零下3℃のコイ

ぱんなこった。

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あいつの好きな人

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「ありがとうございましたー!」

「春野くん、なんか元気ないね?」

「わ!店長…そ、そうですか?接客に出てましたか?」

「いや?接客はいつも通りだけど、私には分かるんだ」

「さすが…すごいですね…」

バイトの間は少し気が紛れるし、感じさせないように振る舞ってるけど、やっぱり顔に出ちゃってるのかな…。

「すみません…」

「えー?謝ることはないよ。仕事しっかりやってくれてるし。ただ従業員が元気ないと気になるじゃないか」

「個人的なことなんですけどね…」

「あー、もしかしてこの前話してた好きな人のことか?」

「さすが、勘がいいですね…!」

「またなんか悩み事か?」

「いや、それのことなんですけど、またちょっと違う問題が…」

カランカラン

あっお客様だ…

「いらっしゃいませー!」

「いらっしゃいませ、何名様で……」

あれ?この人…もしかして…

「あ、1人です」

メガネに、茶色いサラサラした髪の毛、高身長…

あ!!やっぱり!!

「ん…?あれ?君ってもしかして…」

「…あ!えっと、もしかして日下部の幼馴染の…?」

「そうそう!!君この前、零の家に遊びに来てた子だよね?えっと…確か春野くんだっけ!」

そうだ。雪菜さんのお兄さん…!
え、名前覚えてたんだ…というか、顔も忘れられてるかと思ったのに。

「あ、はい!そうです!こんにちは…」

「こんにちは!すごい偶然だね~ここでバイトしてたんだ」

あの時も思ったけど、すごい爽やかでかっこいい感じ…。

「はい、あ、お一人様ですよね?こちらの席へどうぞ」

本当にすごい偶然だ、こんなことあるんだ。
まさか僕のバイト先に来るなんて……

「ご注文はお決まりですか?」

「うん、アイスコーヒーお願いします。ブラックで」

「かしこまりました」

ブラックで飲むとか、やっぱり自分より大人って感じする。
僕はコーヒーならミルクと砂糖入れないと飲めないな……。

あ、そういえば日下部も甘いの好きって言ってたっけ。

「だ!だから、なんでそこでアイツが……」

「春野くーん、これお願いねー」

「あっ!はい!」

グラスに入れられて、氷が揺れるコーヒーをお盆に乗せて席へと向かう。

「わぁ…」

座っている光也さんはシックでおしゃれな内装に似合う……
シャツを捲った腕とか、手首の時計とか、片耳だけついてるピアスとか。

なんで、この人が好きな子のお兄さんか…って思うよりも

日下部の好きな人なんだ…って思ってしまうのか。


「お待たせしました、アイスコーヒーです」

「ありがとう!」

「あ、あの…この辺よく来るんですか?」

え、何話しかけてんの、自分…!

「うん、大学からの帰り道でね。こうやってどっかカフェとかに寄るのが好きなんだ」

そっか、だからあの時も雪菜さんとこの辺一緒に歩いてたのか。

「春野君は、ずっとここでバイトを?」

「あ、はい。高1の時から…」

「へぇ、すごいね!これからたまにお邪魔するかも」

「あ!ありがとうございます……!」

「あ、ねぇねぇこの前は話せなかったけどさ。零って普段どんな感じ?」

「えっ!?どんな感じって……」

「ああ、あいつちょっと壁がある感じだったでしょ?零は小さい時から親御さんが忙しくて家に全然いなくて…ずっと寂しかったはずなのに、それを感じないように堪えてたっていうか……
僕達と一緒にいるようになってから少し明るくなったけど、昔から引っ込みがちで僕達以外の人にあまり心開かなかったんだ」

あ、それって…

あの日の言葉…。

日下部が何も感じないようにしてるって言ってたのは、恋愛の他にも、やっぱり家のことも関係してたんだ。

あいつ、ずっとずっと寂しかったんだ。

寂しくて、でもそれをずっと感じてたら気持ちが持たないから、笑顔作って耐えて…?
それで、そばにいてくれた人を好きになったのに…それもなんとか隠して辛さを感じないようにして……

「あ…そうだったんですね」

「そー。俺の妹と付き合ってるんだけどね?そのことも何にも話してくれないし、友達もいないし本当心配になっちゃう」
 
うっ…!!全部事情を知ってるからなんか気まずい…!


「あ!こんな話してごめんね!!春野くんみたいな子が仲良くなってくれたから嬉しいんだ!君には心許してる顔してたから、ついどんな感じか気になっちゃって…」

「えっ!心許してる…そんな感じしますか?」

「うん、僕にはよく分かるよ。あの零が、あんな安心した顔見せるなんて…きっと春野くんが、それだけいい子で、零も春野くんのこと好きなんだなって伝わってくる」

すっっっ!?

いやいや、落ち着け。その好きって友達として好きってことだろ。
なに勘違いして動揺してんの!?

「そ、それは、、なんというか…ありがとうございます!」

「ううん。零と仲良くしてくれてありがとう。あいつのことよろしくね」

「は、はい。こちらこそ!長々すいません!では……」

光也さんって、すごい優しくて面倒見が良くて…日下部のこと本当に家族みたいに大事に思ってるんだな。

きっと、日下部はそこに支えられて…恋をしたんだろうな。


「あ!ちょっと待って!」

「へっ?!」

「これ、あげるからよかったら零と遊んできて」

「え、これって……」

光也さんに手渡された2枚のカラフルな紙。

「それ、今度の日曜が有効期限の遊園地のチケット。僕、彼女と行く予定だったけど、都合悪くなって行けなくなっちゃってさ。勿体ないし、よかったら使ってね」

「え!?あ、ありがとうございます……!」

でも。

僕と日下部は、ただクラスが一緒になって打ち解けただけの友達じゃない。

むしろ友達っていうかどうかも怪しいのに……

日下部は、僕のことどう思ってる?

利用したいだけ?

雪菜さんと別れられたら、それで僕達は終わり?


ずっとモヤモヤしてるのは、きっとそれが気になるから……。

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