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触れた手

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中庭に入り、すぐにベンチに腰掛けて「ふぅ」と一息ついた那月。少し身を乗り上げて隣を見ると、木の影に人は居なさそうだ。

「……今日は、いないのかな」

ここへ来て気持ちが落ち着いたせいか、緊張が抜けたせいか。昨日の寝不足が顔を出し、ベンチの背もたれに身を乗せてすぐに那月のまぶたは重くなった。そしてウトウトと意識が徐々に遠ざかっていく。

ーーーやばい、頭がふわふわする。影にいると風が涼しくて気持ちいいなー……。色々考えてたし、ちょっと疲れたのかな。急に眠すぎる……。

あっという間に、那月はそのまま眠ってしまった。ここまで眠いのも、中庭で寝てしまうのも初めてだ。今までは眠くても、気が張ったように神経がピリピリしているようで学校で寝るなんてなかったのに。それだけ警戒心が解かれてきたということだろうか。

「……あ」

那月がスースー寝息を立てて眠ってしまった後、中庭に1人男が入ってきた。首を傾けて座っている那月を見つけ、ゆっくり足音を立てないように近づいていく。

「え、寝てる……?」

那月の寝顔を見て、小さな声でそう呟いた。珍しいものを見るような目で、まじまじとその寝顔を見下ろす男。気持ちよさそうに眠る那月の姿1つ1つを目に映している。

そして、風になびく那月の柔らかい茶髪を指で優しくすいた。

「そんな顔して寝るんだ、ナツくんは……」

男はそのまま那月の頭をそっと、触れるか触れないかギリギリのラインをゆっくりと撫でた。

「ん…」

すると眉毛をピクリと動かし、目を閉じたまま顔を動かした那月。それを見て、男は同じベンチの少し離れた所に座りこむ。

何かが触れた感覚がくすぐったかったのか、那月の意識がぼんやりと戻ってきたようだ。薄っすらと目を開き、目の焦点を合わせる。ふわふわしていた頭が冴えてきた。

ーーーなんだろう、何か…今何かが頭に触れたような……。柔らかい葉っぱが掠めていったみたいに優しかった……。

「…うぁ、やば、寝てた、?」

「んー」と声を出しながら伸びをした那月。あくびは止まらないが、少しの時間だけでも眠れたおかげで目が少しスッキリしている。

「おはよ、ナツくん」
「……えっ」
「ガチ寝してたね、寝不足?」

明らかにいつもの隣のベンチではない方から声が聞こえ、那月は勢いよく振り向いた。やはり、那月のすぐ後ろに背中を向けた状態で彩世が座っていた。

自分がいるベンチに、同じベンチに彩世がいる。那月はその状況を理解して、慌てて立ち上がった。

「!!い、彩世、、せんぱ……!え、あ、あああの、い、いつ、から」

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