壊れて焦がれてそばにいて

ぱんなこった。

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心酔④

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「あっ、あの…」

なんで僕は憂君の上に跨って、抱きしめられているんだろうか。隙間なく体が密着していて、心臓がバクバクいってる。

驚きのあまり、涙が引っ込んでしまった。この状況はそれほど理解できないけど。でも、好きな人の腕の中なんて、こんなに心地いいものはない。

「あれ…ごめん。俺…」

でも数秒ほど経ってから、憂くんは僕の肩を掴みゆっくりと体を離した。その顔は自分が何をやったのか、まるで分かっていない表情だ。

「何やってんだろ…」

でも、初めて見るその表情に胸がザワザワしてしまった僕は、離された体にしがみついて、またぎゅっと憂くんの腕の中に自ら収まった。

もう訳分からなくてもいいから、今はこの時間に浸っていたい。そう思ってしまったんだ。

「ねぇ、なんで泣いてたの?」

「…なんでかな」

「俺が傷付けた?」

この状態より、僕が泣いてた方が気になるんだ。きっと根はすごく優しいんだろうな。

「違うよ。憂くんが…」

「俺が?」

「いや、なんでもな…」

「言って」

言って…?って、僕の気持ちを?憂くんは僕が何を言うと思ってるんだろう。

今この状態で言ったってダメだ。そう思ってたのに、言わせようとするなんてずるい。

「…言えない」

「なんで?」

「一緒にいたいから…!こうやって、憂くんとずっと一緒にいたいって思うから…」

「…叶羽くん」

「…っだから、好きとか、まだ言えな……」

全部なくなるかもしれないのに…僕の口が勝手に動いたんだ。本当はずっと伝えたかったのかもしれない。

これからも一緒にいたいけど、支えられればそれでいいって言ったけど…やっぱりこの気持ちを無かったことにはしたくなかった。

自分が今どんな顔をしてるか、どんな顔を見られているだろう。

「…俺のことが?好き?」

「……っいい、今は、何も言わないで!」

そう叫んだ瞬間、僕の体は床に仰向けに倒れていて、真上には憂くんがいた。バランスを崩した訳じゃない、憂くんがそうさせた。

何も聞きたくない、でも聞きたい。何か僕のこと感じてほしい。頭の中はぐちゃぐちゃで、でもこの状況にただ胸を弾ませてる僕もいる。

でも…

「これ、何しようとしてるの…?」

「…え、あ」

「憂くんは、こういう事する女の子たくさんいたみたいだけど…僕はその子たちと一緒じゃない。そうなりたい訳じゃないよ。体だけとか嫌だ…」

「分かんない、分かんないよ…!じゃあどうしたら…」

触れたくないわけじゃない。本当は肌に、手に、体に全部に触れたい。でもそれで終わりなんて嫌だ。

「分かんないなら、もう…」

僕は憂くんの頭を引き寄せて、顔を近づける。

そして頬に触れるだけのキスを落とした。

ゆっくり顔を離すと、目を見開いて丸くしてる憂くんの顔が間近にある。驚いてるんだろうか。男にキスされたってことが。

本当は今にでもこの気持ちが爆発してしまいそうだけど、唇に触れることはできなかった。何も分からないまましたくなかったから…。

「…ごめん、これが僕の気持ち」

「え…」

「何も、思わないよね…。でも好きだ、憂くんのこと」

「俺のこと…?」

秘めてたものが弾け飛んだみたいに、ポツリと言葉が零れた。いま伝えてもどうなることも出来ないはずなのに、もう止まることができない…。

「うん…、好き、だよ…」

「…っい、」

「え…?」

「…っあ、ごめ、ごめんなさ…」

「憂くん…、?どうしたの?」

だけど僕の言葉を聞いた後、突然憂くんは頭を抱えながら「ごめんなさい」と何回も呟き始めた。僕の言葉に対してじゃない、何か取り憑かれたものに謝るように。

「憂くん!大丈夫だよ、落ち着いて…!」

「ごめん、ごめ、なさ…ごめんなさ…」

何が起きたか分からないまま、頭を抱えて震える憂くんを抱きしめて背中をさする。

「あ……っ、ごめ、なさ…」

「僕がいるよ、憂くん…、大丈夫だから」

「原崎、くん……」

「え…?」

今、名字で呼んだ…?僕のこと。聞き間違いじゃないよな。確かにそう聞こえた。

なんでずっと名前で呼んでたのに…今更名字で?

「大丈夫だよ…」

気になりはしたけど、とりあえず今は憂くんを落ち着かせたくて、なにも聞かず背中を優しくさすった。

もしかしたら僕の告白を聞いて、何か思ったことがあったのか、何か思い出したのかもしれない。
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