アイツは屑な俺が好き

ぱんなこった。

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クズ焦る①

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「だからさー、未だにその初恋の男に言われたこと引きずって?自分もその影響受けちゃってんのどうなのよって話~」

 薄暗いバーカウンターで俺の隣にいる男の先輩が、グラスを拭きながら呆れたように言う。

「先輩、もうその話いいですって」

 俺も手の平サイズの氷をナイフで削りながら苦笑いを浮かべた。俺はいつの間にか24歳になり、3年前からバーテンダーとして働いている。飲み屋街の裏、半地下にあるこの店はBar「land」。まあまあ人気があるショットバーで、隠れ家的なのに金土日はほぼ満席。

 高校を卒業して約3年工場勤務をした後、退職してこの店で働き始めた。

 辞めた当時は、とりあえず金に困るしバイトでも何でも働かないとって感じだったから、酒を扱うバーテンダーに興味が出て面接を受けた。元々酒は好きな方だし強いから。そんな単純な理由で始めた仕事だけど、意外にも天職だったらしい。今年の春、バイトから正社員に格上げしてもらえた。

「だって~星詩くんと恋バナするたびに、その初恋の話がキッカケになってるってわかるんだもーん。人に本気にならないとことか、毎回ワンナイトで終わるとことか~」
「別に、お互い合意の上ですから…それより早く準備終わらせましょう」
「もう!こういう話になったらそうやってすぐはぐらかすんだから~」

 この茶髪マッシュヘアで女口調の先輩は、同じく正社員の八瀬涼也はせりょうや、27歳。今年でここで働いて5年になる、見ての通りおネエ男子。勤務中はできるだけ普通に話しているが、そのイケメンぶりと物腰の柔らかさから女性客に人気。みんなおネエだとは知らない。こうして受け流す時もあるけど、なんだかんだ一緒に働いてきて1番仲がいい先輩。

「先輩が恋バナしたがるから仕方なくしたんですよ」
「したいに決まってんでしょぉ?そろそろワンナイト以外の話も聞かせてよ~」
「んー…無理っすね」

 そう、あの初恋から8年くらいは経っている。なのにあれ以来、俺は恋人ができたことがない。もちろん童貞じゃない。いつもアプリや飲み会で出会った男とほぼワンナイトで終わっている。決まった相手も特になくて、性欲が溜まったら発散する程度。

 体だけで収まらず告白されたこともあったが、「そういうの興味無い」と断ってきた。

一一一……どうせ、後から本気なのを拒否したり馬鹿にしたりするんだろ?それで結局、最後は俺のことなんて存在しなかったもののように忘れるんだろ?

 そんなに冷酷な振り方なのか、泣かれたこともしばしば。八瀬先輩の言う通り、俺はあのクズな初恋相手の影響をモロに受けてしまっているようだ。

____俺が本気になったら気持ち悪い、からかわれるだけ、無かったことにされるだけ。裏切られるか、すぐ忘れ去られるだけ。

 最悪な思い出から根が生えたように、この卑屈さと他人への疑心暗鬼は拍車がかかる一方。恋人なんてできる訳ないまま、大人になっていた。仕事に不満は無いし、一人暮らしして遊べるくらいには稼いでる。

 なのに、ポンプで空気を送りながらも、どこかに空いてる穴から空気が漏れていくような。常にそんな心情。
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