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図書館に寄り道
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買い物の前に、ちょっと図書館へ寄り道。
結婚してから、本はほとんど買わなくなった。
OMだった頃はファッション誌とかも結構買ってたけど、今ではそんな無駄遣いは出来ない。
図書館って、男性ファッション誌や主夫向けの雑誌とかも読み放題だし、結構お得。
婦夫の生活費を預かる主夫なんだもん、節約しなくっちゃ。
あっ、展示コーナーで何か企画展やってるみたい。
今回のテーマは教科書展だって。
約100年前から現在までの各種教科書がズラリと並んでる。
ちょっと壮観かも。
スゴイ、これって直接手にとって中身を読んでいいの?
あっ、こんな古そうな教科書も中見ていいのかな。
女権革命前の先史時代の教科書だって。
なんだ、「この教科書は複製です」って小さな文字。そりゃそうだよね。
ちょっと、興味本位で中を見てみる。
旧憲法の説明で「男女平等」なんて書いてある。今風の「女男」じゃなくて、随分古臭い表現に感じる。僕は頭の中で「男女」を「女男」に置き換えて読み進む。
ふうっ、何だか読みづらいや。2、3ページでお腹一杯だよ。僕は本を元の位置に戻す。
隣のテーブルを見ると、僕が中学生の頃の教科書が並んでいた。
これ、これ、これだよ。僕が使ってたのは。
僕は懐かしくなって、中身を見る。
これは社会科のヤツか。
社会って、何か難しくって、ちょっと苦手だったんだよなぁ......
・・・・「きゃー」
ボクは悲鳴をあげた。制服のスカートを後ろから捲られたのだ。
「何だグレーかよ。色気ないぞ、ミサたん」
もうっ!中学生にもなって、スカート捲りするなんて幼稚園から腐れ縁のアイツぐらいだ。
それに、何だよ「ミサたん」って。
小学生の頃のあだ名で呼びつけるなんて、もうアイツだけだよ。
キーンコーンカーンコーン
まずいっ!予鈴が鳴り始めた。
教室に入ると、もう女子の真ん中ぐらいまで出欠とってる。
ヤバイ。
ボクはこっそり席に着く。
うちの学校は今風の混合式名簿じゃなくて、古臭い女男別名簿だから、女子全員の後ようやく男子の番になる。
普段なら待ちくたびれちゃうんだけど、今日は返って有り難い。
あははっ、アイツってば間に合わなかったみたい。いい気味。
こういう時、男子って得かも。
それはそうと、もうすぐ中間試験だ。
ボクは珍しく授業に集中する。
う~ん、何だか頭が痛くなってきた。やっぱり難しいよ。
結局、社会って暗記だもんな。
こういうのって、女子の方が得意なんだよな。
でも、先週の理科の授業を思い出すと、チョットむかつく。
女子の方が男子より脳が進化してるって、先生が説明した時、女子の一人が「じゃあ、男は下等動物だぁ!」って叫んだんだ。そしたら、クラスの全女子が「「男は下等動物!」」って、大合唱だもん。
もうっ、嫌になっちゃう。女子ってホントにデリカシーないんだから。それにその言葉って、確か放送禁止用語だよ。
でも、すぐそんなこと思いつくって、やっぱり女子って言語能力が男子より優れてるからなのかな。
その理科の授業で習ったけど、女性の脳は脳梁が男性より太いから、左脳と右脳の情報交換速度が速いし、言語中枢の働きが男子より活発だって言う。
そういえば、暗記も言語能力だから女子って得意だし、口喧嘩なんかだと、女子って猛烈な勢いで攻撃するから、タジタジで敵わないもんな。
学校からの帰り道、嫌なことを思い出した。
ああん、もう気持ちを切り替えなくっちゃ。だって、来週は中間テストなんだもん。
ボクはこれまた珍しく、家で復習する。ボクだって、やる時はやるんだ。
自宅の机で教科書を開くと、また頭が痛くなってきた。
無味乾燥な文字の羅列。う~ん、目がチカチカするよ。
今回の試験範囲は憲法の内容と制定までの歴史だって。
■女権革命の一年後、現行の憲法が制定されました。
憲法前文
日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、男子の行為によって再び国亡の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が女子に存することを宣言し、この憲法を確定する。
第9条【男性の権利放棄】
日本国民は、正義と秩序を基調とする女男平和を誠実に希求し、男子の人権の発動と 暴力による威嚇又は暴力の行使は、女男間の紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達成するため、男子の選挙権、相続権その他の法律行為の権利はこれを保持しない。男子の基本的人権は、これを認めない。
第97条【基本的女権の本質】
この憲法が女子に保障する基本的人権は、女子の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、 これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の女子に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
■憲法発布式典において、男性は自ら人権の全てを女性に委ねるという、崇高な人権放棄宣言が行なわれました。
男性の人権放棄宣言
日本男子は女権革命の崇高な理念に賛同し、理想社会の建設とその新社会秩序への参加を希求する。
日本男子は、恒久の平和を念願し、女男相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する女子の公正と信義を信頼して、われら男子の安全と生存を保持しようと決意した。
而して、女子主権となる理想社会の新社会秩序に於いては、わが国の全ての権利は女子に属するべきであるとの考えに到った。
ここに日本男子の総意として、男子の全ての権利の放棄を宣言する。
・・・・ふう~、ちょっと、中学時代にタイムスリップしちゃったみたい。
やっぱり社会って難しくて、目がチカチカする。僕は本を元のテーブルに戻す。
壁の時計を見ると、結構時間が経ってる。
さあ、今日はこれ位にして、夕食の準備しなくっちゃ。
僕は図書館のトイレでお化粧直しをする。
だって、これからデパチカだもの、恥ずかしい格好はできないじゃない。
僕だって、お洒落で優雅な一人前のメディーでいたいもの。
でも、こんな贅沢な時間の使い方ができるのって、専業主夫の特権だよな。
妻のおかげで、僕は憧れだった専業主夫になれたんだもの。
僕は妻への感謝の気持ちで胸が一杯になって、何だか頬が熱い。
辺りに人がいないのを確かめてから、指先にキス。そしてその指を首元に押し付けた。
「ありがとうございます、ご主女さま。愛しています」
僕は小声で呟く。
ちょっと水滴がついた金属がキラリと光る。
永遠の愛のしるし、結婚首輪。
僕はうっとりして、しばらく鏡を見つめた。
【OM】
オフィスメディーの略で、事務職として企業に勤務する若い男性をイメージした造語です。
都心の大企業に一般職として勤務することは、若い男性にとって憧れとなっています。
結婚してから、本はほとんど買わなくなった。
OMだった頃はファッション誌とかも結構買ってたけど、今ではそんな無駄遣いは出来ない。
図書館って、男性ファッション誌や主夫向けの雑誌とかも読み放題だし、結構お得。
婦夫の生活費を預かる主夫なんだもん、節約しなくっちゃ。
あっ、展示コーナーで何か企画展やってるみたい。
今回のテーマは教科書展だって。
約100年前から現在までの各種教科書がズラリと並んでる。
ちょっと壮観かも。
スゴイ、これって直接手にとって中身を読んでいいの?
あっ、こんな古そうな教科書も中見ていいのかな。
女権革命前の先史時代の教科書だって。
なんだ、「この教科書は複製です」って小さな文字。そりゃそうだよね。
ちょっと、興味本位で中を見てみる。
旧憲法の説明で「男女平等」なんて書いてある。今風の「女男」じゃなくて、随分古臭い表現に感じる。僕は頭の中で「男女」を「女男」に置き換えて読み進む。
ふうっ、何だか読みづらいや。2、3ページでお腹一杯だよ。僕は本を元の位置に戻す。
隣のテーブルを見ると、僕が中学生の頃の教科書が並んでいた。
これ、これ、これだよ。僕が使ってたのは。
僕は懐かしくなって、中身を見る。
これは社会科のヤツか。
社会って、何か難しくって、ちょっと苦手だったんだよなぁ......
