零下3℃のコイ

ぱんなこった。

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触れたい

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「お2人ですね。はーい、どうぞ~」

観覧車に乗りたいって…意外だった。

密かに憧れてたな、好きな人と観覧車乗ったりするのって…

いやまあ!これも練習だと思えば…

「行ってらっしゃーい」

ガチャンッ

ゆっくり進む観覧車に乗り込んで、重く閉まった扉。
閉まったと同時に、中の空気が一気にシーンとして、本当に密室って感じ…。

「……」

「……」

す、すごい。何話したらいいんだこれ。
こんな空間知らなかった。

「…初めて乗ったな」

「え!?」

「観覧車。風音くんは?」

「ああ…僕も、初めてだよ。家族と来たことはあるけど、乗らなかったし…」

風の音と僕達だけの声が響いて変な感じ…。

「あと、ずっと憧れてたなぁ。いつか好きな人とデートで来て乗りたいって」

「…そっか」

日下部、ずっと外見てる。何考えてんだろ…。

「ごめんね、僕と先に乗っちゃって…」

「いや!いいんだよ!!だって今日はその、デートの練習…だし」

あれ…なんで、また胃がムカムカする。

「この前、光ちゃんと偶然会った時さ色々話した?」

「えっ!?ああ…バイト中だったからそんな話してないけど…お前の家のこととか、その…普段の様子とか心配してたよ」

「心配か。光ちゃん、かっこいいでしょ?」

「え!?う、うん。たしかに…大人っぽくてかっこいいな。しかも優しいし…日下部が好きになるのも分かる気がするよ」

なんでそんなこと言ってくるんだ…。

「聞いたかもしれないけどさ、僕小さい頃から家に親がいないことの方が多くて…1人で留守番ばっかりで。そんな時に雪菜と光ちゃんと家族ぐるみで仲良くなって…家に1人でも光ちゃん達がいてくれたから寂しくなくなった」

「…うん」

「光ちゃんはあんな感じだから、ずっと優しくてそばにいてくれて…いつの間にか、この好きは友達とか家族へとものと違う…特別な感情なんだって気付いた。でも、叶うことないって分かってたから、好きだけど辛かった」

ぽつりぽつりと、日下部は外を見ながら言葉を零す。なぜかその横顔から目が離せない。

「叶わないって分かってて好きになるの、辛いよね。風音くんもそうだったでしょ?」

「…あ、うん。僕はそんな…日下部ほど長くないけど…分かるよ」

雪菜さんを好きになって、彼氏がいるって分かって…でも諦められなくてウジウジしてた時。

あの、どうしたらいいんだろう…って気持ちは分かる。

「でも僕は…実は2年になって日下部と話すまで、勝手に日下部のことライバル視してて…悔しいってよく玉木に愚痴ちゃってた。何も知らなかったから…ただのラブラブな彼氏だと思ってて…」

「…うん」

「だから実は…日下部に話しかけられた時も、同じクラスになったこと嘆いてたんだ。お前に勝てないって思ってたから負け惜しみ…」

「ふふ、やっぱり目の敵にしてたんだ?」

「うっ…!それは、ご、ごめん。でも今は違う!日下部の本当の姿とか中身とか知れて…今はだんだん違う感情になってる気がする」

「違う感情って…?」

僕は何を言ってるんだ…
こんないつもと違う空間だから、口が緩んでるの?

「実は、寂しがり屋で繊細な所とか、素直じゃない所とか…何でも1人で耐えようとする所とか…さりげなく優しい所とか分かって…だんだんお前のこと気になってき、て」

え。

なんでそんな…じっと見つめてくるんだよ。
苦しくてしょうがない。

「…気になる?僕のこと気になるの?」

「…っえ、と」

「雪菜のことじゃなくて?」

ドク…ッ。

そう、だよな。何言ってんだろ、僕。
頭おかしくなったのかもしれない。

その一言が、やけに突き刺さるから。

「自分でも…よく分からないんだよ、これなんなんだよ」

「…風音くん」

「僕は、雪菜さんのこと好きなんだよ、な?」

そんなこと、こいつに聞いたってどうしようもないのに…答えが分かんなくて、自分の中でモヤがかかってるから。

僕は、なんて答えてほしいんだ?

「…そうだよ。風音くんの恋が上手くいくように、僕が別れられるように、するんだよね?」

「…っでも!!」

グラ…

「わっ…!」

勢い余って立ち上がった瞬間、風が強く吹いて、ゴンドラが少し揺れた。

「急に立ったら危ないよ…」

「…っご、ごめん」

ふらついた僕の体を、咄嗟に日下部の手が支えた。腰と肩に触れた手が…今までのことを思い出させてくる。

「…っ」

「風音く……!?」

ガタンッ

日下部の襟元を思い切りこっちに引き寄せて、また座席に尻もちをついた。

「なっ…なにしてんの」

座る僕に覆い被さるようにして、日下部は両手をつく。
すぐ目の前には、綺麗な顔があって…前髪が目に被って揺れている。

「あのさ、家に行った時、ベッドの上で…なんで抱きしめてきた…?」

「え…」

「教室で、なんで力いっぱい抱きしめてきた?ありがとうってなんだよ?なんで、あんな切なそうな顔するんだよ…!僕は、お前が何考えてるのか知りたい…!」

「……」

「僕の、お前に対するこのよく分からない気持ちがなんなのか、知りたい…!」

はぁはぁ、と息が荒くなる。胸がバクバクいってる。
思ってることが口から溢れて止まらない。

「…僕は、風音くんを心の拠り所にしちゃってるって言ったでしょ?」

「…う、うん」

「それだけ。辛いから…風音くんと一緒にいたら楽しくて、安らぐから…縋っちゃってるだけだよ」

「え…」

「風音くんも、優しいから、きっと僕の事情知って…同情してるだけだと思う。それだけ」


ぐいっ

「……っ!」



もう無我夢中で、そのまま服を掴んだまま日下部を引き寄せた。

全部弾けたみたいに、ただ夢中で。

「…んっ」  

初めて

唇を

重ねてしまった。

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