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2 動乱の始まり編

058 レニの故郷へ2

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「分かった、レニ。君の家にお世話になることにするよ」

「ぜひ! では家に手紙を出して知らせておきますね!」

 レニは心から嬉しそうであった。ジルとしてもそんなレニの表情を見るのは嫌いではない。

 レニの実家はシュバルツバルトの南東部のソニエ地方にある。この辺りは比較的バルダニアに近く、湖や河が多くあって風光明媚な「湖水地方」として知られている。フリギアから行くとなると、馬車で3日というところである。

 レニはすでに実家に手紙を送り、ジルを伴って帰ることを伝えてある。母親はなぜか非常に乗り気で「ぜひ連れて帰ってくるのよ!」と返信に書かれていたのが、レニは若干気がかりであった。母親はレニ以上にお嬢様育ちなことから、突拍子もないことを考えがちなのである。

 ジルはレニの実家に行くと言った時のガストンやイレイユの反応を思い出していた。ガストンは親指を突き立て「決めてこいよ!」などと言っていた。あれは一体なんだったのか……。

 イレイユは「あーいいなー、今度はうちにもおいでよね!」とジルを誘っていた。イレイユの故郷のカラン同盟にはまだ行ったことがないので、実は行きたい気もするが、さすがにイレイユの実家となると色々まずそうな気がしてくる。

 2人はフリギアの高級ホテル「一角獣亭」に向かう途中であった。高級なホテルでは、身分の高い旅行客向けに馬車を手配できるようになっており、ジルたちはそれを利用して帰るつもりである。

 費用は全額レニ(の両親)もちである。自分の分は出すといったのだが、そこはレニが頑として自分が払うと言って譲らず、その好意に甘えることにしたのである。レニや彼女の両親にしても、ホスト主人役として譲れないところがあるのだろう。

 用意した馬車は王室用ほどではないにしても、充分に高級な馬車であった。それに運転する御者、護衛役として冒険者3名の代金が料金に含まれる。金額はかなり高額である。しかし普段特に意識していないが、レニは伯爵令嬢である。充分にこの馬車に乗る資格と資産を持っているのだ。

 フリギアの南門から馬車が外へ出て行く。この道は以前軍事演習に行く時に通った街道だ。その途中にアルネラ姫の誘拐事件に巻き込まれ、レミアが命を落とした。まだあの事件からそれほど時間がたっているわけではない。

 窓からの景色を見つつ、ジルは珍しく感傷にひたっていた。自分の大魔導師となる過程では、必ずや幾人もの人の死を見ることになるだろう。レミアはその一人目になったのだ……。

 そんなジルの横顔を正面に座ったレニは眺めていた。思えばこの人と出会ってから一年になる。初めは「天才」と呼ばれる上級生がどのような人間なのか心配していた。しかし付き合ってみると、ジルは他人に対して公正で、後輩であるレニにはとくに親切にしてくれた。新入生で自分ほど指導生から親身に魔法を教わった者はいないだろう、レニはそう確信していた。

 母や父はジルをどのように見るだろうか。ジルは礼儀を守れる人間なので心配はしていないが、両親の出方が少々心配だった。特に父は自分にとっては優しい父だが、ジルに対してどのように振る舞うだろうか……。
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