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不思議

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その日の夜、那月は1人ベットの上で寝転がりながら携帯を見つめていた。画面に映る彩世の名前を見て、ニコニコと笑みがこぼれ続ける。

「…すごい、まさか先輩と連絡先を交換するなんて」

一一一今日、夏希さんと会ったり先輩にあんなこと言ったり…色々あったな。今までの自分だったら、男の人とこんなに関わってるの考えられなかった。本当に恐怖心が減ってきてるのかも。

一一一彩世先輩は僕が頑張ったからだって言ってくれたけど、でもやっぱり…

「あ…」

“いろは俺のだから”
“あんまり仲良くしないでくれる?”

今日のことを思い返した時、あの夏希に言われたことが頭に浮かんだ。なんせ人生で初めて言われた言葉で、あの時は意味もよく分からなかった。今思えば彩世が言っていた通り仲のいい幼なじみを盗られたくない独占欲の現れというのは間違いないだろう。

でも、那月は考えれば考えるほどそれだけではない気がしてきている。

彩世は気にしなくていいと言っていたが、那月はあの言葉と夏希の強い目線が忘れられず、何となく思い出してはモヤモヤしていた。

「んー…考えすぎかな。でもそういえば、初めて見た時も先輩と手握ってた…よな。恋人みたいに…あれは一体…」

一一一あれ?なんか、今また胸がチクッてしたような…。

ヴーヴー

「!!わっ、びっくりした…。メッセージ?明衣かな…」

突然振動した携帯の画面を開くと、明衣ではなく彩世からメッセージが届いていた。

「ち、違う!先輩からだ…!!」

慌てて中身を見てみると、そこには一言「今日はありがとう。おやすみ」と書かれている。

「…ふふ。なんだろう、会ってないのに今も先輩と一緒にいるような感じがするな」

嬉しそうにそのメッセージに「こちらこそ感謝致します。おやすみなさい。良い夢を」と返信した那月。満足気な顔で布団の中に潜り込み、その日はすんなり目を閉じることができた。

一方、その頃。

同時刻。彩世も部屋で1人、ベッドに座り携帯を開いていた。那月からすぐに送られてきた返信を見て、思わず吹き出している。

「ぶはっ…!なにこの丁寧すぎる文…。しかも良い夢をって!初めて言われた」

肩を揺らして細かく笑い、そのメッセージを見ながらベッドに寝転ぶ。

「はー…、ナツくんらしいな。ほんと面白い」

ヴーーヴーー

「…っ!」

その時、鳴り出した音と共にそのメッセージ画面は消え着信画面へと変わった。【夏希】と表示されている名前を見て彩世の表情は一気に険しいものになる。

「…はい、もしもし」

「あ!出てくれた~、起きてる?」

「うん。なに?用件は」

「いや、あのねー今日は急に会いに行ってごめんって謝りたくて」

「ああ…、いいけどもうやめろよ。学校にバレても問題になるし、お前も抜け出してきたら叱られ…」

「それでさ!今日中庭で会った…那月くんだっけ?あの子とどういう関係なの?」

「は?なんだよ急に…」

「那月くん、男が苦手で怖いって言ってたのに彩世には違ったから~特別な関係なのかなって思ってさ」

「…そんなんじゃない。ただの先輩後輩ってだけ」

「ふーん…それだけだよね?俺の方が大事だよね?」

「お前、わざわざそんなこと聞きに電話したのか?またからかってるなら切る…」

「…っは!?そんなことじゃない!大事なことだよ!!いろが誰かに盗られたら…いろが俺のものじゃなくなったら、また俺は1人になるんだよ!?誰にも理解されずに、苦しいだけの毎日になるんだから!!」

「おい、なつ…!」

「友達にも、先生にも、親にも気持ち悪がられて…!煙たがられて!本当に俺を理解してくれる人なんて他にいない!!俺には、いろしかいない…」

「……っ」

「いろがいないと、生きていけないよ…っ、だから俺だけのものでいて…。他の子のことなんか考えないでよ…」

「なつ…」

その電話はものの数分だったが、彩世には何時間も経っているように感じた。泣いてしまった夏希を何とかなだめ眠るように促す。泣き疲れたのか、夏希は電話の向こうですぐに眠りについたようだった。

「はぁ…」

どうしようも出来ない、行き場のない焦燥感が彩世を襲う。通話を切ってからしばらく眠ることが出来なかった。

「このままじゃダメだよな…、なんで俺は…」

“彩世君って誰にでも優しいじゃん”
“その優しさって残酷だよね”
“実は優しすぎてつまんなかったの。だから浮気しただけ”

「寝れねー…」
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