24 / 94
3
関係
しおりを挟む
「え!いつの間にそんなことになってたの!?」
翌日、ちょうど2時間目が終わった教室での休み時間。那月は明衣に中庭でのことを話していた。元々、彩世がたまに来ているというのは話していたが、ここまで会話できるようになったことはまだ言っていなかったから。
明衣はそれを聞き、いつものようにフードを被ったまま驚きのあまり仰け反っている。
「びっくり!でも、よかったじゃん!最初出会った時はどうなるかと思ったけど、そこまで慣れてきてさ!」
「う、うん…」
「やっぱり那月の本能が言ってるんだよ!彩世先輩は大丈夫って!だから心開けてきたんじゃない!?」
嬉しそうにする明衣を前に、頬杖をつきながら那月はふと思い返した。あの時、彩世に助けてもらってからここまで話せるようになって。名前も覚えてもらった。那月が男が怖いということもバカにせず、分かってくれている。よく中庭で会うようになった。
この関係はなんというのだろう。
一言で言えば、ただの先輩後輩。でも那月にとっては明衣の他に初めてできた理解者であり、男性であり少しずつ心を開ける存在。
じゃあ彩世にとっては?那月と会うことに理由はないと言っていたし、中庭に来たいだけだとも言っていた。じゃあ、やはり自分は彩世にとってなんでもないのか。
初めは、からかいはしなくとも、物珍しい自分に興味があるのかと思った。だけどそれも違うように見える。
こんな風に考えたのは初めてだ。幼少期から男性に対して恐怖心しか抱いていなかったのに、相手に恐怖以外の感情を持ち始めているようで。
「あっ!噂をすれば風紀委員だよ、廊下!」
「え…」
「ほらほら歩いてきた、やば!あたし隠れる!」
明衣が慌てて那月の影に隠れた後、廊下を見ると風紀委員の先輩達が歩いてきた。初めて見た時と同じで見回りをしているらしい。
先頭の女の先輩に続いて、後から1人男子生徒が姿を見せる。
一一一あ、彩世先輩だ…。
よく会ってはいるが、2人は木を挟んで座っているからいつも顔は合わせていない。しっかり顔を見たのはだいぶ久しぶりだ。だが、鮮明にその表情は那月の頭の中に刻まれていた。
じっとその姿を見ていると、彩世もこちらに気付いて振り向く。その視線が合わさった時、那月の心臓は跳ね上がったが、まるで時間が止まったかのように顔を背けることができない。
それに、前とは違う。目が合っても背筋が凍って体が震えることはなかった。
「……あ、」
彩世はそんな那月を見て少し口角を上げると、またすぐ前を向き歩いて行く。一瞬の出来事だったが、那月は目を離せずにいた。
「ねぇ、那月もう行った?」
「…うん。行ったよ」
「ふー、危なかった!さすがにもう何回目って感じだし、没収されると辛いからさ」
「…あのさ、明衣」
「ん?」
「僕、先輩のこと怖いだけじゃなさそうって言ったけど…ある意味怖いかも」
「え!なに!?どういうこと?慣れてきたんでしょ?」
「…なんて言うか、彩世先輩を見ると僕をどう思ってるのって…、また来てくれるのかなって…怖くなる」
その拙い表現に、明衣はポカンと口を開けて佇む。そしてハッとしたように薄ら笑いを浮かべてしゃがみ、那月の顔を覗き込んだ。
「それってさ…なになに?もしかして…恋とか!?」
「…え?」
「向こうが自分をどう思ってるか気になったり、会えるかなって思うのなんて恋しかなくない!?恐怖の対象から、まさか恋の相手になるなんて…どっかのファンタジードラマか!!」
そう早口で言いながら、ほぼ興奮状態でじたばたする明衣にポカポカ体を叩かれる那月。だが、そこから感じる温度差に眉を歪ませた。
一一一恋って、よく学校とか町で見かけるカップルがしてる事だよね?でもあんな風に体くっつけたりおしり触ったりとか、したいと思わないし想像できない。きっと相手に触りたいとか、早く会いたいって思うのが恋だよね?
「それはない…な。うん、恋ではないよ。そもそも僕と先輩は男だし、それ以前に触るとか無理だし…そう思えないし」
「那月は恋した事あるの?」
「え、ないけど…」
「じゃあ、まだ分かんないよね~。そういう概念とか今までの自分をひっくり返しちゃうのが恋なんだよ?ふふっ」
一一一ひっくり返す…?どうやって?
