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どうして
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一一一テレビで見たことあるやつだ…!恋人同士がやるやつ…!あーんってやつ!!
「……っあ、は、はい」
那月は卵焼きを1つ箸で摘んで、震えながら彩世の口へそっと運んだ。彩世は口に入れられた卵焼きを咀嚼して噛み締める。
「うん…、美味しいね」
「ほんとですか…!」
「ありがとう、ナツくん」
「はっ、はい…」
嬉しそうに微笑んだ彩世を見て、那月は胸をホッと撫で下ろす。しかし安心してすぐ、自分が彩世に食べさせたという事実を思い出し顔を熱くさせた。
そして前を向き直し、顔が見えないように少し前傾姿勢をとる。
一一一僕、今先輩に「あーん」をしてしまったんだ…!ま、まさかそんなことになるなんて…!怖いとかじゃなくて緊張で手が震える!顔熱い!
「ナツくん家の卵焼きは甘めなんだね」
「あっ、は、はい!そうです…僕が、甘いのが好きで…母がこれを教えてくれました…」
「ふーん…、じゃあお菓子とかも?」
「そ、そ、そうですね!甘いデザートとかは、す、好きです…」
「そっか」
一一一先輩、まだこっち見てる?なんか背中に視線を感じる…!!顔赤いのバレるから早く向こう向いてほしい…!
「あのさ、ナツくん」
「は!?は、はい…」
「俺に慣れてきたって言ってたけど、やっぱりこうやって近いと怖くなる?」
「……え、」
「また声震えてるし、縮こまってるから」
一一一ち、違う!!怖いわけじゃなくてこれは、ただ単に緊張してるから…。だから先輩の方見れないだけで…。
一一一え、でもあれ。なんでこんな緊張の仕方してるんだ…同じ男の人なのに相野くんの時とは何か違う。体が固まる感じじゃなくて、むしろ鼓動しすぎて溶けそうな感じ…。え、なんで…?
「…わ、分からない」
「え?」
「あああ!!い、いや、違くて…そ、その…」
「でも急に顔見れなくなってるでしょ」
「そ、それは…」
那月が視線を少しだけ後ろに向けると、彩世はこちらを心配そうに見ながら気にかけていた。それを見て那月は余計に頭が混乱して上手く言葉に出来ない。
「…あの同級生には、そんな風じゃなかったのに」
「へ、?あ、あの、今なんて…」
「…!あ、ううん、何でもない。食べさせてとか言ってごめんね。俺もう行くから」
「せ、先輩…!!」
彩世は小さな声でそう呟くと、中庭を出て行ってしまった。那月は1人残されたベンチで唇を噛み締める。
「…違う、のに」
一一一でも、じゃあなんで自分がこうなってるのか分からない。緊張だけじゃない気がする。だけど理由を聞かれても説明できない…。
顔を下げしゅんと丸くなる那月と同様、中庭を出た彩世もまた深くため息をつき、入り口で立ちすくんでいた。
「あー…何であんなこと言っちゃったんだろ。せっかくナツくんが気にかけてくれたのに…」
一一一だって、あの感じ…怖がってるようにしか見えなかった。別に怖いっていうのは分かってたことなのに…前に俺なら大丈夫って言われて嬉しかったから余計にちょっと…。
「……ん?」
そんな突っ立っていた彩世の元に、目の前から1人の男子生徒が歩いてきた。その男子はキョロキョロと顔を動かしながら、中庭を見つけてハッとした表情を浮かべる。上履きの色からするに、1年生だ。
一一一ここ滅多に人来ないのに…珍しい。ていうか、この子の顔どっかで…。
「あ…、ど、どうも」
その男子は彩世に気付き、先輩だと分かったらしくにこやかに頭を下げた。彩世もそれに軽く会釈を返す。
「ああ…どうしたの。ここに何か用?」
「えっと…ここが中庭ですよね?」
「そうだけど…」
