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こういう不意に驚いた時、とりあえず立ち上がってしまうのはなぜだろう。那月も例の通りに、勢いよくベンチから立ち守備体制をとった。
どこからか聞こえてきたその声は、明らかに男の人のもので。だいぶ近くにいるのは間違いない。人が居ないと思っていた場所にまさか人がいるかもしれないという状況は、男じゃなくてもさすがに驚く。
ザワザワと木々が揺れる中、少し声が近い方に顔を傾けてみた。すぐ隣の、大きな木が遮っている向こう側のベンチにその人がいるらしい。
座っているであろう場所は木で隠れて見えないが、少し足先だけが見える。
「じゃあ、もう戻るから。切るよ」
一一一あれ、この声もしかして。いや、似てるってだけで全くの別人かもしれない。
電話を切ったような会話が聞こえて、那月が一瞬考えた時。真ん中を遮っていた木から人影が見え、那月の方へ近付いてきた。
「……おっ」
「!!わぁぁぁあ!」
ガサッと枝や葉を踏む音が聞こえて、顔を上げた那月の前に立っていたのは想像通り、朝会ったばかりの彩世だった。
彩世でも違う人でも、この状況で突然男が現れれば那月は同じ反応だろう。思い切り驚いて、後ろに倒れ込み尻もちをついてしまった。
「あれ…君、今朝セーター返しにきた1年生」
そんな驚かれ方をしても、彩世は動揺せず気付いたように言った。尻もちをついたままの那月を立ったまま見下ろし、じーっと顔を見つめる。
一一一や、やっぱり彩世先輩!?なんで、もう会うことないと思ってたのに…。なにこの偶然…というかいつもここ人いなかったのに、なんで先輩がここに!?
ドクドクと心臓が波打つ感覚。朝会ったばかりだというのに、やはり那月の気持ちとは逆に、体がまだ拒否を起こしてるようで顔が青ざめていってしまう。
「は、はっ…は、い」
「朝は大丈…ていうか、昨日はあの後大丈夫だったの?俺は視聴覚室出てすぐ帰ったから知らないけど」
「…へ、?」
那月はその言葉を聞いて、思わず目を丸くした。昨日、那月が視聴覚室を出る時にまだ先輩はいたからだ。もしかして那月がそのことに気付いていないと思っているんだろうか。
確かにあの場に先輩は居たし、やって来た3年生の人と話していた内容から察するに、1時間グループ研究をサボっていたらしい。ということは、那月が出るまでずっと視聴覚室の前にいたことになる。
一一一セーターを返してほしかったのを言えずに待ってたのかと思ったけど…でも、だったらこんな嘘つかないだろうし。そもそも今考えたら、彩世先輩は1時間近くも待たずにセーター返してって普通に言いそう。じゃあ、なんでずっと言わずに視聴覚室の前にいたんだ…?
「あ、の……、」
「ん?なに?」
「……っ」
一一一聞いてみたいのに、やっぱり言葉が出ない。彩世先輩は、拒絶するような表情を全然見せないから僕もこれ以上拒絶したくないって思うのに…。
「那月~お待たせ~!」
言葉が喉につっかえて嗚咽しそうになった時、タイミングよく明衣が購買の袋を抱えて中庭に入ってきた。
「め、明衣…!」
「…って、んん?あぁーーー!あなたは!今朝の、彩世先輩!」
「え?だれ?」
尻もちをついたままの那月と、その目の前に立ち明衣を見てハテナを浮かべる彩世。明衣はそんな2人を不思議そうに驚いた顔で見比べた。
「私は今朝、先輩にセーターを返しに行ったこの子の友達です!後ろにいました!あの…2人はここで何を?」
「あー。え、俺はただそこで電話してて、今この子に偶然会って、なんか尻もちついて」
那月は明衣の方を見てコクコクと何度も首を縦に振った。それを見て状況を察したらしい明衣は「あー」と口を開き、先輩の方を向く。
どこからか聞こえてきたその声は、明らかに男の人のもので。だいぶ近くにいるのは間違いない。人が居ないと思っていた場所にまさか人がいるかもしれないという状況は、男じゃなくてもさすがに驚く。
ザワザワと木々が揺れる中、少し声が近い方に顔を傾けてみた。すぐ隣の、大きな木が遮っている向こう側のベンチにその人がいるらしい。
座っているであろう場所は木で隠れて見えないが、少し足先だけが見える。
「じゃあ、もう戻るから。切るよ」
一一一あれ、この声もしかして。いや、似てるってだけで全くの別人かもしれない。
電話を切ったような会話が聞こえて、那月が一瞬考えた時。真ん中を遮っていた木から人影が見え、那月の方へ近付いてきた。
「……おっ」
「!!わぁぁぁあ!」
ガサッと枝や葉を踏む音が聞こえて、顔を上げた那月の前に立っていたのは想像通り、朝会ったばかりの彩世だった。
彩世でも違う人でも、この状況で突然男が現れれば那月は同じ反応だろう。思い切り驚いて、後ろに倒れ込み尻もちをついてしまった。
「あれ…君、今朝セーター返しにきた1年生」
そんな驚かれ方をしても、彩世は動揺せず気付いたように言った。尻もちをついたままの那月を立ったまま見下ろし、じーっと顔を見つめる。
一一一や、やっぱり彩世先輩!?なんで、もう会うことないと思ってたのに…。なにこの偶然…というかいつもここ人いなかったのに、なんで先輩がここに!?
ドクドクと心臓が波打つ感覚。朝会ったばかりだというのに、やはり那月の気持ちとは逆に、体がまだ拒否を起こしてるようで顔が青ざめていってしまう。
「は、はっ…は、い」
「朝は大丈…ていうか、昨日はあの後大丈夫だったの?俺は視聴覚室出てすぐ帰ったから知らないけど」
「…へ、?」
那月はその言葉を聞いて、思わず目を丸くした。昨日、那月が視聴覚室を出る時にまだ先輩はいたからだ。もしかして那月がそのことに気付いていないと思っているんだろうか。
確かにあの場に先輩は居たし、やって来た3年生の人と話していた内容から察するに、1時間グループ研究をサボっていたらしい。ということは、那月が出るまでずっと視聴覚室の前にいたことになる。
一一一セーターを返してほしかったのを言えずに待ってたのかと思ったけど…でも、だったらこんな嘘つかないだろうし。そもそも今考えたら、彩世先輩は1時間近くも待たずにセーター返してって普通に言いそう。じゃあ、なんでずっと言わずに視聴覚室の前にいたんだ…?
「あ、の……、」
「ん?なに?」
「……っ」
一一一聞いてみたいのに、やっぱり言葉が出ない。彩世先輩は、拒絶するような表情を全然見せないから僕もこれ以上拒絶したくないって思うのに…。
「那月~お待たせ~!」
言葉が喉につっかえて嗚咽しそうになった時、タイミングよく明衣が購買の袋を抱えて中庭に入ってきた。
「め、明衣…!」
「…って、んん?あぁーーー!あなたは!今朝の、彩世先輩!」
「え?だれ?」
尻もちをついたままの那月と、その目の前に立ち明衣を見てハテナを浮かべる彩世。明衣はそんな2人を不思議そうに驚いた顔で見比べた。
「私は今朝、先輩にセーターを返しに行ったこの子の友達です!後ろにいました!あの…2人はここで何を?」
「あー。え、俺はただそこで電話してて、今この子に偶然会って、なんか尻もちついて」
那月は明衣の方を見てコクコクと何度も首を縦に振った。それを見て状況を察したらしい明衣は「あー」と口を開き、先輩の方を向く。
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