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温かい
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「えーっと、君も1年生だね?」
「…っえ」
「先生に言う?言いたくない?今君がされたこと」
「……っ」
先輩は俯いていた那月に、自然にそう話しかけた。大丈夫?などと焦る様子もなく淡々と。何とかその問いかけに答えようと、那月は首を横に振った。
「言いたくないか。そりゃそうだよね。でもさっきの悪ガキ達、調子乗ってたっぽいしまた何かしてくるかもよ」
「…う、は、い」
「まぁ…でも君が言いたくないなら、俺からは何も言わないよ」
その時、6時間目を知らせる予鈴が聞こえてきた。いつまでもここにいる訳にいかない。早く教室に戻らないとと思い、シャツのボタンを留めて制服を整えたいのに、那月の手は上手く動かない。
そんな様子をじっと見ていた先輩は、「はぁ」とため息をついてしゃがみ込んだ。
「貸して。君がいつまでもそうしてると、通りがかった人に俺が何かしたかと思われるでしょ」
そう言って、先輩は那月のシャツに触れる。
「!!いやっ…!!!」
きっと先輩は、代わりにボタンを留めようと親切心で手を伸ばしてきただろう。でも那月は、やはりその手を振り払ってしまった。
「あ…、」
一一一どうしよう、謝らないと。それにお礼も言えてない。ダメだダメだ、、だけどやっぱり怖い。このままだと、また何か言われる?それに助けてくれたけど、もし豹変してさっきみたいなことされたら…。
「あーごめん、そりゃ嫌か。俺こういう時どうしたらいいかよく分かんないから。いない方がいい?」
「…え、?え、と」
先輩は気怠そうに、でも一応、那月を心配するかのように顔を覗き込む。こんな醜態を晒してしまった挙句、上手く話せない状態、今までだったら鬱陶しがられたか気持ち悪がられたに違いない。
想像していなかった問いかけに、那月は動揺してまた言葉を詰まらせてしまった。
「…んー、とりあえず俺出るわ。いない方がよさそうだし」
困ったように頭をポリポリとかいて、先輩は立ち上がった。その背中を見て、あれこれ考えても行動できない自分に落胆し、那月の目頭はまた熱くなる。
一一一もう嫌だ。こんな自分。ごめんなさい、ごめんなさい。
そして両目から涙が溢れた瞬間、バサッ!という音と共に、那月の目の前が真っ暗になった。思わず「うわぁ!!」と驚く声が響く。
だけど落ち着いて顔にかけられた物を掴んで見てみると、それは学校指定のベージュのニットセーターだった。那月がいつも着ているものより、一回りも大きい。
「…え?え?こ、これ」
まさか、と思ったがそのまさかだ。目線を上げると、さっきまでセーターを着ていた先輩はシャツだけになっていて、何も言わずそのまま部屋を出ていった。
「せ、先輩、の…?」
大きな柔らかいセーターは、那月の泣き顔と乱れた姿を隠すように掛けられている。男の人は怖いはずなのに、今の今まで恐怖で震えていたのに。
乱暴に掛けられたそのセーターは温かくて、ふわふわした柔軟剤の香りがしてきて、不覚にも那月の心を落ち着かせた。
「……っう、ぅぅ」
さっきまでとは違う涙が、那月の目からボロボロと零れ落ちる。きっと、襲われそうだった自分に先輩が建前上の気を遣ってくれただけだと思う。でも、ただそれだけだとしても、那月にとっては初めて触れたような優しさだったのだ。
1人になった部屋の中で、那月は声を殺しながら泣き崩れた。
「…っえ」
「先生に言う?言いたくない?今君がされたこと」
「……っ」
先輩は俯いていた那月に、自然にそう話しかけた。大丈夫?などと焦る様子もなく淡々と。何とかその問いかけに答えようと、那月は首を横に振った。
「言いたくないか。そりゃそうだよね。でもさっきの悪ガキ達、調子乗ってたっぽいしまた何かしてくるかもよ」
「…う、は、い」
「まぁ…でも君が言いたくないなら、俺からは何も言わないよ」
その時、6時間目を知らせる予鈴が聞こえてきた。いつまでもここにいる訳にいかない。早く教室に戻らないとと思い、シャツのボタンを留めて制服を整えたいのに、那月の手は上手く動かない。
そんな様子をじっと見ていた先輩は、「はぁ」とため息をついてしゃがみ込んだ。
「貸して。君がいつまでもそうしてると、通りがかった人に俺が何かしたかと思われるでしょ」
そう言って、先輩は那月のシャツに触れる。
「!!いやっ…!!!」
きっと先輩は、代わりにボタンを留めようと親切心で手を伸ばしてきただろう。でも那月は、やはりその手を振り払ってしまった。
「あ…、」
一一一どうしよう、謝らないと。それにお礼も言えてない。ダメだダメだ、、だけどやっぱり怖い。このままだと、また何か言われる?それに助けてくれたけど、もし豹変してさっきみたいなことされたら…。
「あーごめん、そりゃ嫌か。俺こういう時どうしたらいいかよく分かんないから。いない方がいい?」
「…え、?え、と」
先輩は気怠そうに、でも一応、那月を心配するかのように顔を覗き込む。こんな醜態を晒してしまった挙句、上手く話せない状態、今までだったら鬱陶しがられたか気持ち悪がられたに違いない。
想像していなかった問いかけに、那月は動揺してまた言葉を詰まらせてしまった。
「…んー、とりあえず俺出るわ。いない方がよさそうだし」
困ったように頭をポリポリとかいて、先輩は立ち上がった。その背中を見て、あれこれ考えても行動できない自分に落胆し、那月の目頭はまた熱くなる。
一一一もう嫌だ。こんな自分。ごめんなさい、ごめんなさい。
そして両目から涙が溢れた瞬間、バサッ!という音と共に、那月の目の前が真っ暗になった。思わず「うわぁ!!」と驚く声が響く。
だけど落ち着いて顔にかけられた物を掴んで見てみると、それは学校指定のベージュのニットセーターだった。那月がいつも着ているものより、一回りも大きい。
「…え?え?こ、これ」
まさか、と思ったがそのまさかだ。目線を上げると、さっきまでセーターを着ていた先輩はシャツだけになっていて、何も言わずそのまま部屋を出ていった。
「せ、先輩、の…?」
大きな柔らかいセーターは、那月の泣き顔と乱れた姿を隠すように掛けられている。男の人は怖いはずなのに、今の今まで恐怖で震えていたのに。
乱暴に掛けられたそのセーターは温かくて、ふわふわした柔軟剤の香りがしてきて、不覚にも那月の心を落ち着かせた。
「……っう、ぅぅ」
さっきまでとは違う涙が、那月の目からボロボロと零れ落ちる。きっと、襲われそうだった自分に先輩が建前上の気を遣ってくれただけだと思う。でも、ただそれだけだとしても、那月にとっては初めて触れたような優しさだったのだ。
1人になった部屋の中で、那月は声を殺しながら泣き崩れた。
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