早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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友達

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結局、彩世先輩のセーターを畳んで抱えたまま、タイミングを見計らって那月は教室に戻った。ホームルームの後で、人もまばらだ。今のうちに、と目元は前髪で隠して見えないようにして、そっと自分の席へと戻った。

「那月!!!あんたどこ行ってたの!?」
「わっ、明衣…、あの」
「ほんと心配した!LINEも見ないし!」
「ご、ごめん…。携帯、鞄の中で」
「何のための携帯だよ!」

席へ戻った途端、明衣が目の前に飛び込んできた。怒っているような安堵したような表情を浮かべて、明衣はへなへなとしゃがみ込む。慌てて携帯を開くと、言われた通り何十件もの明衣からのメッセージで通知が埋まっていた。

「明衣…心配かけてごめん」
「ただのサボりなら気にしないけどさー、那月は普段そんなことしないから、何かあったかと思って心配だったん…」
「え…?な、なに?」
「ちょっと…その目、なに?赤くなってるし腫れてるよ?」

やはり、というか最初から明衣にだけは隠せないとは思っていた。でも思ったよりも気付くのが早く、前髪を退けられた那月はおずおずと視線を外す。

「ん?それに、そのセーターなに?どしたの?」
「あのさ、明衣…。ちょっと相談が…いい?」

察しのいい明衣は、その場でもう何も言わずに鞄を持って「行くぞ」と那月を促した。慌てて自分の鞄とセーターを落とさないように持ち、後を追いかける。

さっきのことを話しても、明衣は引かないと分かっているがむしろ心配なのはそこではなく、襲ってきた男子達を殴りに行くのではないかということだ。

「で?何があったの」

学校からすぐ近くの公園へやって来た2人。那月をベンチに座らせた明衣は腕を組み、目の前に仁王立ちになっている。周りからしたら絡まれてるように見えるだろうが、これはだいぶ心配している様子だ。

「じ、実はさっきの休み時間に…」

視聴覚室で起こった事と、彩世先輩という人が助けてくれたこと、セーターを返さないといけないこと。那月は全てを簡潔に話した。明衣は静かに聞いていたが、一通り聞き終えた後、踵を返して勢いよく公園の出口へと歩き始めた。

那月は焦って腕を掴んだが、ずるずると明衣の力に引きずられていく。男なのに情けない、と思ってしまうが明衣が女子の平均以上に強いだけだ。そして怒りも相まって力が湧いているらしい。

「待って待って!やっぱり怒ると思った!未遂だから!襲われかけたけど何もされてないから!」

「はぁぁ!?未遂だったら許されるとかないから!!那月に怖い思いさせたってことに変わりはないでしょ!」

「た、確かにめちゃくちゃ怖かったけど!僕が怖がって弱くて何も出来ないせいもあるし…でも先輩のおかげで大丈夫だったから!」

「はは、1年でしょ?待ってろ、すぐ見つけて再起不能にしてやる」

「もう声が聞こえてもない!待って待って!!」

明衣は中学の時から強かった。子供の時からやんちゃな方だったらしく、男子に混ざってよく取っ組み合いもしていたそうだ。背も171センチの那月とほぼ同じくらいで力も割とある。

明衣の言っていることが冗談に聞こえないのは、中学の頃も那月をバカにしてわざと怖がらせてきた男子を蹴り倒し、指導室に呼ばれたという前例があるから。

那月にとっては、そんな明衣が心の支えで大事な友達で、自分のために怒ってくれることは嬉しかった。だけど怒った明衣は何をするか分からないし、そのせいで怪我でもしたら嫌な那月は、この力溢れる明衣を今全力で止めねばならない。

「それに先輩に腕ひねられて痛いことされてたから、たぶんもうしてこないと思う!!それより、セーターを返してお礼が言いたいからその相談なの!」

「はぁはぁ…チッ、そんなんじゃ足りないわ!ボコボコにしてやりたいくらいなのに」

「…あのね、明衣が僕のために怒ってくれてるのは、すごく嬉しいよ。でも、もし明衣がそのせいでトラブって怪我しちゃったらすごく嫌だし悲しいんだ」

明衣の腕にしがみつきながら那月は呟く。息を荒くして怒っていた明衣は、その言葉に少し脱力した。

「…はー、もう!分かった!分かったよ。でも、次また何かしてきたら私がシメる。いいね??」

「は、はい…」

思わずYESと返事をしてしまうほど、ドアップになった明衣の目は気迫に満ちている。それでも、那月の気持ちも汲んだのか、「ふぅぅ」と深呼吸をした。とりあえずこの場は殺気が収まったようだ。

「ありがとね、明衣。いつもこんな僕のこと…」

「こんな、とか言うな!!あんたは私の大事な友達なの!自慢の友達なの!ネガティブ禁止!」

「うっ、うん!」
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