上 下
43 / 68

ヴィーナスパレス~男性保護法3~

しおりを挟む
「う~ん、いいお天気」
 今日はご主女(しゅじん)さまとデート
今日は、最近できて話題のテーマパーク兼大型商業施設ヴィーナスパレスへ行ってみます。
 渋滞がこわいので、久しぶりに二人で電車で移動です。
 「あっ、あそこの席空いてます、ご主女さま」
ボクは素早くピンク色のシートに座ります。
 男性優先席、通称メディースシートです。
 男性保護法を契機に一般車両に導入されたもので、シルバーシートの男性版といったようなものです。
ご主女さまは何故かボクの隣に座らず、ボクの前に立ったまま。
 「ご主女さま、隣空いてますよ」
 「いえ、いいわ」
 別に空いてたら女性だって座っていいのに。
そういえば、男性保護法ができる前、シルバーシートが空いてた時も、彼女は決して座ろうとしませんでした。
 彼女ってこんなところがあります、女の人ってつまらないプライドでもあるのかしら。

ヴィーナスパレスに着きました。
 「おおき~い」
 思ったよりも大きい施設です、まるでスターランド遊園地みたい。
ボクは、彼女を急かしながら入場ゲートをくぐりました。
 大きな注意書きの看板があります。

          お客様へ
  当施設内は男性保護法に基づく特別区です。
  当施設内での男性への暴力、暴言等は一切禁止されています。
  通常の調教行為であっても、男性への暴力とみなされる場合がありますのでご注意ください。
  ×ビンタ
  ×スパンキング
  ×鞭打ち
  ×その他男性への暴力、暴言、侮辱的行為

  <ご婦夫、カップルの方へのお願い(推奨ルール)>
  女性のお客様へ
   ・夫や彼のことは、呼びつけにせず、「名前+さん」で呼んでみましょう。
   ・夫や彼の前ではなく、一緒に並んで歩きましょう。
   ・騎士のように夫や彼をやさしくエスコートしましょう

   男性のお客様へ
   ・妻や彼女のことは、「ご主女様」や「名前+様」ではなく、「あなた」または「名前+さん」で呼んでみましょう。
   ・妻や彼女の後ろではなく、一緒に並んで歩きましょう。
   ・立派なメディとして、上品に行動しましょう

素敵!
 男性保護法って男をモノ扱いするところが気に入らなかったんだけど、こんな素敵なところを作ってくれるなんて。
ボクは、ウキウキしてたまらなくなってきました。
 「あなた、ちょっとお手洗い」
 「なによ、着いたらもうトイレなの」
だってしょうがないじゃない、ボクはトイレが近いんです。
 『わぁ~、ひろ~い』
トイレもすごく広いです。
 個室、洗面の他に椅子付きのパウダールームや、無料のドリンクが設置された休憩コーナーまで。
とりあえず個室に入ります。
 自動的にフタが開きボクは備え付けのシートペーパーを敷いて座ります。
 消音装置もセンサー式で嬉しい配慮です。
でも個室にしては少し広すぎ、狭いところ好きなボクとしてはちょっと落ち着きません。
パウダールームで化粧直ししてうっとりします。
ちょっとした絵画や観葉植物にも見とれます。
なんだか雰囲気に呑まれそう。

