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まさかまさか

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相野は教室に戻り先生に那月の状態を伝え、荷物を保健室へと持って行った。戻った頃には那月は薄らと目を開けて起きていた。でも体調は変わっていないように見える。

「相野くん鞄ありがとねー!篠井くん、今日はもう帰った方がいいからね。親御さんに連絡とれる?迎えに来てもらえたらいいんだけど…」

「…あ、母は、今日夜勤なので、自分で帰ります…」

「え!そんな状態で?無理よー、途中で倒れたりしたら大変。家は近い?」

「い、いえ、電車で…20分くらい、です」

「そっかぁ…ならタクシー呼ぼうか!体調悪くて早退することは親御さんに連絡しといてね」

「はい…すみません」

保健の先生が手際よく、早退の手続きやタクシーの手配をしている時。相野は那月の隣でしゃがみ込み目線を合わせた。

「大丈夫か?1人で帰れる?」
「うん、大丈夫…、荷物、あ、りがとう」
「それはいいんだけど…。家誰もいないの?」
「ん…、母さん、仕事だから…」
「そっか…」

心配そうな顔をする相野は、保健の先生に肩をトントンと叩かれ振り返る。

「ありがとねー!もうタクシー来るし、あとは大丈夫だから!君は授業に戻ってね」
「あ、はい…、俺付き添っちゃダメですか?」
「心配なのは分かるけど、君はまだ授業あるんだからー!先生がタクシーに乗せて見送るから大丈夫よ」
「…分かりました」

と、話が収まり相野が促されるまま保健室を出ようとした時だった。突然外から扉が開き、誰かが中へ入ってくる。

「…っ!あ、」
「失礼します、風紀委員の見回り表を持ってきまし…」
「おー!荻川くん、ありがとう」

その入ってきた人物は、プリントの束を手に持った彩世だった。昼休憩に顔を合わせたばかりの彩世と相野は、まさかの偶然にお互い目を見開く。

「あなたは…昼の…先輩」
「どうも。すごい偶然だね、何してるの?授業中なのに」
「それは先輩もでは…」
「3年生は今日早く終わるんだよ。あとは自由下校。俺は委員会の仕事ちょっとやってたとこだけど」
「そうなんですか…」
「それで君はなんで…」

彩世はキョロキョロと辺りを見回し、ベッドの方に視線を向ける。そして寝ているのが那月だと気付き、素早くベッドに近寄った。

「え、ナツくん…?どうしたの!?」
「…へ、あ、いろせ、先輩…?」

顔を赤くして虚ろな目をする那月を見て、彩世は焦った表情を浮かべ眉をしかめた。触れはせずに近くて少し離れた場所から顔を覗き込む。

「ちょっと…熱が出ちゃって…」
「熱!?」
「お、もしかして荻川くんと篠井くん知り合い?」
「はい、あの、熱って…ナツくんはどうするんですか?」
「今日はもう帰ることになったんだよー。でも親御さんが仕事でいないみたいだからタクシーで帰ってもらうの」
「え…」
「スポドリとかゼリーとか、あと冷えピタは先生が渡すからね」
「ありがとう、ございます…」

相野は扉の近くで、彩世と那月の雰囲気を見つめている。背中からでも彩世がとても心配しているのが伝わってくるから。ただの知り合いという関係性を疑うほど。

「篠井くんね、お母さんが仕事で家に誰もいないって言うの。そうだ!荻川くん、仲良いなら家まで付き添ってあげれる?」
「え…」
「さっきタクシー呼んだから!先生は仕事あるからついていけないし…相野くんはまだ授業があるし、荻川くんがこの後何も無ければだけど…」
「俺行きます」
「あ、ほんと!?ありがとう~助かる!これで篠井くんもちょっと安心ね」

即答した彩世は那月の方を見て、優しく微笑む。那月はこの展開に驚いているようだが、体が辛くて上手く言葉が出てこないようだ。その肩脇で相野はバツの悪そうな顔をしながら彩世をじっと見続ける。

「相野くん…だっけ。あとは俺が付き添うから大丈夫だよ」
「…はい」
「じゃあ先生、ちょっと外見てくるね!タクシー来てるかもしれないから!」

先生が保健室をバタバタと出て行った後、静まり返る部屋の中。先に口を開いたのは相野だった。

「あの。先輩って…篠井くんとどういう関係なんですか?」
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