一一一あ!!分かった。この子、今朝ベランダでナツ君に走り寄って話しかけてきてた男子だ。なんでまたタイミングよくここにまで…。
彩世は入り口の前を塞ぐように立ち、退く気はないと言わんばかりに腕を組む。
「あ、あの中に誰かいませんか?」
「誰か探してるの?」
「はい…、ここにクラスメイトがいるはずなんですけど…」
「クラスメイト?君、何組?」
「1年2組の、相野っていいます」
一一一相野くん?2組ってことは、ナツくんと同じ。この子クラスメイトだったんだ。でも突然何の用だ?授業のこと?わざわざ探しに?急用だったら、いつも一緒にいる女の子が連絡してくれるだろうし…。
視聴覚室の件もあり少し警戒していた彩世は、ハキハキとした爽やかな相野をじっと見て、その心配はないかと少し気を緩めた。
だが、別の警戒は張り続けている。
「ふーん…、そっか。でもここには誰もいないよ」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。他の所にいるんじゃない?」
「あれ…いるはずなんだけどな…。もしかしたら見えない所にいるかもしれないんで、ちょっと中見ていいですか?」
相野は彩世の後ろにあるドアを開けようと手を伸ばした。しかし、その手は彩世に掴まれドアは開くことなく遮られる。
突然手を掴まれて驚いている相野に、彩世はニコッと微笑みかける。
「えっ…あの?」
「ここには居ないんだから、見ても意味ないよ。他の所を探したら?それか連絡してみたら?」
「あー、連絡先まだ知らなくて…」
「そうなんだ。それは残念」
相野は何となく彩世から離れ、さっきとは真逆の不審そうな目を向ける。
「…ありがとうございます。じゃあ、僕はこれで」
「いえいえ。じゃあね」
そして納得していなさそうな顔をしながら軽く頭を下げ去って行った相野。彩世はそれに手を振り見送ると、ふーっとため息を吐く。
「不審がられちゃったなー。まあいいか、ここに入られて2人きりになるよりは…」
一一一たぶんナツくんを探してたんだな、あの相野って子。警戒しなくてもただ普通の用事かもしれないのに、なにムキになってんだ俺は…。
一一一でもあの子の表情…なんかありそうっていうか…本当にただの用事か?
「…相野くんね」
「……っあ、は、はい」
那月は卵焼きを1つ箸で摘んで、震えながら彩世の口へそっと運んだ。彩世は口に入れられた卵焼きを咀嚼して噛み締める。
「うん…、美味しいね」
「ほんとですか…!」
「ありがとう、ナツくん」
「はっ、はい…」
嬉しそうに微笑んだ彩世を見て、那月は胸をホッと撫で下ろす。しかし安心してすぐ、自分が彩世に食べさせたという事実を思い出し顔を熱くさせた。
そして前を向き直し、顔が見えないように少し前傾姿勢をとる。
一一一僕、今先輩に「あーん」をしてしまったんだ…!ま、まさかそんなことになるなんて…!怖いとかじゃなくて緊張で手が震える!顔熱い!
「ナツくん家の卵焼きは甘めなんだね」
「あっ、は、はい!そうです…僕が、甘いのが好きで…母がこれを教えてくれました…」
「ふーん…、じゃあお菓子とかも?」
「そ、そ、そうですね!甘いデザートとかは、す、好きです…」
「そっか」
一一一先輩、まだこっち見てる?なんか背中に視線を感じる…!!顔赤いのバレるから早く向こう向いてほしい…!
「あのさ、ナツくん」
「は!?は、はい…」
「俺に慣れてきたって言ってたけど、やっぱりこうやって近いと怖くなる?」
「……え、」
「また声震えてるし、縮こまってるから」
一一一ち、違う!!怖いわけじゃなくてこれは、ただ単に緊張してるから…。だから先輩の方見れないだけで…。
一一一え、でもあれ。なんでこんな緊張の仕方してるんだ…同じ男の人なのに相野くんの時とは何か違う。体が固まる感じじゃなくて、むしろ鼓動しすぎて溶けそうな感じ…。え、なんで…?
