早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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金髪の彼

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一一一そ、そうだ。今確実に「いろせ」って呼んでた。しかも、その呼んでる方向には風紀委員が集まってる…てことは、やっぱり…!

その金髪の彼は、まるで子供のように無邪気にフェンスに捕まりながら校内にいる人を呼んでいる。その目線の先を辿っていくと、那月の思った通りだ。彩世が頭を掻きながらその彼に向かって歩み寄ってきた。那月は咄嗟に電柱の影に隠れ身を潜めたが、そこから目を離せずにいる。

ーーーさっきぶつかったあの人、彩世先輩の知り合いだったんだ。他校の友達なのかな…。なんで僕は隠れてるんだ…。

「もー、呼んでんのに無視しないでよ!あ!委員会の仕事してたのー?お疲れ!」
「…お前なんで学校まで来たんだよ。今日は無理って言ったよな?」
「今日はって、いつもそう言って来てくれないじゃん!だから会いに来たの!」

2人はフェンス越しに話しているが、仲が良い友達といった雰囲気はあまり感じない。明るく話す金髪の彼とは正反対で、彩世は気まずそうに困ったような顔をしている。那月はどうしてもそんな2人が気になり、ごくりと唾を飲んで様子を見続けた。

「とりあえず、まだ委員会で残るから帰って」
「えー!?せっかく迎えに来たのに!?終わるの待ってるよ」
「いいから、帰って」

見ている方がハラハラするほど、余計に雰囲気が悪くなっている感じだ。しかも今まで関わった中でも、那月はあんな彩世を見たことがない。

「…へぇー」

でもそんなことを言われても金髪の彼は気にせず、拗ねたようにわざと口を尖らせる。そしてニヤリと微笑んだ。

「いろ君は、なんだかんだすごい優しいもんね?本当はそんなこと思ってないでしょ?」
「……は?」
「俺が甘えてこないように、わざとそんな態度とるんでしょ?」
「…っお前、いいかげんに」

彩世が声を上げそうになったその時、ガシャンッと音を立ててその手をフェンスの網ごと握った金髪男子。

「…えっっ!」

那月も思わず驚いた声が出てしまうほどそれは突然で、握り方もまるで恋人のような絡め方。もう頭の中の混乱が止まらない。

「……離して」
「いろ…、お願い。一緒に帰ろ」
「……」
「今日も1人なの、寂しくて…。だからいろと一緒に帰りたい」

さっきまで明るかったのに、急に泣き出しそうな表情と声で呟いた金髪の彼。

彩世は眉を歪めながら、その姿を見下ろしている。そして大きなため息をついてから、握られた手をゆっくり引き離した。

「もう、そういうのやめてくれ…」

それだけ呟き、彩世は背中を向ける。すると金髪の彼はまた思い切りフェンスを掴み、今度は大きな声を出した。

「いいの!?そんなこと言って…!俺が周りに何されても、どっか行って消えてもいいの!?いろは結局、俺を理解してる風に見せて避けてるんだ!1人にするんだ!!」
「なつ!!!」
「……っ!」

突然ヒートアップした彼に、声を荒らげた彩世。予想外の言葉に、金髪の彼と同じく那月もビクッと肩を跳ね上げた。

一一一今、なつって呼んだ…?え?僕は見えてないはず…。というか、先輩は僕をナツくんって呼ぶし…。違う、え、じゃあいま呼んだのはあの人のこと…?

その「なつ」と呼ばれた彼は、ふるふると震えて立ち尽くしている。その喜怒哀楽の激しさにも圧倒されたが、那月は何も状況に追いつけずただ胸をバクバクさせている。

「……なつ、いいから。夜ちゃんと電話するから、今は先帰ってくれ」
「……ほんとに?絶対?」
「ああ、だから1人で帰れるよな?」
「うん…!分かった、待ってる!絶対に夜電話してね!」

その一部始終は、友達同士というよりまるで恋人。険悪な感じも、縋るような感じも…。ただ2人とも男で、恋愛経験もない那月にはそれ以上は考えつかない。

一一一あの人、なつって名前なんだ。僕と同じ…?こんな偶然あるの?ていうか、只事じゃなさそうだったけどあの人は先輩とどういう関係なんだろう…。
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