19 / 94
2
またここで
しおりを挟む
後日、また訪れた昼休み。今日は明衣が他クラスの友人と約束があるため、那月1人で中庭にやってきた。いつものように賑やかな廊下を抜けて、そろそろと中庭に入り草木を囲ったベンチへと腰かける。先日のことがあるせいか、いつもよりも少し体が緊張気味だ。
また誰かがいるかもしれないと思い、隣の大きな木の向こうを覗いてみたが、今日は誰もいないようだ。安堵か拍子抜けか分からないため息をついてから那月は膝の上に乗せた弁当の蓋を開ける。
一一一やっぱり彩世先輩、この前はたまたま電話するためにここに来たのかな。あれから2週間くらい経つけど、あの日以降いないみたいだし。いや、そんなしょっちゅう会うわけないか。会ってもどうにもできないし特に用もないけど…。
「何気にしてるんだろ。とりあえず食べよ。お腹空いた」
今日はポカポカと太陽が心地いい。時々眩しく感じる陽の光も、それの影となってくれる葉の匂いも。ここではその全部が寄り添ってくれてるような気がして、独り言が多い那月も不思議と独りで話してる感触はしない。
「いただきます…」
その心地よさに癒されながら、那月は箸を持って弁当に手をつける。好物の甘い卵焼きを真っ先に口に放り込み、咀嚼した那月から自然と笑みがこぼれた。
「んー、美味しい」
満足気に呟き、またおかずに箸をつけようとした時。どこからかキシッと木のベンチの軋む音が聞こえてきた。
驚いて両隣りを見渡すが、那月の座ってるベンチには誰もいない。まさか、と思い恐る恐る木に遮られている向こう側のベンチを覗いてみる。
すると、さっきは誰もいなかったのにいつやって来たのか。木の影から、また見覚えのある角度で膝から下の足が見えた。大きな木で上半身は隠されていて、座っているだろうという角度で足だけが出ている状態。
しかも学生服、ズボン、男。3年生の色の上履き。那月はあの時と条件が一致していることに気付き、ゴクッと唾を飲んだ。
一一一デジャヴだ。いつからいたんだろう。もしかして…いや、前と条件が同じでもこの人が彩世先輩だって決まったわけじゃないけど。もし知らない人だったら余計にやばい。心の準備ができてないし変な態度取ってしまったら…。
那月は弁当を軽く持ち、立ち上がろうと腰を上げた。どちらにせよ、今そこにいるのが男である以上怖いと思ってしまうし、また相手を不快にさせると思ったから。
「そんなに美味いんだ、弁当」
だけど完全に腰を上げる前に、聞こえてきたその声。弁当を食べているのはこの場に自分だけ。あと周りに人はいない。那月はその人に話しかけられたと一瞬で悟った。
前ほど驚かなかったのは、それが低くて耳にじわりと響く聞き覚えのある声だったからだ。
「あ…」
「めっちゃ美味そうに食べるね」
「は、は、あ…あ、はい」
「ナツくんでしょ?この前の、セーターの」
浮いた腰を下ろして、那月はまたその場に座る。自分に話しかけてきた声と、呼ばれた名前。顔は見えなくても、そこにいるのが彩世だと分かった。
でもそれ以上に驚いたのが、咄嗟に話しかけられたにも関わらず、自分が返事をできたことだ。
「何となく来ただけだから、またここにいると思わなかった」
また誰かがいるかもしれないと思い、隣の大きな木の向こうを覗いてみたが、今日は誰もいないようだ。安堵か拍子抜けか分からないため息をついてから那月は膝の上に乗せた弁当の蓋を開ける。
一一一やっぱり彩世先輩、この前はたまたま電話するためにここに来たのかな。あれから2週間くらい経つけど、あの日以降いないみたいだし。いや、そんなしょっちゅう会うわけないか。会ってもどうにもできないし特に用もないけど…。
「何気にしてるんだろ。とりあえず食べよ。お腹空いた」
今日はポカポカと太陽が心地いい。時々眩しく感じる陽の光も、それの影となってくれる葉の匂いも。ここではその全部が寄り添ってくれてるような気がして、独り言が多い那月も不思議と独りで話してる感触はしない。
「いただきます…」
その心地よさに癒されながら、那月は箸を持って弁当に手をつける。好物の甘い卵焼きを真っ先に口に放り込み、咀嚼した那月から自然と笑みがこぼれた。
「んー、美味しい」
満足気に呟き、またおかずに箸をつけようとした時。どこからかキシッと木のベンチの軋む音が聞こえてきた。
驚いて両隣りを見渡すが、那月の座ってるベンチには誰もいない。まさか、と思い恐る恐る木に遮られている向こう側のベンチを覗いてみる。
すると、さっきは誰もいなかったのにいつやって来たのか。木の影から、また見覚えのある角度で膝から下の足が見えた。大きな木で上半身は隠されていて、座っているだろうという角度で足だけが出ている状態。
しかも学生服、ズボン、男。3年生の色の上履き。那月はあの時と条件が一致していることに気付き、ゴクッと唾を飲んだ。
一一一デジャヴだ。いつからいたんだろう。もしかして…いや、前と条件が同じでもこの人が彩世先輩だって決まったわけじゃないけど。もし知らない人だったら余計にやばい。心の準備ができてないし変な態度取ってしまったら…。
那月は弁当を軽く持ち、立ち上がろうと腰を上げた。どちらにせよ、今そこにいるのが男である以上怖いと思ってしまうし、また相手を不快にさせると思ったから。
「そんなに美味いんだ、弁当」
だけど完全に腰を上げる前に、聞こえてきたその声。弁当を食べているのはこの場に自分だけ。あと周りに人はいない。那月はその人に話しかけられたと一瞬で悟った。
前ほど驚かなかったのは、それが低くて耳にじわりと響く聞き覚えのある声だったからだ。
「あ…」
「めっちゃ美味そうに食べるね」
「は、は、あ…あ、はい」
「ナツくんでしょ?この前の、セーターの」
浮いた腰を下ろして、那月はまたその場に座る。自分に話しかけてきた声と、呼ばれた名前。顔は見えなくても、そこにいるのが彩世だと分かった。
でもそれ以上に驚いたのが、咄嗟に話しかけられたにも関わらず、自分が返事をできたことだ。
「何となく来ただけだから、またここにいると思わなかった」
10
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる