ぽちゃ姫と執着魔法使い

刈一

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数日が経った。
カロルの家からは未だ出ることこそはできないにしても、フォワレはカロルの操縦法をもはや完璧なまでに会得していた。

今、彼はフォワレの願いを叶えるために新たに部屋を増築している最中だ。

フォワレが主に過ごす部屋の出口より、少し離れた所に作られた扉の中に二人はいた。

「カロルったらそんなことまでできるのね!本当にすごいわ~!」

彼の細い指を握ってそう言えば、頬を染めた上で願いを叶えてくれる。
何故そんな簡単に魔法を使えるのかという疑問は中々口にできない。

聞きさえすればカロルはすぐに答えてくれるだろう。
しかし答えによっては希望を失いかねないと思うと、質問することはひどく困難だった。

葛藤するフォワレにまったく気付かず、褒められたカロルは耳まで赤くして喜んでいる。

「まるで神様ね!よっ、この天才!」
「えへへ…何でも言ってね。君の願いならなんだって叶えてあげるよ」
「ワ~ウレシ~」

じゃあ家に帰してと言ったら渋面で断られることは簡単に想像がつく。

今作っているこの部屋は浴場だ。
カロルはこの数日の間、魔法で体を綺麗にしてはくれた。
しかしそれは、のんびり一人になる場所が皆無ということでもあった。
もはやトイレにさえもベッタリと着いてくる彼に、フォワレは心底疲れ果てていた。

そんな思惑に気付いていないカロルは、愚直にも立派な風呂場を作り上げていく。


「わ、わ~…」
「フォワレちゃん、気に入ってくれた?どこか気に入らないなら言ってね、すぐに直すから」

当然褒められる気満々のカロルに、対するフォワレはとても引いていた。

差し渡し20メートルはあるかという縮尺の狂う一室は、使われている素材も全て金と宝石で出来た目に痛いほどのしつらえだ。
見渡す一面金でできた大浴場、そしていたるところに現れる謎の目玉のモチーフが言い知れない嫌悪感をわかせる。

「あの、ごめんね。ほんと今更だと思うんだけど…全部嫌」

ついにぶちまけると、カロルは途端に動きが固まってしまう。

「いやごめんねほんと…。言いにくくて…」

目を軽く見張り、眉はハの字に垂れ下がる。
カロルがひどくショックを受けているので、あんまり楽しそうに作るものだから…と言い訳を連ねた。

「いや…いいんだよ。君の好きなものが作れなくて悲しくなっただけなんだ…」

ニコリと微笑む顔にも心なしか元気がない。
フォワレの腕を掴んでギラギラ輝く浴室から出ると、カロルは浴室の扉に指でX印を刻んだ。

「これは無し!フォワレちゃん、これから僕に遠慮なんてしなくていいからね」
「わ、わかったわ」

さあ、今度こそ君の好みのお風呂を作ろう。
そう言って開いた扉の中身はすっかりと綺麗に無くなっていた。


「私外に出たいの」

浴室が無事に完成し、昼食を食べる段階に至った時だ。どうにか勇気を振り絞った一言だった。

カロルは少し困ったように眉を潜める。
これは言い方をしくじった。フォワレは反省して、すぐに言葉を組み立てる。
出来る限りの微笑みを浮かべて、カロルの細い指を震えながら握った。

「な、何か変なこと考えていない?私はあなたとピクニックに行きたいって思っただけなのよ?」
「ああ……驚いた。まだおうちに帰りたいのかと思ってドキドキしたよ」

しくじった影響か、フォワレが媚を売ってみてもそこまでの反応は返ってこない。
カロルはフォワレの手を少し離すと、指同士を交互に絡めるようにして握り込んだ。

内心冷や汗でびっしょりのフォワレの心境など、カロルはちっとも理解していない。

「ねぇフォワレちゃん、僕は君とこの家で二人で居られたら幸せだなぁ。君もそうならもっと嬉しいんだけど…」

彼がフォワレの都合など気にしないように、フォワレだってカロルの都合など関係ない。
深く握られた手のひらを度胸でもって更に握り返すと、カロルの肩にしなだれかってみる。

「でもねでもね、この間言ってた森の奥にある果実…カロルと一緒に採りに行きたいなぁ」

だめ?
恐ろしさからおどおどと見上げるフォワレの仕草は、カロルの心に渾身の一撃を与えた。

「…い、いく…。フォワレちゃんが行きたい所に一緒に行きたい…」

彼の潤んだ目の中にハートが見えた。

フォワレは勝利をもぎ取ったのだ。
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