純情 パッションフルーツ

坂本 光陽

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 夜が明ける頃に、文書は完成した。すぐに読み直して、誤字脱字を修正する。時間に余裕はない。郵送ではなく、メールで送信することにした。
 先日いただいた名刺に、真中さんのメールアドレスは明記されていた。
 返信があったのは夕方のことだった。

「メールの件は確認した。こちらで対処する」

 真中さんのメールは、とても簡潔だった。
 でも、その後、何の連絡もなかった。多忙なのは承知しているので、再度連絡することは我慢した。でも、どうにも耐えられなくて、写真週刊誌発売日の2日前、思い切って会社に連絡した。

 秘書さんが対応してくれた。
「真中からの伝言です。『心配せずに待っていてほしい』とのことです」上司に似て、彼女の言葉も簡潔だった。

 発売当日、コンビニで例の写真週刊誌を購入した。目次を確認するだけでなく、最初から最後まで眼を通した。
 エリさんに関する写真と記事は、どこにも掲載されていない。僕は安堵あんどのあまり、座り込んでしまった。

 真中さんのおかげだ。すぐ会社に電話をかけた。秘書さんに、真中さんへの感謝の気持ちを伝えた。
 秘書さんは教えてくれた。セントラル重工業と問題の出版社との間に、直接の取引はないという。真中さんの人脈を駆使して、先方の編集部にプレッシャーをかけた。最初は聞き入れられず、けんもほろろの対応だったらしい。

 そこで、出版社の大口取引先に手を回したという。手段を選ばずに、徹底抗戦に出たのだ。粘り強く交渉を重ねた結果、ようやく先方は折れてくれたという。

 真中さんからのメッセージを伝え聞いた。
「身内の恥を防ぐことができた。君の迅速な連絡を感謝する」

 御礼を言うのはこちらの方だ。メールで済ますのは失礼なので、僕は礼状を書くことにした。感謝の気持ちを精一杯伝えるために、パソコンで書いた内容を手書きで引き写し、ポストに頭を下げて投函した。

 エリさんは不思議がっていた。
「どうして、掲載しなかったのかしら。もちろん、その方がいいんだけど、何か気持ち悪いわね」
「たぶん、セクシャリティの問題はまずいと判断したんでしょ。下劣なメディアにも最後の良心があった。素直に喜んでおこうよ」

 僕が真中さんに相談したことを、エリさんには知らせていない。それが真中さんの要望だったからだ。
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