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彩世side
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あの日の放課後、委員会の仕事をしている時にアイツの声が聞こえた。
「いろ!!!!いーろ!!いろせくん!」
俺のことをいろと呼ぶのは決まってアイツくらいしかいない。その声に気付きながらも、ため息をついて少し間を置いていた。
「聞こえてるでしょ、無視しないでよー!」
だがずっと大声で呼ばれるのも周りに迷惑がかかるし、反応しないままアイツが諦めるとは思えなくて、重い腰を上げて歩み寄った。
やはりそこにいた、幼なじみのなつ。今日も白っぽい金髪と耳につけたピアスが目立っている。俺が近付くと、なつはフェンス越しにニコニコと嬉しそうに笑う。
「もー、呼んでんのに無視しないでよ!あ!委員会の仕事してたのー?お疲れ!」
「…お前なんで学校まで来たんだよ。今日は無理って言ったよな?」
「今日はって、いつもそう言って来てくれないじゃん!だから会いに来たの!」
毎日のように、なつからかかってくる「今日会える?」という電話。その度に今日は無理だと断っている。でも納得する日もあれば、こうやってわざわざ会いに来る時もある。さっきも電話で無理だと言ったが、納得できず来てしまったらしい。
会うといっても、なつの家に呼ばれて同じベッドで一緒に眠るだけ。なつは俺を抱き枕のように抱きしめ、夜まで眠る。毎回そう。ある日から俺と寝ないと熟睡できないと言われ、それに付き合っていた。だけど最近は結構断り続けている。
「とりあえず、まだ委員会で残るから帰って」
「えー!?せっかく迎えに来たのに!?終わるの待ってるよ」
「いいから、帰って」
できるだけ突っぱねるようにそう言うと、なつは子供のように駄々をこねる。幼馴染だからきっと分かっているんだ。俺が本気で冷たくしてるわけじゃないって。
なつは、俺が住んでるアパートのすぐ近くの大きな一軒家に住んでいる。両親は一人息子のなつを甘やかして育ててきたようで、小学生の頃からたくさんのゲームやおもちゃで一緒に遊んでいた。昔から友達も少なくないし、明るくて社交的な方。周りから見たら人懐っこくて明るい男子高校生だろう。
ただ、俺がそんななつを突っぱねるのには理由がある。
「いろ君は、なんだかんだすごい優しいもんね?本当はそんなこと思ってないでしょ?」
「……は?」
「俺が甘えてこないように、わざとそんな態度とるんでしょ?」
「…っお前、いいかげんに」
全て分かったように不敵な笑みを浮かべるなつ。
そうだよ、わざと。遠ざけたくても、遠ざけれないからわざと冷たくしてるんだよ。
すると、なつは勢いよくフェンスを掴んだ俺の手を握りしめてきた。網も一緒に握ってて痛いはずなのに、その手はギリギリと力強い。そしてさっきとは違う泣きそうな顔をして俺を見つめる。
「お願い、寂しい。今日も1人なの」と弱々しい声で俺に訴えかける。いつもこうだ。なつは俺の情を揺さぶるのが得意で、それを分かっているのに惑わされてしまう。
「もうそういうの、やめてくれ……」
振り切るように手を離し背中を向けると、突然ガシャンッという音を立ててフェンスが揺れた。
「いいの!?そんなこと言って…!俺が周りに何されても、どっか行って消えてもいいの!?いろは結局、俺を理解してる風に見せて避けてるんだ!1人にするんだ!!」
「なつ!!」
そう声を荒げたなつを、食い気味に叫んで静止した。歯を食いしばり下を向いたなつは、少し大きな声を出した俺にビビったようだった。
「なんで……っ」
なつは俺に対してだけ執着しているようで、こうやって毎日のように会いたがっては電話もしてくる。最初の頃は呼ばれるたびに会っていた。だけど、だんだんエスカレートしてきた。
不良に絡まれた、変な男に声をかけられた、体調が悪い、もう消えたいから家を出るなど、有る事無い事ウソをついて俺の注意を引くようになった。
毎回それに振り回され、予定を蹴って急いで向かっても何もなかったということがほとんど。でもそのウソをついていたことがバレても、なつは満足そうに笑ってる。俺のことになると情緒が不安定。
なつがなんでそんなことをするかは、俺に原因があるんだ。分かってる。
だから嫌気がさしても、やはり関係を切るなんて出来ない。情があって突き放すことができない。
「…なつ、いいから。夜ちゃんと電話するから、今は先帰ってくれ」
「……ほんとに?絶対?」
「ああ、だから1人で帰れるよな?」
「うん…!分かった、待ってる!絶対に夜電話してね!」
なだめるように言うと、なつの態度が打って変わった。嬉しそうに俺に手を振り、駅の方へ歩いて行く。
「…はぁ」
「あ、いたいた!荻川くん、もう掃除終わって集合だって」
「うん、分かった」
きっとこの後も電話がたくさんかかってくるだろう、そう思いながら気付くと足が勝手に中庭に向かっていた。もちろん誰もいるわけないけど。
「あー…、ナツ君にかっこつけてあんな事言ったけど、俺の方が……」
その場にしゃがみ込んで今日のことを思い返す。落ち込んでいたナツくんと、犬の話で笑ったナツくんと、顔を真っ赤にして俺と関わりたいって言ってくれたナツくんを。
なんでだろ。こんなに、ここでのことを考えちゃうのは。
“いい……ですか?”
