6 / 46
1
再会⑥
しおりを挟む
一瞬、佐々木くんが何を言ったのか聞こえなかった。いや脳が伝達ミスをするほどに、僕は今思考が止まっている。言葉が出てこなくて固まって突っ立っていると、佐々木くんは足を止めて僕の方へ近付いた。
「今、なんて言った…?ホテルって言った?」
「あ、聞こえてた?そう、言ったよ。一緒にホテル来ない?って」
どうやら伝達ミスではなかったらしい。だが、しかしそれ以上の意味は分からない。久しぶりに再会した同級生をいきなりホテルに誘う意味とはなんだろうか。
「えっと、目的を聞いてもいい?」
まさか、佐々木くんも僕と同じでゲイだとかそういうことなのか?と一瞬考えたが、そんなに都合よく自分と同じ境遇の人に何人も会うわけないな。
「ああ、女の子に誘われてて。この近くにいるから今から来れないかって。だから原崎くんもどうかなって」
「ほら、やっぱり違った」と肩を落としたが、それよりも気になるのは女の子に誘われたということ。僕を誘って来たということは、彼女ではなさそうだ。
「あの…それって彼女じゃないよね?」
「うん、違うよ。彼女いない」
「じゃあ、セフレってこと?」
「そうだね」
そうだったか…。佐々木くんって高校の時そんな噂は聞かなかったけど、今は大人になったってことなのか。まあ大人になれば、そういう相手の1人や2人いてもおかしくないだろう。
それにしても、そんな突っ込んだ話でも顔色ひとつ変えず淡々と言うんだな…。
「ぼ、僕は遠慮しとく」
「そう?分かった。じゃあここで」
「あ…待って!」
呆気なく去ろうとする佐々木くんの手を思わず掴んでしまった。初めて触れた佐々木くんの体。細いのに想像よりもゴツゴツしていて、意外な感触だった。
「なに?」
「えっと…その、よくそういう女の子と会うの?」
「まあ、うん。誘われたら」
「へぇ…何人もいたりするの?」
「数えたことないから分かんない。1回だけで終わる人もいるし」
それは、数え切れないほどいるってことか?ギョッとするってこういことだろうな。
「それが聞きたかっただけ?」
「あ、あともう1つ、なんでそんなにセフレを作ってるの?」
嫌そうな顔をする訳でもなく、気まずそうな顔をする訳でもなく、佐々木くんはただ授業で問いに当てられた生徒のように淡々と答える。
「作ってる訳じゃないけど、誘われたらするだけ。俺からは誘わないし、その後また連絡がきたら何もなければ会う感じかな。ああ、でもそれをセフレって言うのかな?会ってって言われたら断る理由ないし会うだけだよ」
なんで僕はこんなにこの人のことが気になるんだろう。別に自分には関係のないことなのに。あの時と同じだ。教室で佐々木くんを見つけた時みたいに、目が離せない。
「そ、そっか……」
「原崎くん」
「え、?」
「なんで手をずっと握ってるの?」
視線を下ろすと、僕の手に無意識にずっと掴みっぱなしだった佐々木くんの手があった。もうすぐ秋とはいえ、まだ少し生暖かい季節のせいか、僕が激しく動揺しているせいか。熱を持って手が汗ばんでいる。
「あ、ご、ごめん」
「君の手、すごく熱いね。変なの」
「…あの、佐々木くん、連絡先教えてくれないかな」
「連絡先?うん、いいよ」
これも、動揺したせいかもしれない。でも、もしかしたら僕は、佐々木くんと知り合って仲良くなりたかったのかもしれない。いや、それともあの時みたいな佐々木くんの顔が見たいから?
