、お似合いではあるな。そう考えてしまい宙来は頭を振る。
「え、いや、気にしなくてよかったのに」
「ううん、いいの、いいの」
 増山は宙来を一瞥して、目が合うと笑いかけ、友人のもとへ去っていった。青空に視線を戻せば、顔を赤らめて増山の背中を見ている。あの地味な女のどこがいいのか。宙来はいらいらしながら残りわずかなおかずを口に運ぶ。
「増山さんは、たけのこの街の方が好きなのかな」
 緑色の箱に描かれたポップな「たけのこの街」のロゴ。大事そうに青空は白く細い指を絡めている。
「・・・さぁな。この前はきのこの都食ってたぜ」
 きのこの都。たけのこの街と同じメーカーから発売されている長寿のチョコレート菓子だが、この人気にはバラつきがある。それでも片方が販売中止になることがないので、さらにその差は広がるばかりであった。
「食べる?」
「いや、要らね」
 増山からもらったものなら賞味期限ぎりぎりまで食べないのだろう。まだ共に生活して短いがそんな気がしてならない。
 親が再婚してから青空とよく行動を共にすることになったけれど、増山に想いを寄せているのはそれよりずっと前なのだろう。穏和で静かな青空と、もともとは騒がしいグループにいた宙来では親の再婚さえなければこうして一緒にいることはないと宙来自身思っている。
「ごちそうさま」
 水色のお弁当箱を、水色のバンダナで包んでいく青空は見つめた。宙来はパックのお茶を音を立てて飲み干す。
「1人でうろうろするなよ。変なのに狙われてるんだから」
 青空に危機感がないのなら、この義弟を守るのは自分の務めだ。実母実父の離婚で別れてしまった妹もそうしてきた。
「心配しすぎだよ。大丈夫だって」
 青空が弁当箱をカバンにしまいながら話している間、視線を感じた。教室内を見回す。各々談笑したり、弁当を食べたり、本を読んだりしているなか、1人の女子と目が合う。三条だ。好感とは受け取れない、睨んだ目付きで宙来と目が合った。さきほど増山と青空の会話に入り込もうとして邪魔された。
「んだよ。見てんな」
 舌打ちをしながら三条に向けて呟いた。三条に聞こえるか聞こえないか程度の声だったが雰囲気で読み取ったのだろう、1人で弁当を食べていた三条は俯いた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇよ」
 青空は不思議そうに宙来を見上げる。
「さんじょぉさぁん!」
 青空の澄んだ瞳と見つめ合っていると、慌ただしい声が響き、机やロッカーにぶつかって教室に滑り込んできた。1人黙々と弁当を食べている三条に後ろから勢いよく抱き付き、三条は咳き込む。隣のクラスの男子生徒だ。その男子生徒は宙来と青空に視線を向けた。校則で禁止されているピアスで右の耳たぶが千切れている。宙来も校則違反のレベルで伸ばした髪に隠れピアスを空けている。
「知り合い?」
 男子生徒は青空と目が合ったのか、人懐っこそうな目を宙来と青空に向けて、情けない笑みを浮かべる。青空は宙来に訊ねたが、宙来もこの男子生徒を知らない。
 教室内も、目立たない三条に駄犬じみた不良のような容姿の男子生徒が訪ねてくることにざわめく。
「三条さん三条さん三条さん」
 宙来からしてみれば、どいつもこいつも怪しいのだ。美しい青空のことだ。女はもとより男だって変な気を起こすに決まっているのだ。隣のクラスのあの男子生徒が一度見せた笑顔の裏にだって青空への薄汚い欲望があるような気がする。宙来は青空の薄い肩を抱いて席に座らせる。
「三条さん、結構意外なカレシいるんだね」
「・・・・ん、そうだな」
 青空はクラスメイトに興味があるようだが宙来は興味がなく、話したことがない奴、名前も覚えていない奴もいる。そこで会話は途切れ、増山を見つめる青空の顔を宙来はちらちら見つめた。
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