 「遅いわよ!もう、何時間かかってるの」
そんな何時間なんて大げさです。せいぜい20分、いえ30分かしら。
 男子ってトイレにいると時間を忘れるのかもしれせん。高校生のころ、昼休み中ずっとトイレでお喋りしたことを思い出しました。
ボクは内心「しまった」と思って、身構えました。
あれっ、いつもなら、ここでビンタ位あるのですが、ご主女さまはボクを打ったりしませんでした。
 調教禁止。
そうです、この施設内は調教禁止なんです。
うん、ヴィーナスパレスって素敵。
 気を取り直して、ショップを回っていきます。
 「あなた、これどっちがボクに似合うって思いますか?」
 最初はボクの質問に付き合ってくれた彼女ですが、だんだん生返事になっていきます。
 「次はココがいいかな」
パンフレットでよさそうな店を探します。
 「なによ。さっきからぐるぐる回ってるだけじゃない、見てるだけで買う気もないの?」
もう、女の人ってもっとショッピングを楽しめないのかな?
 「わあ、かわいい」
 子供服コーナーにも立ち寄ってみました。
かわいい男の子向けのフリルドレス。
ボクと彼女の子供ができたら、どうかしら?
 「こらっ!そんなのいま買うもんじゃないでしょ」
ちょっと不機嫌そうな彼女。
 「もうそろそろ、昼にしましょうよ・・・ミサオさん」
 彼女の提案。
お昼時間を確かに結構過ぎています。
 何時の間にこんなに、楽しい時間ってあっという間です。
でも彼女がボクを「ミサオさん」って言うのが、聞き慣れなくてちょっと可笑しい。
あたちたちは、遅めの昼食をとることにしました。
 「禁煙席をお願い」
 彼女ったら、喫煙者なのに外食のときは吸いません。
 吸わないボクに気遣ってのことではなく、他人の吐いた汚い煙は吸いたくないんだそうです。
じゃあ普段吸わされてるボクはなんなの!って思うけど。
 彼女って意外と自分勝手なところもあるんです。
 喫煙席を見ると男性客ばっかり、最近、煙草を吸う男性って結構多いみたい。統計では男性の喫煙率って低いのにアンケート調査ではウソついてるのかしら。
お店の人に案内されて、ボクは壁側の広いフラットシート、ご主女さまは少し窮屈そうに椅子に座りました。
ちょっと男性上位って感じがして、なんだか落ち着きません。
 「あなた、席を交換しましょうか」
 「いや、このままでいいわ」
ちょっと不機嫌そうに彼女は答えました。
お料理の味がしません。
 彼女がポツリ
「男栄えて国滅ぶ、かな」
 不吉でちょっとイヤな諺です。
 昔、男性が我侭になりすぎて国が傾いたっていうけど、そんなの昔のことです。
せっかくのデートだったのに、なんだか少し憂鬱な気持ちになってしまいます。
 「そろそろ出ようか、ミサオさん」
 「はい、あなた」
 退場ゲートを抜けると広場になっており、中央にブロンズ像がありました。
それは、男の人が跪いて両手を前で交差して、立っている女の人に許しを請うようなポーズの像でした。


       懺悔広場

  夫は妻を主女として敬い、よく従うべし・・・・


夫の心得の一節が書かれています。
ボクはハッとしました。
 彼女のことを考えず、ボクったら、自分だけはしゃいじゃって、我侭だったのかも。
ボクは彼女の前に跪きました。
 「ボクを罰してください、ご主女さま」
こんな男は罰を受けるべきです。
 「いい男ね、お前は」
 彼女はボクの手をとり、やさしく握ってくれました。

 帰りの電車の中で、彼女はポツリと言いました。
 「また行こうか、今日行ったヴィーナスパレス」
 女の人には、きっとつまらなかった筈なのに。
 優しいご主女さま。
でも、いつか、今日のボクを罰してください。
 愛しています、ご主女さま。


【メディスシート】
男性保護法を契機に導入された、一般車両内のピンク色の男性優先席のことです。
男性専用席ではないため女性も座れるのですが、気後れするのかあまり座らないようです。
また、電車内だけでなく、エレベーターホール等各地にあります。

【ヴィーナスパレス】
男性向け商品がメインのテーマパーク兼大型商業施設です。
男性保護法に基づく特別区のため、男性への一切の暴力的行為が禁止されています。
そのため、男性への通常の調教行為も禁止となります。
男子トイレが豪華であることも有名です。

【男栄えて国滅ぶ】
男性が高慢になると国家が滅びるという意味の諺です。

【懺悔広場】
ヴィーナスパレスの退場ゲートにある広場です。
中央に男性がが跪いて両手を前で交差して、立っている女の人に許しを請うようなポーズのブロンズ像があり、夫の心得の一節が書かれています。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】アリスの不条理な箱庭

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:43

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,044pt お気に入り:418

貞操逆転世界かぁ…やっぱりそうかぁ…

SF / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:214

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:153

音楽無双――おかしな世界に転生したボクはSランク

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:292

貞操逆転世界かぁ…そうかぁ…♡

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,629

処理中です...