31 / 107
1 ルーンカレッジ編
031 晩餐会3
しおりを挟む
レント伯クリスティーヌ、彼女はブライスデイル侯にも、国王派にもついていない。貴族社会の中では中立派と目されている。現在26歳、結婚はまだしていない。
領地はシュバルツバルト南部に位置し、貴重な鉱物資源を産出することから王国の経済にとっても重要な存在となっていた。ゆえにブライスデイル侯も、そして国王派からも、自派への勧誘がひっきりなしになされている。クリスティーヌは自分の立ち位置を十二分に理解していたし、それを最大限の高値で売りつけようと考えている。むろん自分の結婚もその商品の一つである。
クリスティーヌの見る所、現王の治世はそう長くない。齢60を超えているのだから当然だ。そう遠くないうちに後継者の問題が起こるだろう。いや、既に水面下では貴族たちが動き出しているのだ。
現在王位は長男のユリウスが継ぐと見られているが、ユリウスはあまり良い評判のない人物である。いや、それには語弊があるかもしれない。悪い噂も無い代わりに、評価する声も聞こえてこないと言った方が良い。
王の嫡男というものは、たとえそれほど優れた才がないとしても、周囲が過剰に褒めそやすのが普通である。未来の王に良い印象を持ってもらえるかどうかは、家臣として己の出世に関わってくるからである。しかしそのような過剰評価さえないのは、ユリウスが真に凡庸な人物であることを示している。
平和な時代であれば、王の器量などさして問題ではない。政治など、家臣に任せておけば大過なく在位期間を過ごすことができるだろう。しかし、近年バルダニアとの争いが深刻化し、王国の舵取りは年々難しくなりつつある。
アルネラ姫の誘拐事件も何らかの陰謀の結果なのではないか、クリスティーヌはそう見ていた。そのような時、君主が凡庸であれば国威を著しく傷つけることになるかもしれない。そう遠くない時期、自分の価値は一層釣り上がるに違いない、そんな予感がしていた。
面白い時代になってきた、クリスティーヌはそう思う。平和な時代など、貴族はただくだらぬ舞踏会や恋愛に明け暮れるしかない。クリスティーヌは、自分がそんなことに明け暮れているのを想像するとぞっとする。退屈で死にたくなってくるに違いない。
クリスティーヌは壁に寄りかかって、腹を探りあい、人脈を作ろうとする貴族たちの動きを観察していた。酒を勧める給仕の少年から、シャンパンのグラスに手を伸ばし口をつける。今日の主賓は確かアルネラを救出したという少年たちであった。サイファーという男は、もう少年とはいえない歳だろう。体格を見ると優れた戦士になりそうだ。
そしてジルフォニアという少年。そう、まだ少年なのだ。大人びて見えるが、おそらく16を越えていないのではないか。しかしその少年のところに人の輪ができている。どうやら王の覚えもめでたいらしい。ブライスデイル侯も自ら話しかけていたところを見ると、自派に引き入れようとしているのだろう。とりあえず話してみて損はないだろう。クリスティーヌはジルを取り囲む貴族たちの輪に入っていく。
領地はシュバルツバルト南部に位置し、貴重な鉱物資源を産出することから王国の経済にとっても重要な存在となっていた。ゆえにブライスデイル侯も、そして国王派からも、自派への勧誘がひっきりなしになされている。クリスティーヌは自分の立ち位置を十二分に理解していたし、それを最大限の高値で売りつけようと考えている。むろん自分の結婚もその商品の一つである。
クリスティーヌの見る所、現王の治世はそう長くない。齢60を超えているのだから当然だ。そう遠くないうちに後継者の問題が起こるだろう。いや、既に水面下では貴族たちが動き出しているのだ。
現在王位は長男のユリウスが継ぐと見られているが、ユリウスはあまり良い評判のない人物である。いや、それには語弊があるかもしれない。悪い噂も無い代わりに、評価する声も聞こえてこないと言った方が良い。
王の嫡男というものは、たとえそれほど優れた才がないとしても、周囲が過剰に褒めそやすのが普通である。未来の王に良い印象を持ってもらえるかどうかは、家臣として己の出世に関わってくるからである。しかしそのような過剰評価さえないのは、ユリウスが真に凡庸な人物であることを示している。
平和な時代であれば、王の器量などさして問題ではない。政治など、家臣に任せておけば大過なく在位期間を過ごすことができるだろう。しかし、近年バルダニアとの争いが深刻化し、王国の舵取りは年々難しくなりつつある。
アルネラ姫の誘拐事件も何らかの陰謀の結果なのではないか、クリスティーヌはそう見ていた。そのような時、君主が凡庸であれば国威を著しく傷つけることになるかもしれない。そう遠くない時期、自分の価値は一層釣り上がるに違いない、そんな予感がしていた。
面白い時代になってきた、クリスティーヌはそう思う。平和な時代など、貴族はただくだらぬ舞踏会や恋愛に明け暮れるしかない。クリスティーヌは、自分がそんなことに明け暮れているのを想像するとぞっとする。退屈で死にたくなってくるに違いない。
クリスティーヌは壁に寄りかかって、腹を探りあい、人脈を作ろうとする貴族たちの動きを観察していた。酒を勧める給仕の少年から、シャンパンのグラスに手を伸ばし口をつける。今日の主賓は確かアルネラを救出したという少年たちであった。サイファーという男は、もう少年とはいえない歳だろう。体格を見ると優れた戦士になりそうだ。
そしてジルフォニアという少年。そう、まだ少年なのだ。大人びて見えるが、おそらく16を越えていないのではないか。しかしその少年のところに人の輪ができている。どうやら王の覚えもめでたいらしい。ブライスデイル侯も自ら話しかけていたところを見ると、自派に引き入れようとしているのだろう。とりあえず話してみて損はないだろう。クリスティーヌはジルを取り囲む貴族たちの輪に入っていく。
0
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~
みなと
ファンタジー
目が覚めた私は、ぼんやりする頭で考えた。
生まれた息子は乳母と義母、父親である夫には懐いている。私のことは、無関心。むしろ馬鹿にする対象でしかない。
夫は、私の実家の資産にしか興味は無い。
なら、私は何に興味を持てばいいのかしら。
きっと、私が生きているのが邪魔な人がいるんでしょうね。
お生憎様、死んでやるつもりなんてないの。
やっと、私は『私』をやり直せる。
死の淵から舞い戻った私は、遅ればせながら『自分』をやり直して楽しく生きていきましょう。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる