早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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同い年の

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彩世が上から見ていることには気付いていない那月は、明衣と共に次の授業の美術室へ向かっている所だった。話の内容はもちろん夏夜行祭のこと。

「彩世先輩、参加するってよかったね~」
「う、うん…、少しって言ってたけどね」
「少しでも仲良い先輩がいてくれるって嬉しいじゃん!てか祭りどんな感じなのかな~楽しみだなぁ」
「ね、なんかドキドキするね…」

そんな会話をしながら歩いていると、後ろから2人に走り向かってくる足音が聞こえてきた。

「あ!いた、篠井くん!」
「!!!えっ!あっ、え!あ、相野くん…?」

その呼びかけてきた人物は、ホームルーム前に初めて喋った相野だった。那月は胸の前に抱いていた教科書達を力いっぱい握りしめる。

「ごめん急に。さっき教室出る時に、篠井くんの席の下にこれ落ちてるの見つけて…」

相野は手に持っている小さなバッジを差し出した。それは1年生の色のバッジで、那月は一瞬ポカンとしたが自分の胸元を触ってみてバッジがないことに気が付いた。

「…っあ!!そ、そ、れ僕の……?」
「うん。たぶん落としたんじゃない?」
「あ、あ、えっ、ありがとう……」

さっき席を立った時に落としたのかもと思い出し、那月は恐る恐る手を出す。そして相野からバッジを渡された。

「あの…もしかしたらなんだけど、篠井くんってさ」
「んっ!?な、な、なに…?」
「すごい人見知り?」

突然那月の顔を覗き込んで、そう問いかける相野。慌ただしく目を左右に泳がせながら那月はぎこちなく頷いた。

「あーやっぱそっか。でも俺には気にしなくていいから、気軽に話してよ」
「えっ…」
「何となく篠井くんと話してみたかったしさ。俺も元々人見知りだし?上手く喋れなくても気にしないから。じゃ!」
「ぅぇっ…!?あっ…」

爽やかな笑顔を浮かべて、相野は手を振りながら去っていった。残された那月はその場で呆然としながらバッジを握りしめる。

「那月ー?大丈夫?」 
「あっ…、う、ん。明衣ごめん、待たせちゃって」
「それは全然いいんだけど、てか相野くんって思ったよりいい人そうだね。あんなに喋ってくるなんて意外だけど」
「うん…」
「さっき那月のことめっちゃ見てたのも、仲良くなりたかっただけなのかもね?よかったじゃん!話できそうな男子がクラスに出来て!更に克服のチャンス!」
「そう…だね」

同年代の男子にあんなことを言われたのはトラウマを抱えてから初めてで、那月は呆気にとられていた。

「と、とりあえず行こ!遅れちゃう」
「ちょっとー、待って待って!」

一一一なんで相野くんは急に話しかけてくれるんだろう。あんなこと言ってくれるんだろう。今まで全く関わったことなかったのに…。まさか、視聴覚室の時みたいにまずは油断させて襲う…ようなことはないよね?

一一一あー!ダメだ!また悪い癖出てる。全部マイナスに考えるのはやめよう。男の人みんながみんな、あんな事する訳じゃない。彩世先輩みたいに良い人だっているんだ。
相野くんも、良い人なだけかもしれない。それか、ただ単に興味があるだけかも。とりあえず僕も頑張ってみないと、知ってみないと分かんないよね。それから本当に関わっていくべきか考えよう。

一一一彩世先輩が話聞いてくれて、こんな僕を変わったって褒めてくれたんだ。きっと僕はもっと変われるはず…。

あれこれ考えながらその場を立ち去った那月は、もちろん3階からの重厚な視線に気付く訳はなかった。何を話しているかは聞こえなくとも、一部始終を見終えたその視線の主は窓の縁に項垂れる。そして大きくため息をついた。

「彩世~いつまで下見てんの?もうすぐ授業始まるぞ」
「……ん、分かってる」

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