早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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異変

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那月は今まで男性恐怖症を克服したいということに必死で、恋愛うんぬんなんてものは全く考えてこなかった。それ以前にトラウマのせいで、人付き合い自体が拙くなってしまったから。

男性とは怖くて上手くコミュニケーションが取れなかったし、女性に対しては普通に話せるが恋心を抱いたり欲求を感じることはなかった。

そんな那月にとって、人への興味や恋愛的なものは全くの無縁だった。

そういう類のことはテレビや周りの話でしか見たことのない世界。確かに高校に入ってから、周りの同級生は男女共に恋人や好きな人の話をよくしていたが、特に気になることはなかった。

だからここまで人に対して意識をしたり気にしていることは奇跡に近く、那月は自分でもその異変に上手く順応できていないようだ。

一一一僕が先輩とこれからも関わりたいって言った時、いつの間にか無性に、彩世先輩に対しては怖いよりも「知りたい」「話したい」「ここにいたい」って気持ちが強くなってた…。

一一一先輩は、俺ならいいよって言ってくれた。僕、嫌われては…ないんだよね?そう思っていいのかな。でも昨日会ってた「なつ」って人は…?ちょっと空気悪かったけど、あの人に対しても最後は優しかったし手も握って…。もしかして僕が知らない世界なだけで、先輩の彼氏とか…有り得るのかな。

「…っいやいや!僕は何を考えて、」

最寄り駅に着き電車を降りると、学校への道を歩く。またボーッと考え出した那月。今日は寝不足もあって1度考え始めると心ここに在らずになってしまうようだ。

「………」

目の焦点がずれたままゆっくり歩いていると、突然那月のすぐ横を自転車が走ってきた。少し通り過ぎてから那月はそれに気付き、ハッと意識を戻した。

「ボーッとしてると危ないよ、ナツくん」

そして、通り過ぎた自転車に乗っているその人から、黒髪の背中越しから聞こえてきた声。

「えっ……」

自転車は止まらず、その人も振り向くことなくそのまま走って行った。あの低い声、あの呼び方。那月は胸をトクトク鳴らせながら、鞄をギュッと握りしめた。

「彩世…先輩…」

那月はそこから教室に着くまで、あまり情景を覚えていなかった。
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