「背負い投げ…的なこと?」
「違う!!」
翌日、ちょうど2時間目が終わった教室での休み時間。那月は明衣に中庭でのことを話していた。元々、彩世がたまに来ているというのは話していたが、ここまで会話できるようになったことはまだ言っていなかったから。
明衣はそれを聞き、いつものようにフードを被ったまま驚きのあまり仰け反っている。
「びっくり!でも、よかったじゃん!最初出会った時はどうなるかと思ったけど、そこまで慣れてきてさ!」
「う、うん…」
「やっぱり那月の本能が言ってるんだよ!彩世先輩は大丈夫って!だから心開けてきたんじゃない!?」
嬉しそうにする明衣を前に、頬杖をつきながら那月はふと思い返した。あの時、彩世に助けてもらってからここまで話せるようになって。名前も覚えてもらった。那月が男が怖いということもバカにせず、分かってくれている。よく中庭で会うようになった。
この関係はなんというのだろう。
一言で言えば、ただの先輩後輩。でも那月にとっては明衣の他に初めてできた理解者であり、男性であり少しずつ心を開ける存在。
じゃあ彩世にとっては?那月と会うことに理由はないと言っていたし、中庭に来たいだけだとも言っていた。じゃあ、やはり自分は彩世にとってなんでもないのか。
初めは、からかいはしなくとも、物珍しい自分に興味があるのかと思った。だけどそれも違うように見える。
こんな風に考えたのは初めてだ。幼少期から男性に対して恐怖心しか抱いていなかったのに、相手に恐怖以外の感情を持ち始めているようで。
「あっ!噂をすれば風紀委員だよ、廊下!」
「え…」
「ほらほら歩いてきた、やば!あたし隠れる!」
明衣が慌てて那月の影に隠れた後、廊下を見ると風紀委員の先輩達が歩いてきた。初めて見た時と同じで見回りをしているらしい。
先頭の女の先輩に続いて、後から1人男子生徒が姿を見せる。
一一一あ、彩世先輩だ…。
よく会ってはいるが、2人は木を挟んで座っているからいつも顔は合わせていない。しっかり顔を見たのはだいぶ久しぶりだ。だが、鮮明にその表情は那月の頭の中に刻まれていた。
じっとその姿を見ていると、彩世もこちらに気付いて振り向く。その視線が合わさった時、那月の心臓は跳ね上がったが、まるで時間が止まったかのように顔を背けることができない。
それに、前とは違う。目が合っても背筋が凍って体が震えることはなかった。
「……あ、」
彩世はそんな那月を見て少し口角を上げると、またすぐ前を向き歩いて行く。一瞬の出来事だったが、那月は目を離せずにいた。
「ねぇ、那月もう行った?」
「…うん。行ったよ」
「ふー、危なかった!さすがにもう何回目って感じだし、没収されると辛いからさ」
「…あのさ、明衣」
「ん?」
「僕、先輩のこと怖いだけじゃなさそうって言ったけど…ある意味怖いかも」
「え!なに!?どういうこと?慣れてきたんでしょ?」
「…なんて言うか、彩世先輩を見ると僕をどう思ってるのって…、また来てくれるのかなって…怖くなる」
その拙い表現に、明衣はポカンと口を開けて佇む。そしてハッとしたように薄ら笑いを浮かべてしゃがみ、那月の顔を覗き込んだ。
「それってさ…なになに?もしかして…恋とか!?」
「…え?」
「向こうが自分をどう思ってるか気になったり、会えるかなって思うのなんて恋しかなくない!?恐怖の対象から、まさか恋の相手になるなんて…どっかのファンタジードラマか!!」
そう早口で言いながら、ほぼ興奮状態でじたばたする明衣にポカポカ体を叩かれる那月。だが、そこから感じる温度差に眉を歪ませた。
一一一恋って、よく学校とか町で見かけるカップルがしてる事だよね?でもあんな風に体くっつけたりおしり触ったりとか、したいと思わないし想像できない。きっと相手に触りたいとか、早く会いたいって思うのが恋だよね?
「それはない…な。うん、恋ではないよ。そもそも僕と先輩は男だし、それ以前に触るとか無理だし…そう思えないし」
「那月は恋した事あるの?」
「え、ないけど…」
「じゃあ、まだ分かんないよね~。そういう概念とか今までの自分をひっくり返しちゃうのが恋なんだよ?ふふっ」
一一一ひっくり返す…?どうやって?
「背負い投げ…的なこと?」
「違う!!」
20
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる