早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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接触

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あれから昼休みの後、午後の授業も終え放課後に入った。最後の夏夜行祭の準備へ向かった相野と那月。グラウンドはすっかり祭りモードで普段の面影はなく、華々しい飾りや太鼓が設置されている。

1年生は初めて見るのもあり、目にした生徒は皆気持ちが高揚しているようだ。那月と相野もそのうちの1人。

「わぁ…すごいね。いつもと全然違う」
「そうだね。高校でこんなお祭りみたいなのやれるって、特別感あっていいよね」
「うん…!楽しみだな、」
「…そっか、よかった」
「え?相野くん、今よかったって…?」
「ううん!何でもない。今日も準備がんばろ」

そして早速準備に取り掛かった2人。この日は最終チェックや掃除など軽いものが多く、あっという間に時間が経ち予定よりも早めに1年生は終わることになった。時刻は17時頃。

「じゃあ今日はこれで終わりです!助っ人に来てくれた1年生の人達、ありがとう~!助かりました!本番は楽しんでね」
「はい!お疲れ様でした」
「お疲れ様でーす」

担当の教師からそう告げられ、それぞれ帰宅するために散っていく生徒達。

一一一終わった…!僕この後、先輩と帰るんだよね…。大丈夫かな、あれって現実だったよね!?気のせいじゃないよね…。

彩世と一緒に帰るという約束をしているが、どうも時間が経つと不安になってしまうようで那月はキョロキョロと彩世の姿を探す。

一一一あ、いた!

人混みの奥、近くで風紀委員の仕事をしていた彩世はそんな那月の視線に気が付き、「またあとで」と口パクで発した。それを見て那月はホッと安心して素早く何度も頷く。

一一一よかった、気のせいじゃなかった。先輩もちゃんと覚えててくれた。どこで待ってようかな…。

「那月くん、駅まで一緒に行かない?」
「あっ、えっと…。あの、今日は先輩と…帰る約束をしてて…委員会の仕事が終わるまで、待ってるんだ」
「えっ。あ、そうなんだ…。彩世先輩と?」
「う、うん!」
「あー…、そっか…」

声をかけてきた相野は目線を下ろし、無理に笑顔を作った。隠そうとしているのだろうが、落ち込んでいることがあからまさに分かってしまう。

「えっと…」

一一一え、そんなに落ち込む…!?僕と帰れないから…?いや、まさかそんな…。僕と帰りたがってくれる人なんてそんなにいる訳ないよ。でもそこまで落ち込んでるの見るといたたまれない…。

「分かった。じゃあ、また…」
「あ!あの、校門のとこまで、だったら…。先輩終わるの待つし…ちょ、ちょっと行ける…けど、」
「えっいいの?」
「え!?あ、うん!それでもよかったら…」
「ありがとう!じゃあ、ちょっとだけ居てくれる?近い方の北門で」
「えっ、あ、うん」

那月の言葉に、嬉しそうに返事をした相野。自分のことでそんなに喜んでくれるのか、と驚いたのと同時に疑問にも思った那月。

一一一なんで相野くんは、好んで僕とここまで親しくしてくれるんだろう…。なんでそんなに嬉しそうなの…?

「…あっ、そうだ。先輩にどこにいるかメッセージ入れておこう…。友人を見送るので北門の方にいます…と」

2人はグラウンドを離れ、北門の方へとやって来た。少し蒸し暑い夕暮れの中、帰宅する生徒もいるが授業終わりよりは少ない印象だ。

校門を出て学校沿いに歩き、あまり敷地から離れないようにゆっくりとスローペースで歩き進める。

「もしかしてさ、最近先輩といい感じなの?」
「えっ!?いい感じというか…ど、どうなんだろう」
「でも一緒に帰る約束までしたんでしょ?」
「あ、うん…今日先輩が誘ってくれて…」
「そっか。誘われて嬉しかった?」
「…っう、うん。嬉しかった…」

一一一あ、そっか…。僕嬉しかったんだ。先輩に誘ってもらえて…。咄嗟に待ってますって返事したのも、現実かどうか不安になってたのも…嬉しかったからなんだ。

“…くん、うれしい!ボクうれしいよ!”

一一一あれ、今また小学生の頃の思い出した…?先輩に誘われて嬉しかったって実感しただけなのに…なんでそのタイミングで…あの子のこと…。

「那月くん?どうしたの?」
「あ、ううん…なんでもない」

一一一今まで、完全に忘れていたわけじゃないし記憶にはある。でも昔のことを思い出してまたトラウマが戻ったらどうしようって…できるだけ鮮明に思い返さないようにしてた。
だけど、相野くんといる時に最近よく頭に浮かぶ気がする…。ただの偶然?それとも…。

ちょうど頭の中でぐるぐるとそう考えていた時。それを見透かしたかのように相野は立ち止まり、顔を上げた。

「…あのさ、那月くん。ちょっといい?」
「うん!?なに?」
「俺、話さないといけないことあるんだ」
「…っえ?きゅ、急に…?どうしたの?」

北門から少し出た所でそう呟いた相野。突然改まったその様子に、那月はゴクッと唾を飲み立ち構える。

「あの、俺……」

その時だった。

「あーーーー。よく会うねーー」

相野の絞り出した声をかき消すように、那月の背後から聞き覚えのある男の声が、重低音のごとく響いてきた。

「え…っ」
「やっほーーー。篠井那月…くん」

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