解せない王子のことなんか

ぱんなこった。

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お付き合い

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柵を登り切ってベランダに入った波璃は、振り返り詩乃也に手を差し伸べた。

「ほら、早く」

波璃の夜風になびく栗色の髪の毛と透けそうな肌が、月明かりに照らされる。柵の向こうからこちらに手を差し出しているその絵面は、まるで童話に出てくる宮殿の王子のようだ。

詩乃也は、不覚にも思わずその姿に息を飲んでいた。

「…っいらねぇ!」
「遠慮しないで掴まってください。慣れないと登りづらいので」
「慣れる方がおかしいだろ!つか、俺ゴミ箱ハマってクソ汚ねぇんだから触んな!」
「汚くないですよ。ていうかさっきから腕掴んでますし」

手を借りずに柵を登ろうとした詩乃也の手を波璃は優しく握る。そして細い体には似合わない腕力で詩乃也を引っ張りこんだ。

一一一何なんだ、こいつ。ゴミと砂利で汚れた俺の手を容赦なく掴むなんて。無菌で育ってそうな風貌してんのに。

「どうぞ入ってください。靴はそこに置いといてください」

そう言われて渋々部屋の中に踏み入れた詩乃也は、思わず頭を抱えた。

「なっ、なんじゃこの部屋!!!広!!」
「そうですか?あと声はあまり出さないでくださいね、鍵はかかってるので誰も入れませんけど」

外見通りの室内は、詩乃也の住んでいる1Kのアパートの部屋がすっぽり入ってしまうほどの広さ。それにキングサイズのベッドと、白と茶色がベースの家具。高級感のあるソファとテレビも置いてある。

「…どんな人生送ってたらこんな部屋住めるんだよ。大体これが1部屋って豪邸すぎだろ」
「別に、広いだけですよ」

一一一ほんと、こいつ愛想ないな。目つき悪くてよく威嚇してる俺が言えることじゃねーけど。

「となり来てください、ここ」

普段に大きな茶色いソファに座り、波璃は自分の隣のポンポンと叩く。詩乃也は我に返り、近付こうとした足を止めた。

「いや、行かねぇよ!ていうか、早くさっきの交換条件なんなのか教えろ!」

睨みを効かせてそう言うと、波璃は「はぁ」とため息をついた。そしてソファから立ち上がり、詩乃也の目の前まで近付く。

「…なんだよ」

こうして立っていると分かりやすいが、お互いの身長はさほど変わらないようだ。178センチの詩乃也より波璃が少し低い程度だろうか。

一一一さっきはゴミ箱にハマってたから俺の方が下だったけど、こいつ別に体もデカくねえし背も俺と変わんねぇじゃん。ヤベエもん要求されても余裕でねじ伏せられるな。

「日内さん…でしたよね」
「あ?今更なんだよ」
「お願いは…付き合ってほしいんです」
「……は?」
「僕と、お付き合いしてほしいんです」

一一一オツキアイ?お突き合い?おつきあい?

「………なんて?」
「だから、僕と恋人になってほしいんです」
「……はぁぁぁぁ!!!?」
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