いや、今はどの理由も考えられるし、自信を持って言える理由が分からない。
「はい、これ登録しといて」
「…うん、ありがとう」
「じゃあ、行くね」
「連絡とかしてもいいかな!?」
「別に?いいよ?」
今度こそ背中を向けて歩いて行った佐々木くんの背中を見送った。失恋した日に、こんな刺激を受けるとは思わなかったよ、俊太。
「今、なんて言った…?ホテルって言った?」
「あ、聞こえてた?そう、言ったよ。一緒にホテル来ない?って」
どうやら伝達ミスではなかったらしい。だが、しかしそれ以上の意味は分からない。久しぶりに再会した同級生をいきなりホテルに誘う意味とはなんだろうか。
「えっと、目的を聞いてもいい?」
まさか、佐々木くんも僕と同じでゲイだとかそういうことなのか?と一瞬考えたが、そんなに都合よく自分と同じ境遇の人に何人も会うわけないな。
「ああ、女の子に誘われてて。この近くにいるから今から来れないかって。だから原崎くんもどうかなって」
「ほら、やっぱり違った」と肩を落としたが、それよりも気になるのは女の子に誘われたということ。僕を誘って来たということは、彼女ではなさそうだ。
「あの…それって彼女じゃないよね?」
「うん、違うよ。彼女いない」
「じゃあ、セフレってこと?」
「そうだね」
そうだったか…。佐々木くんって高校の時そんな噂は聞かなかったけど、今は大人になったってことなのか。まあ大人になれば、そういう相手の1人や2人いてもおかしくないだろう。
それにしても、そんな突っ込んだ話でも顔色ひとつ変えず淡々と言うんだな…。
「ぼ、僕は遠慮しとく」
「そう?分かった。じゃあここで」
「あ…待って!」
呆気なく去ろうとする佐々木くんの手を思わず掴んでしまった。初めて触れた佐々木くんの体。細いのに想像よりもゴツゴツしていて、意外な感触だった。
「なに?」
「えっと…その、よくそういう女の子と会うの?」
「まあ、うん。誘われたら」
「へぇ…何人もいたりするの?」
「数えたことないから分かんない。1回だけで終わる人もいるし」
それは、数え切れないほどいるってことか?ギョッとするってこういことだろうな。
「それが聞きたかっただけ?」
「あ、あともう1つ、なんでそんなにセフレを作ってるの?」
嫌そうな顔をする訳でもなく、気まずそうな顔をする訳でもなく、佐々木くんはただ授業で問いに当てられた生徒のように淡々と答える。
「作ってる訳じゃないけど、誘われたらするだけ。俺からは誘わないし、その後また連絡がきたら何もなければ会う感じかな。ああ、でもそれをセフレって言うのかな?会ってって言われたら断る理由ないし会うだけだよ」
なんで僕はこんなにこの人のことが気になるんだろう。別に自分には関係のないことなのに。あの時と同じだ。教室で佐々木くんを見つけた時みたいに、目が離せない。
「そ、そっか……」
「原崎くん」
「え、?」
「なんで手をずっと握ってるの?」
視線を下ろすと、僕の手に無意識にずっと掴みっぱなしだった佐々木くんの手があった。もうすぐ秋とはいえ、まだ少し生暖かい季節のせいか、僕が激しく動揺しているせいか。熱を持って手が汗ばんでいる。
「あ、ご、ごめん」
「君の手、すごく熱いね。変なの」
「…あの、佐々木くん、連絡先教えてくれないかな」
「連絡先?うん、いいよ」
これも、動揺したせいかもしれない。でも、もしかしたら僕は、佐々木くんと知り合って仲良くなりたかったのかもしれない。いや、それともあの時みたいな佐々木くんの顔が見たいから?
いや、今はどの理由も考えられるし、自信を持って言える理由が分からない。
「はい、これ登録しといて」
「…うん、ありがとう」
「じゃあ、行くね」
「連絡とかしてもいいかな!?」
「別に?いいよ?」
今度こそ背中を向けて歩いて行った佐々木くんの背中を見送った。失恋した日に、こんな刺激を受けるとは思わなかったよ、俊太。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる