早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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熱を出した日から2日後、那月の体調は回復し学校に行けるようになっていた。念の為病院へ行ったが、やはり知恵熱だったようで環境が変わったことによる疲れも出たのだろうとのこと。

「那月、ほらお弁当!」
「ありがとう!」
「もー早めに治ってよかったわ、ほんとに。もしまた体調悪くなったらすぐ言うんだよ?絶対私にも連絡してよ!」
「分かったよ~、それにもう元気だし大丈夫!行ってきます」
「行ってらっしゃい!」

母に見送られて玄関を出た那月。病み上がりなのに、入学したての頃と比べると今の方が自然に笑えている気がした。

だが、それと別の問題がまだ解決していない。

「わっ…、あれいつものカップルだ」

駅で毎朝のようにイチャつきながら登校しているカップルを見つけ、顔を背けた那月。あれからというもの、那月の携帯のインターネットは「恋とは」「男同士」などの検索履歴でいっぱいになっていた。

自分の胸の内がハッキリしないのに、検索欄だけが溜まっていく。それに前よりも恋人や恋愛的なことに敏感になっている気がした。

一一一先輩と夏希さんが手を握り合ってる所を見た時も衝撃だったけど…その時以上に気にしちゃってるな…。

ここ最近、恋について調べていたせいか、夏希と彩世のことが頭に浮かぶ。

「…あ、ていうか」

一一一そうだ。夏希さん…。検索したことを思い浮かべると、今までの夏希さんの彩世先輩に対する行動ってただの幼なじみ感だけじゃないような…。初めて見た時も、学校に入ってきた時も。もしかして、夏希さんは先輩のこと…?

一一一もしそうだとしたら、なんか…ちょっと胃もたれを感じるというか。なんだろう。ムカムカするような…。

「那月~!!おはよ!」
「…うわあ!!!?め、明衣!おはよ!」

電車を降りてボーッと歩いていた那月は、歩いてきた明衣に後ろから背中を叩かれ我に返った。

「なに朝からボーッとしてんの!もう体調は大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね。もう回復したよ!」
「はぁーよかったぁ。相野くんが保健室連れてくって言った時は焦ったし、先輩に送ってもらったって聞いてびっくりだったけど安心したよ」
「僕も、まさかあんな事になるとは思わなかったよ。でも相野くんも保健室で少し話したけど、良い人だったし…」
「へぇ~そっかぁ」

学校までの道を那月と明衣は肩を並べて歩く。那月の顔色がいいので明衣も安堵した笑顔を見せる。それと同時に、微かな那月の変化にも気が付いたようだ。

「それよりもー…?先輩、那月の部屋まで連れて行ってくれたんでしょ??その後何かあったー?」
「げほっ!!えっ、な、な、なにって」
「分かりやすいぞー?何があったの?顔赤くしてさ。ほらほら」
「……えっと、その」

ちょうどその時、2人の後ろから自転車を漕ぐ音が聞こえてきた。その音はだんだんスピードを落とし、那月の隣にそっと近付く。

「えっ…」
「おはよ。ナツくん」
「彩世先輩!!お、おはよう、ございます…!」
「お友達もおはよう」
「先輩おはようございまーす!」

自転車に乗りながら顔を覗き込んできたのは、まさに話の中心人物の彩世だった。暑くなってきたのもあり、制服が半袖のカッターシャツとネクタイだけになっている。

一一一ま、まさか朝一で会うなんて…。しかも制服が夏服になってる…!初めて見た、先輩の夏服姿。

「もう体調は大丈夫?」
「は、はい!本当に、ありがとうございました…!」
「ならよかった。じゃあ俺は先行くね」
「はい…!」

一一一結局先輩にお礼のメッセージ送れたのは送ってもらった次の日だったな…。でも特にそれ以降はやり取りはなかったし…。

そして、走り去ろうとする彩世に那月が目を向けた時だった。風に吹かれた彩世の首元に剥がれかけの絆創膏がついていることに気付いた。

「あっ…」

一一一あれ?先輩、首のとこ怪我してる…?

一瞬だったが、シャツの襟元と髪の毛が風でなびいたせいで顕になった首元。その剥がれかけで揺れている絆創膏の下に見えたのは、何か濃い赤色だった。内出血っぽい痕のように感じる。

一瞬のことで彩世は自転車で走って行ったから聞くことはできなかったが、那月はそれを怪我だと思い、彩世の背中に心配の眼差しを向けていた。

「噂をすればだね~!もう急に話しかけられても平気そうじゃん!よかった~」
「……なんだろう、今の」
「へ?何が?」

一一一やっぱり怪我したのかな…?痛そうだった。僕、絆創膏持ってた気がする。昼休みに先輩に会えたら渡そうかな。

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