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それってもしかして
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昼休憩になり、那月は明衣と別れてから弁当を抱えて中庭へ向かっていた。その途中、廊下を歩いていると中庭の入り口付近で男の背中が見えた。
「…あっ」
思わず柱の影に隠れてしまったが、そーっと覗いて見てみるとそこにいたのは彩世だ。また電話をしているようで、きっとこちらには気付いていない。
一一一先輩だ、電話してる…。もしかして夏希さんからかな…?
少しの間様子を伺っていると、電話を終えたらしい彩世は中庭へと入っていく。それを確認してから那月も後に続いた。そして小走りで中庭の入り口をまたいだ瞬間。
「やっぱり、ナツくんだ」
すぐ真隣から声が聞こえてきた。
「……!!!?えっ」
中で既にベンチに座っていると思っていた彩世は入り口のすぐ傍で、もたれかかり立っていた。那月が振り向くとすぐ目の前に体があり、見上げれば自分を見下ろす彩世の顔。
那月は驚いて一瞬で状況を把握し、後ろへ飛び跳ねた。
「ワーーーー!?び、びっくりした!!!せ、せんっ、先輩!?」
その大きな声を聞いた彩世もまた一瞬肩を跳ね上げ、小刻みに笑う。
「ごめんごめん…、さっき俺が電話してる時に隠れて見てたでしょ?」
「えっ…!あ、ば、バレて、たんですね……」
「うん、バレバレ。だから俺も隠れちゃった」
彩世はそう言いながら、いつも那月が座っているベンチの背中側に腰掛けた。自然にそうした彩世を見て、木を挟まなくてもこうして近くにいられる変化を身に染みて感じている那月。
「座りなよ」と声をかけられ、自分も同じベンチに背中合わせになるように座り込んだ。
「…あ、あの先輩。すみません、で、電話してるとこ…」
「えー?ああいいよ、そんなの。なつからだし」
「…っそ、そうなんです、ね」
「見られてるのは全然いいんだけど、隠れてるのが可愛くて驚かしちゃった」
「カッッカッかわ…!?いいや、あの、ははは…」
ーーー僕の心臓はさっきからなんなんだ!!幼馴染の夏希さんのこと呼んだだけだのに、自分が呼び捨てされたみたいでドキッてしたし…。この前はそんなことなかったのに!
しかも、か、か、か、可愛いとか、初めて言われた…。先輩って冗談でそういうこと言える人なんだ…。出会った頃とだいぶギャップが…。
「そういや、夏夜行祭もうすぐだね。ナツくん達は1年だから初めてか」
「あ!!は、はい。そうです…。ちょっと、緊張しますけど、せ、先輩が出るって知って、よ、よかったです!」
「え……」
「や、やっぱり…あのっ、仲のいい先輩がいてくれたら、う、嬉しいので……」
「あー…うん、そうだね」
「せ、先輩は、お、踊ったり、するんですか……?」
「毎年してないよ。俺はジュース飲みながらぼーっと演奏見たり、みんなが踊ってるとこ見てるだけかな。雰囲気がいいから何もしなくても楽しいよ」
「そ、そですか…!確かに、お祭りって感じですもんね…!」
那月は弁当を開けてゆっくり食べながら、背後から聞こえる声に耳を傾ける。彩世はと言うと、いつものようにパンを食べている音が聞こえてこない。チラッと目線を向けると、座っているだけで何も食べていないようだった。
「あの…先輩、きょ、今日はご飯食べないんですか…?」
「え?ああ、なんかガッツリ食べる気にならなくてさ」
「えっ…大丈夫、ですか?」
「俺は平気だから気にしないで食べなよ」
彩世がここでご飯を食べずに座っているだけなのは今までもあった。だが、その時と違うのは今は彩世の声に元気が無さそうだと感じたからだ。夏希と喧嘩をしたと言っていた時と似た様子に見える。
ーーー先輩のこういう所何度も見たけど、全部夏希さんが関わってた時な気がする…。また喧嘩したのかな。先輩が元気ないと…なんかチクチクするな。
「…あっ」
それと同時に、この前弁当を忘れた自分に彩世がカツパンを分けてくれたことを思い出した。そして何かを決意したかのように頷き深呼吸をした。
「せ、先輩!あっ、あ、ああああの!」
「ん?」
「……っそ、その、先輩、あの」
「何?ゆっくりでいいよ」
「め!迷惑じゃなかったら…そ、その、ぼ、僕のお弁当、な、何か食べませんか…!?」
「え…」
「ああ!ま、まだ手をつけてないやつもあるので…!おかずとか何か少しでも、胃に入れたほうが、げ、元気が出るかなと、思いまして……!」
勢いよく振り返り、那月は下を向いて恐る恐る弁当を彩世の方へと差し出す。
「……」
「え、えっと…!でもっ、む、無理にとは…!」
「ううん、ありがとう。じゃあ…卵焼き1つもらってもいい?」
「!はっはい!!」
激しくドキドキしながら提案した那月は、彩世の言葉にホッとして顔を上げる。その目の前には嬉しそうに微笑む彩世の顔があった。
「…っあ、えっと、ど、どうぞ!」
「んー…でも手掴みはちょっとなぁ。俺の分の箸もないし…」
「あ!!な、なら、えっと、嫌じゃなければ、ぼ、僕のお箸を……」
「ナツくんが食べさせて」
「………へ??」
「ちょうど箸持ってるし、そのまま卵焼きを俺の口に入れてよ」
「……え、え、」
「ん、ほら。あー」
ーーー食べさせてって……い、いや、ちょっと待って。それって……!
