鬼頭くんってマザコンで異能の持ち主だったりする。

坂本 光陽

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ジレンマ連鎖①

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 啓磨が意識を失っていたのは、わずか数分だけである。体育館裏に駆けつけた真里亜に身体をゆさぶられると、欠伸交じりに起き上がったのだ。

「啓磨くん、大丈夫?」
「んん? 何が?」
「君が上級生に呼び出されたって聞いて、心配してやってきたら、湿った土の上で昼寝をしているんだもの。びっくりさせないでよ。何があったのよ」

 啓磨は左手を側頭部にあてて、
「ええと、ここんところをバカ力で殴られた?」
「どうして疑問形?」
「いや、だって、眠っている間に、こぶも痛みも引っ込んじまったよ」

「ああ、そうだったね」と、呆れ顔の真里亜。「君は昔から、そうだったね。幼稚園のジャングルジムから頭から落ちても、勢いよく漕いだブランコから投げ出されても」
「そっ、瞬時に治っちまう。誰かが命名『びっくり園児』」
「それ、たぶん岡倉先生だよ。やだ、君と腐れ縁みたいで、最悪」と、真里亜は天を仰ぐ。
「ははっ、心配かけて、すまん」

「……別に、いいけどね。愛子さんが心配するだろうし」
「やばっ、母さんの件があったんだ。野球部の世良がふざけたことを……」
 啓磨が説明しかけると、真里亜は笑顔で制止された。
「みなまで言うな。ややこしい話になっているんだな、って想像はつく」

「ああ、どうすりゃいいんだよ」と、啓磨は頭をかきむしる。「こんなこと、母さんにはとても言えない」
「いや、年下の男から慕われたら、意外と、うれしいんじゃないかな」
「ああ? ふざけんなよ」
「ごめん。冗談だよ。啓磨くんって、いつも愛子さんのことになると、冗談が通じないほど真剣だね」

 真里亜は「このマザコン」という言葉は飲み込んだ。「この鈍感、頭のネジが数本緩んでいるんじゃないの? 母親がライバルって、私も相当なものだけど」というセリフも。その代わりに口にしたのは、
「何か、私にできることがあればいいけれど」という健気なものだった。

「ああ、それはいい。俺が何とかするから、息子の俺の責任だから」
 そう言って、啓磨は会話を打ち切った。真里亜の寂しそうな顔つきに気づきもしないで。
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