「…わ、分からない」
「え?」
「あああ!!い、いや、違くて…そ、その…」
「でも急に顔見れなくなってるでしょ」
「そ、それは…」
那月が視線を少しだけ後ろに向けると、彩世はこちらを心配そうに見ながら気にかけていた。それを見て那月は余計に頭が混乱して上手く言葉に出来ない。
「…あの同級生には、そんな風じゃなかったのに」
「へ、?あ、あの、今なんて…」
「…!あ、ううん、何でもない。食べさせてとか言ってごめんね。俺もう行くから」
「せ、先輩…!!」
彩世は小さな声でそう呟くと、中庭を出て行ってしまった。那月は1人残されたベンチで唇を噛み締める。
「…違う、のに」
一一一でも、じゃあなんで自分がこうなってるのか分からない。緊張だけじゃない気がする。だけど理由を聞かれても説明できない…。
顔を下げしゅんと丸くなる那月と同様、中庭を出た彩世もまた深くため息をつき、入り口で立ちすくんでいた。
「あー…何であんなこと言っちゃったんだろ。せっかくナツくんが気にかけてくれたのに…」
一一一だって、あの感じ…怖がってるようにしか見えなかった。別に怖いっていうのは分かってたことなのに…前に俺なら大丈夫って言われて嬉しかったから余計にちょっと…。
「……ん?」
そんな突っ立っていた彩世の元に、目の前から1人の男子生徒が歩いてきた。その男子はキョロキョロと顔を動かしながら、中庭を見つけてハッとした表情を浮かべる。上履きの色からするに、1年生だ。
一一一ここ滅多に人来ないのに…珍しい。ていうか、この子の顔どっかで…。
「あ…、ど、どうも」
その男子は彩世に気付き、先輩だと分かったらしくにこやかに頭を下げた。彩世もそれに軽く会釈を返す。
「ああ…どうしたの。ここに何か用?」
「えっと…ここが中庭ですよね?」
「そうだけど…」
一一一あ!!分かった。この子、今朝ベランダでナツ君に走り寄って話しかけてきてた男子だ。なんでまたタイミングよくここにまで…。
彩世は入り口の前を塞ぐように立ち、退く気はないと言わんばかりに腕を組む。
「あ、あの中に誰かいませんか?」
「誰か探してるの?」
「はい…、ここにクラスメイトがいるはずなんですけど…」
「クラスメイト?君、何組?」
「1年2組の、相野っていいます」
一一一相野くん?2組ってことは、ナツくんと同じ。この子クラスメイトだったんだ。でも突然何の用だ?授業のこと?わざわざ探しに?急用だったら、いつも一緒にいる女の子が連絡してくれるだろうし…。
視聴覚室の件もあり少し警戒していた彩世は、ハキハキとした爽やかな相野をじっと見て、その心配はないかと少し気を緩めた。
だが、別の警戒は張り続けている。
「ふーん…、そっか。でもここには誰もいないよ」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。他の所にいるんじゃない?」
「あれ…いるはずなんだけどな…。もしかしたら見えない所にいるかもしれないんで、ちょっと中見ていいですか?」
相野は彩世の後ろにあるドアを開けようと手を伸ばした。しかし、その手は彩世に掴まれドアは開くことなく遮られる。
突然手を掴まれて驚いている相野に、彩世はニコッと微笑みかける。
「えっ…あの?」
「ここには居ないんだから、見ても意味ないよ。他の所を探したら?それか連絡してみたら?」
「あー、連絡先まだ知らなくて…」
「そうなんだ。それは残念」
相野は何となく彩世から離れ、さっきとは真逆の不審そうな目を向ける。
「…ありがとうございます。じゃあ、僕はこれで」
「いえいえ。じゃあね」
そして納得していなさそうな顔をしながら軽く頭を下げ去って行った相野。彩世はそれに手を振り見送ると、ふーっとため息を吐く。
「不審がられちゃったなー。まあいいか、ここに入られて2人きりになるよりは…」
一一一たぶんナツくんを探してたんだな、あの相野って子。警戒しなくてもただ普通の用事かもしれないのに、なにムキになってんだ俺は…。
一一一でもあの子の表情…なんかありそうっていうか…本当にただの用事か?
「…相野くんね」
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