「…あっ」
思わず柱の影に隠れてしまったが、そーっと覗いて見てみるとそこにいたのは彩世だ。また電話をしているようで、きっとこちらには気付いていない。
一一一先輩だ、電話してる…。もしかして夏希さんからかな…?
少しの間様子を伺っていると、電話を終えたらしい彩世は中庭へと入っていく。それを確認してから那月も後に続いた。そして小走りで中庭の入り口をまたいだ瞬間。
「やっぱり、ナツくんだ」
すぐ真隣から声が聞こえてきた。
「……!!!?えっ」
中で既にベンチに座っていると思っていた彩世は入り口のすぐ傍で、もたれかかり立っていた。那月が振り向くとすぐ目の前に体があり、見上げれば自分を見下ろす彩世の顔。
那月は驚いて一瞬で状況を把握し、後ろへ飛び跳ねた。
「ワーーーー!?び、びっくりした!!!せ、せんっ、先輩!?」
その大きな声を聞いた彩世もまた一瞬肩を跳ね上げ、小刻みに笑う。
「ごめんごめん…、さっき俺が電話してる時に隠れて見てたでしょ?」
「えっ…!あ、ば、バレて、たんですね……」
「うん、バレバレ。だから俺も隠れちゃった」
彩世はそう言いながら、いつも那月が座っているベンチの背中側に腰掛けた。自然にそうした彩世を見て、木を挟まなくてもこうして近くにいられる変化を身に染みて感じている那月。
「座りなよ」と声をかけられ、自分も同じベンチに背中合わせになるように座り込んだ。
「…あ、あの先輩。すみません、で、電話してるとこ…」
「えー?ああいいよ、そんなの。なつからだし」
「…っそ、そうなんです、ね」
「見られてるのは全然いいんだけど、隠れてるのが可愛くて驚かしちゃった」
「カッッカッかわ…!?いいや、あの、ははは…」
ーーー僕の心臓はさっきからなんなんだ!!幼馴染の夏希さんのこと呼んだだけだのに、自分が呼び捨てされたみたいでドキッてしたし…。この前はそんなことなかったのに!
しかも、か、か、か、可愛いとか、初めて言われた…。先輩って冗談でそういうこと言える人なんだ…。出会った頃とだいぶギャップが…。
「そういや、夏夜行祭もうすぐだね。ナツくん達は1年だから初めてか」
「あ!!は、はい。そうです…。ちょっと、緊張しますけど、せ、先輩が出るって知って、よ、よかったです!」
「え……」
「や、やっぱり…あのっ、仲のいい先輩がいてくれたら、う、嬉しいので……」
「あー…うん、そうだね」
「せ、先輩は、お、踊ったり、するんですか……?」
「毎年してないよ。俺はジュース飲みながらぼーっと演奏見たり、みんなが踊ってるとこ見てるだけかな。雰囲気がいいから何もしなくても楽しいよ」
「そ、そですか…!確かに、お祭りって感じですもんね…!」
那月は弁当を開けてゆっくり食べながら、背後から聞こえる声に耳を傾ける。彩世はと言うと、いつものようにパンを食べている音が聞こえてこない。チラッと目線を向けると、座っているだけで何も食べていないようだった。
「あの…先輩、きょ、今日はご飯食べないんですか…?」
「え?ああ、なんかガッツリ食べる気にならなくてさ」
「えっ…大丈夫、ですか?」
「俺は平気だから気にしないで食べなよ」
彩世がここでご飯を食べずに座っているだけなのは今までもあった。だが、その時と違うのは今は彩世の声に元気が無さそうだと感じたからだ。夏希と喧嘩をしたと言っていた時と似た様子に見える。
ーーー先輩のこういう所何度も見たけど、全部夏希さんが関わってた時な気がする…。また喧嘩したのかな。先輩が元気ないと…なんかチクチクするな。
「…あっ」
それと同時に、この前弁当を忘れた自分に彩世がカツパンを分けてくれたことを思い出した。そして何かを決意したかのように頷き深呼吸をした。
「せ、先輩!あっ、あ、ああああの!」
「ん?」
「……っそ、その、先輩、あの」
「何?ゆっくりでいいよ」
「め!迷惑じゃなかったら…そ、その、ぼ、僕のお弁当、な、何か食べませんか…!?」
「え…」
「ああ!ま、まだ手をつけてないやつもあるので…!おかずとか何か少しでも、胃に入れたほうが、げ、元気が出るかなと、思いまして……!」
勢いよく振り返り、那月は下を向いて恐る恐る弁当を彩世の方へと差し出す。
「……」
「え、えっと…!でもっ、む、無理にとは…!」
「ううん、ありがとう。じゃあ…卵焼き1つもらってもいい?」
「!はっはい!!」
激しくドキドキしながら提案した那月は、彩世の言葉にホッとして顔を上げる。その目の前には嬉しそうに微笑む彩世の顔があった。
「…っあ、えっと、ど、どうぞ!」
「んー…でも手掴みはちょっとなぁ。俺の分の箸もないし…」
「あ!!な、なら、えっと、嫌じゃなければ、ぼ、僕のお箸を……」
「ナツくんが食べさせて」
「………へ??」
「ちょうど箸持ってるし、そのまま卵焼きを俺の口に入れてよ」
「……え、え、」
「ん、ほら。あー」
ーーー食べさせてって……い、いや、ちょっと待って。それって……!
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