早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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頭の中

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そして準備は順調に進み、ある程度キリがついた所でこの日は終わることになった。委員会のメンバーは道具の後片付けなどでまだ残ることになっているらしい。

先に帰るよう促された1年生達は、続々とグラウンドを出ていく。那月と相野もカバンを持ち出ようとしていた所だ。

「篠井くん、お疲れ様」
「あ!お、おつかれさま。相野くん、力仕事多くて大変だったよね」
「全然大丈夫。体力だけはあるから」
「すごい…、ぼ、僕は全然重いもの持てなくて情けなかった…。鍛えなきゃかな」

2人がグラウンドを出る時、風紀委員は一角に招集されていた。その中にいる真面目に話をしている彩世を見つけた那月。

一一一先輩がいる。まだ委員会の人は帰れないんだ…。というか前も思ったけど真面目に委員会の仕事してる所、やっぱりかっこいいな…。

その姿に見惚れていると、相野はその視界を遮るように顔を覗き込ませた。

「ねぇ」
「わっ…!び、びっくりした!」
「ごめんごめん。あのさ、駅まで一緒に帰らない?」
「えっ」
「篠井くん電車だよね?逆方向だけど俺も電車だから。最寄り一緒だし行こうよ」
「あ、そ、そうなんだ!うん、行こう!」

笑顔を見せる相野だが、どこからか少し圧を感じで那月は慌てて頷いた。

一一一そういえば、明衣以外の同級生と帰るの初めてかも…。しかも男子と…。入学した頃はこんなふうになれるなんて夢のまた夢だったな。

学校を出た相野と那月は肩を並べて駅へ向かい歩き出した。夏の夕方はまだほんのり明るく、ぬるい風が2人の間を抜けていく。

「篠井くん、だいぶ俺に慣れてくれたんだね。こうやって一緒に隣で歩けるし、自然に話せるようになってきた」
「え!あ、うん。僕もそう思う…。前と全然違うなって」
「…よかった。嬉しいよ。こうやって話せるようになって」
「うん…!ありがとう」
「そういえば、さっきの彩世先輩とは話せた?」
「あ…!うん!ゆ、勇気ふり絞って…荷物運ぶ時に話せたんだ。実は、ちょっと訳あって気まずかったんだけど…元に戻れて、も、もっと近くなれた気がする」

那月はそう言って嬉しそうにはにかむ。頭の中に彩世の顔が浮かんでいるのだろうと分かる表情。相野はそんな那月から目を逸らすと、気まずそうに作り笑いを浮かべた。

「そっか…よかったね」
「相野くんも…話聞いてくれて、あ、ありがとう!そのおかげで勇気出せたよ」
「…ううん。そんなことないよ、何もしてない」
「いやいや!励ましてくれただけでも、心強かったから…」

一一一なんか相野くんさっきから元気ない気がする…。心ここに在らずっていうか…。

「相野くん大丈夫…?疲れちゃった?」
「え、あ!大丈夫だよ。ちょっと考え事してた」
「そっか」
「あのさ、前篠井くんはあの先輩に対する気持ちが分からないって言ってたよね?」
「あ、う、うん…」
「それはもう分かってきたの?」

相野は那月の方を振り返り、問いかけながら消え入りそうに微笑んだ。那月はその質問に、意識と関係なく勝手に顔が赤らんでしまう。もちろん相変わらず頭の中は彩世でいっぱいだ。

「えっ…と。さっき話してみて、一つ一つ分かってきた気がする。僕、恋愛とかしたことないから…よく分からなかった、けど、もっと触れたいとか…離れてたら会いたい、とか…」
「うん…」
「あっごめん!!こんな面白くない話、ペラペラ勝手に…」
「いいよ。篠井くんの話聞きたい」
「え…」
「俺は篠井くんが話してくれることなら、何でも聞きたい」
「そっ、そうなの…?」

一一一どこまでいい人なんだ、相野くんは…。拙いし大して面白くない僕の話を聞きたいなんて…。

「先輩ってどんな人なの?」
「えっ…、うーんと。そうだな…。ぶっきらぼうに見えて優しくて…落ち着いてて…でもたまに無邪気に笑う、自分を犠牲にしちゃうほど相手のことを考える人…かな」
「……へぇ」

その少しの沈黙の後、駅へ辿り着いた2人。那月達の高校の唯一の最寄り駅なのもあって制服姿の生徒達が多く見える。

「篠井くん…あのさ」
「え?」
「那月くんって…呼んでもいい?」
「あ!う、うん!いいよ!」
「ありがとう。俺のことも名前で呼んでほしいな」
「えっ、いいの…?」
「うん。れんって呼んで」

一一一そうだ、相野くん蓮って名前だ。みんな名字で呼ぶからちょっと慣れないけど…。

一一一同級生の男の子を名前で呼べるなんて…いつぶりだろう。最後に呼んでたのは…小学生の頃かな。あの時仲良かった…

「…………れ、蓮くん」
「うん」
「蓮、くん…」
「うん」
「あ、あのさ。あの…もしかして」

その時、後ろから2人に向かって呼ぶ声が聞こえてきた。男子の元気そうな大きな声が。

「あ!!あれ?相野と篠井じゃん!」
「…っ!わっ!あ、あれ!浜野くんと…市早くん…!」
「何してんのー!?帰り!?遅くない?」

こちらへ近付いてきたのはクラスメイトの浜野と市早だった。最近那月がノートを見せてもらい、話せるようになった2人だ。ハツラツとした能天気な浜野を落ち着かせるように、市早がすかさずフォローに入った。

「お前うるさい。あれだろ?夏夜行祭の準備」
「そ、そうそう!それで残ってて…」
「なるほどー!そんなんあったっけ?そういえばあったような…おつかれ!」
「うん!ふ、ふ、2人は部活とか?」
「そーそー!市早が部活だったから終わるの待ってた!」
「そうなんだ…!」
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