零下3℃のコイ

ぱんなこった。

文字の大きさ
上 下
43 / 49
5

彼氏

しおりを挟む
抱き締め返した日下部の背中は、汗でシャツがくっついていて…普段の涼しげな雰囲気からは想像できないくらい。
それだけ必死になってくれてたんだ…。

「…ありがとう」

「うん…いっ、、!」

緊張が切れたせいか、さっき殴られた頬と少し切れた唇がズキズキし始めた。

「…あ!!そうだった、ごめん!すぐ保健室連れてくね。怪我の手当しないと…!」

「え、あ、うん…」

「僕の肩に手回して」

あ…前もこんなことあったな。
僕が、日下部と雪菜さんの前で転んで足ちょっとくじいちゃった時…。
あの時は知り合ってすぐで、こうやって保健室連れてってくれたな。

「僕に体重かけていいからね」

備品室を出て、日下部に体を支えられながら、保健室へと歩き出す。

似たような状況だけど、前と違うのは…こいつが僕の恋人になったってこと。

そうか。人生で初めての…恋人…。

「風音くん?なんで笑ってるの?」

「わっ笑ってない…!!いっ…!」

「あ、ダメだよ。大きく口開けちゃ…傷が開いちゃうから」

「う…、うん」

まだ、なんとなく実感が湧かないというか…むず痒い。

ガラガラガラ

保健室へ入ると、中には誰もいなくて扉の所に「不在です」の札がかけられていた。

「あ、先生またいないね。風音くんここ座って」

「ありがとう…」

僕をベッドの上に座らせてから、日下部は棚の方へ行って消毒液と道具を持ってきた。

やけに静かな室内は、僕達の歩く音や物音しか響かなくて、心臓の音まで聞こえそう…。

「風音くん、消毒するからこっち向いて」

「あ、うん…」

消毒液を浸したガーゼをピンセットで摘んで、僕の顎を片方の手できゅっとゆっくり持ち上げる日下部。
そして、傷口にそっとガーゼを当てた。

「いっっだぁ……!!!」

「大丈夫!?痛いよね…でもちょっと我慢してね」

「ううぅ…いっ…てててて」

傷にダイレクトに攻撃してくる消毒がしみて、めちゃくちゃ痛い。キンキンする。でも我慢しないと…。

ぎゅーっと目を閉じて耐えていると、ガーゼが離れていって、ぺとっと唇の端に絆創膏が貼られた。

少し涙目になったまま目を開く。

「……っお、おわった?」

「うん、終わったよ。あとは…はい。保冷剤でほっぺの赤いところ冷やして」

「うん……」

渡された保冷剤を頬に当てると、そこは熱を持った部分にひんやりして気持ちがいい。

「ありがとう…手当てしてくれて」

「……」

「日下部…?」

「いや……ごめん。風音くんが痛い思いしてるのに…不謹慎なこと考えて」

「不謹慎なって?なにが?」

キシ…とベッドの軋む音と一緒に僕の隣に座る日下部は俯いたまま。

「……風音くんが、可愛くて好きすぎて、キスしたいって」

「……えっっ」

えっ!!?今!?

「えっ…………と、、」

「自分の気持ち認めてから、もう一緒にいていいんだって思ってから…どんどん溢れてくる。好きな人が触れる所にいるんだって」

「……う、うん」

「だから……どんどん止められなくなって……」

僕に気遣って、優しく触れてきた日下部の手は、僕の後頭部に伸びてそのままゆっくり撫でる。

「あ、あの…」

「傷に触らないようにするから…キスしていい?」

「……っう、うん」

頷いてからチラッと視線を移すと、目の前に日下部の顔があって…熱っぽい目で僕を見つめてる。

そして深呼吸する間もなく、唇がそっと触れた。

「……っん、」

優しく触れるだけのキスは…唇の柔らかさを実感して、逆にむず恥ずかしい感じがする。

ちゅ…と音を立てて唇が離れたと思ったら、至近距離のまま肩をゆっくり押されて倒されていく。

「え、あの…?日下部?」

そして仰向けになる僕の体。

「好きな人と結ばれるって…触れられるってこんな幸せなんだね」

「……っ」

「もちろん、付き合ったからって幸せなことばっかじゃないって分かってるけど…どんな状態になっても風音くんと一緒にいたいって思うよ」

「ば、ばか!そんなの、僕も…だよ。ていうか、僕の方が慣れてないし初めてだらけだから…その、迷惑かけると思うけど…」

「迷惑なんかじゃないよ。それに、もう練習なんてしないけど…ついてきてね」

「へ…?んっ…」

また不意に上から降ってきたキスに、固く唇をぎゅっと閉じてしまった。

こんな体勢……心臓が出そうになる…!

「風音くん…唇少しだけ開けて」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,222pt お気に入り:222

束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:747

黒魔術と性奴隷と ~闇の治療魔術師奇譚~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,477

【R18】【続編】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,250pt お気に入り:505

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,663

殿下、そんなつもりではなかったんです!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,332pt お気に入り:747

処理中です...