ナツくんは、俺のおかげでって思ってるんだろうな。
実際救われてるのは俺の方なのに。
「いろ!!!!いーろ!!いろせくん!」
俺のことをいろと呼ぶのは決まってアイツくらいしかいない。その声に気付きながらも、ため息をついて少し間を置いていた。
「聞こえてるでしょ、無視しないでよー!」
だがずっと大声で呼ばれるのも周りに迷惑がかかるし、反応しないままアイツが諦めるとは思えなくて、重い腰を上げて歩み寄った。
やはりそこにいた、幼なじみのなつ。今日も白っぽい金髪と耳につけたピアスが目立っている。俺が近付くと、なつはフェンス越しにニコニコと嬉しそうに笑う。
「もー、呼んでんのに無視しないでよ!あ!委員会の仕事してたのー?お疲れ!」
「…お前なんで学校まで来たんだよ。今日は無理って言ったよな?」
「今日はって、いつもそう言って来てくれないじゃん!だから会いに来たの!」
毎日のように、なつからかかってくる「今日会える?」という電話。その度に今日は無理だと断っている。でも納得する日もあれば、こうやってわざわざ会いに来る時もある。さっきも電話で無理だと言ったが、納得できず来てしまったらしい。
会うといっても、なつの家に呼ばれて同じベッドで一緒に眠るだけ。なつは俺を抱き枕のように抱きしめ、夜まで眠る。毎回そう。ある日から俺と寝ないと熟睡できないと言われ、それに付き合っていた。だけど最近は結構断り続けている。
「とりあえず、まだ委員会で残るから帰って」
「えー!?せっかく迎えに来たのに!?終わるの待ってるよ」
「いいから、帰って」
できるだけ突っぱねるようにそう言うと、なつは子供のように駄々をこねる。幼馴染だからきっと分かっているんだ。俺が本気で冷たくしてるわけじゃないって。
なつは、俺が住んでるアパートのすぐ近くの大きな一軒家に住んでいる。両親は一人息子のなつを甘やかして育ててきたようで、小学生の頃からたくさんのゲームやおもちゃで一緒に遊んでいた。昔から友達も少なくないし、明るくて社交的な方。周りから見たら人懐っこくて明るい男子高校生だろう。
ただ、俺がそんななつを突っぱねるのには理由がある。
「いろ君は、なんだかんだすごい優しいもんね?本当はそんなこと思ってないでしょ?」
「……は?」
「俺が甘えてこないように、わざとそんな態度とるんでしょ?」
「…っお前、いいかげんに」
全て分かったように不敵な笑みを浮かべるなつ。
そうだよ、わざと。遠ざけたくても、遠ざけれないからわざと冷たくしてるんだよ。
すると、なつは勢いよくフェンスを掴んだ俺の手を握りしめてきた。網も一緒に握ってて痛いはずなのに、その手はギリギリと力強い。そしてさっきとは違う泣きそうな顔をして俺を見つめる。
「お願い、寂しい。今日も1人なの」と弱々しい声で俺に訴えかける。いつもこうだ。なつは俺の情を揺さぶるのが得意で、それを分かっているのに惑わされてしまう。
「もうそういうの、やめてくれ……」
振り切るように手を離し背中を向けると、突然ガシャンッという音を立ててフェンスが揺れた。
「いいの!?そんなこと言って…!俺が周りに何されても、どっか行って消えてもいいの!?いろは結局、俺を理解してる風に見せて避けてるんだ!1人にするんだ!!」
「なつ!!」
そう声を荒げたなつを、食い気味に叫んで静止した。歯を食いしばり下を向いたなつは、少し大きな声を出した俺にビビったようだった。
「なんで……っ」
なつは俺に対してだけ執着しているようで、こうやって毎日のように会いたがっては電話もしてくる。最初の頃は呼ばれるたびに会っていた。だけど、だんだんエスカレートしてきた。
不良に絡まれた、変な男に声をかけられた、体調が悪い、もう消えたいから家を出るなど、有る事無い事ウソをついて俺の注意を引くようになった。
毎回それに振り回され、予定を蹴って急いで向かっても何もなかったということがほとんど。でもそのウソをついていたことがバレても、なつは満足そうに笑ってる。俺のことになると情緒が不安定。
なつがなんでそんなことをするかは、俺に原因があるんだ。分かってる。
だから嫌気がさしても、やはり関係を切るなんて出来ない。情があって突き放すことができない。
「…なつ、いいから。夜ちゃんと電話するから、今は先帰ってくれ」
「……ほんとに?絶対?」
「ああ、だから1人で帰れるよな?」
「うん…!分かった、待ってる!絶対に夜電話してね!」
なだめるように言うと、なつの態度が打って変わった。嬉しそうに俺に手を振り、駅の方へ歩いて行く。
「…はぁ」
「あ、いたいた!荻川くん、もう掃除終わって集合だって」
「うん、分かった」
きっとこの後も電話がたくさんかかってくるだろう、そう思いながら気付くと足が勝手に中庭に向かっていた。もちろん誰もいるわけないけど。
「あー…、ナツ君にかっこつけてあんな事言ったけど、俺の方が……」
その場にしゃがみ込んで今日のことを思い返す。落ち込んでいたナツくんと、犬の話で笑ったナツくんと、顔を真っ赤にして俺と関わりたいって言ってくれたナツくんを。
なんでだろ。こんなに、ここでのことを考えちゃうのは。
“いい……ですか?”
ナツくんは、俺のおかげでって思ってるんだろうな。
実際救われてるのは俺の方なのに。
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