・・・・「きゃー」
ボクは悲鳴をあげた。制服のスカートを後ろから捲られたのだ。
「何だグレーかよ。色気ないぞ、ミサたん」
もうっ!中学生にもなって、スカート捲りするなんて幼稚園から腐れ縁のアイツぐらいだ。
それに、何だよ「ミサたん」って。
小学生の頃のあだ名で呼びつけるなんて、もうアイツだけだよ。
キーンコーンカーンコーン
まずいっ!予鈴が鳴り始めた。
教室に入ると、もう女子の真ん中ぐらいまで出欠とってる。
ヤバイ。
ボクはこっそり席に着く。
うちの学校は今風の混合式名簿じゃなくて、古臭い女男別名簿だから、女子全員の後ようやく男子の番になる。
普段なら待ちくたびれちゃうんだけど、今日は返って有り難い。
あははっ、アイツってば間に合わなかったみたい。いい気味。
こういう時、男子って得かも。
それはそうと、もうすぐ中間試験だ。
ボクは珍しく授業に集中する。
う~ん、何だか頭が痛くなってきた。やっぱり難しいよ。
結局、社会って暗記だもんな。
こういうのって、女子の方が得意なんだよな。
でも、先週の理科の授業を思い出すと、チョットむかつく。
女子の方が男子より脳が進化してるって、先生が説明した時、女子の一人が「じゃあ、男は下等動物だぁ!」って叫んだんだ。そしたら、クラスの全女子が「「男は下等動物!」」って、大合唱だもん。
もうっ、嫌になっちゃう。女子ってホントにデリカシーないんだから。それにその言葉って、確か放送禁止用語だよ。
でも、すぐそんなこと思いつくって、やっぱり女子って言語能力が男子より優れてるからなのかな。
その理科の授業で習ったけど、女性の脳は脳梁が男性より太いから、左脳と右脳の情報交換速度が速いし、言語中枢の働きが男子より活発だって言う。
そういえば、暗記も言語能力だから女子って得意だし、口喧嘩なんかだと、女子って猛烈な勢いで攻撃するから、タジタジで敵わないもんな。
学校からの帰り道、嫌なことを思い出した。
ああん、もう気持ちを切り替えなくっちゃ。だって、来週は中間テストなんだもん。
ボクはこれまた珍しく、家で復習する。ボクだって、やる時はやるんだ。
自宅の机で教科書を開くと、また頭が痛くなってきた。
無味乾燥な文字の羅列。う~ん、目がチカチカするよ。
今回の試験範囲は憲法の内容と制定までの歴史だって。
■女権革命の一年後、現行の憲法が制定されました。
憲法前文
日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、男子の行為によって再び国亡の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が女子に存することを宣言し、この憲法を確定する。
第9条【男性の権利放棄】
日本国民は、正義と秩序を基調とする女男平和を誠実に希求し、男子の人権の発動と 暴力による威嚇又は暴力の行使は、女男間の紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達成するため、男子の選挙権、相続権その他の法律行為の権利はこれを保持しない。男子の基本的人権は、これを認めない。
第97条【基本的女権の本質】
この憲法が女子に保障する基本的人権は、女子の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、 これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の女子に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
■憲法発布式典において、男性は自ら人権の全てを女性に委ねるという、崇高な人権放棄宣言が行なわれました。
男性の人権放棄宣言
日本男子は女権革命の崇高な理念に賛同し、理想社会の建設とその新社会秩序への参加を希求する。
日本男子は、恒久の平和を念願し、女男相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する女子の公正と信義を信頼して、われら男子の安全と生存を保持しようと決意した。
而して、女子主権となる理想社会の新社会秩序に於いては、わが国の全ての権利は女子に属するべきであるとの考えに到った。
ここに日本男子の総意として、男子の全ての権利の放棄を宣言する。
・・・・ふう~、ちょっと、中学時代にタイムスリップしちゃったみたい。
やっぱり社会って難しくて、目がチカチカする。僕は本を元のテーブルに戻す。
壁の時計を見ると、結構時間が経ってる。
さあ、今日はこれ位にして、夕食の準備しなくっちゃ。
僕は図書館のトイレでお化粧直しをする。
だって、これからデパチカだもの、恥ずかしい格好はできないじゃない。
僕だって、お洒落で優雅な一人前のメディーでいたいもの。
でも、こんな贅沢な時間の使い方ができるのって、専業主夫の特権だよな。
妻のおかげで、僕は憧れだった専業主夫になれたんだもの。
僕は妻への感謝の気持ちで胸が一杯になって、何だか頬が熱い。
辺りに人がいないのを確かめてから、指先にキス。そしてその指を首元に押し付けた。
「ありがとうございます、ご主女さま。愛しています」
僕は小声で呟く。
ちょっと水滴がついた金属がキラリと光る。
永遠の愛のしるし、結婚首輪。
僕はうっとりして、しばらく鏡を見つめた。
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