鬼頭くんってマザコンで異能の持ち主だったりする。

愛子のホットライン①

　啓磨の災難のことなど、つゆ知らず、愛子は夫とホットラインを結んでいた。夫の剛磨は優秀な営業マンとして全国を飛び回っているが、この日の昼下がりは珍しく息抜きのできる時間ができたのだ。

「啓磨の様子はどうだ？　ボコボコにやられて凹んでいるのか？」
「ううん、やっぱり、剛ちゃんの息子ね。立ち直りが早い。今日は元気で学校に行っちゃった」
「そうか、もう体調が回復したのか。あいつ、成長期だしな」
「もう少し学校を休んでくれてもよかったのにね。残念」

「はは、愛ちゃん、寂しいのか。いいかげん、子離れしてやれよ。啓磨も鬱陶うっとうしがっているだろ」
「そんなことないわよ。いつまでも、母さん、母さんってベッタリで」
「はははっ、嘘つけ」
「嘘じゃないわよ。毎日ハグをしてくれるし」

「おいおい、男子高生が母親と、毎日ハグはまずいだろ」
「何よ、剛ちゃん、もしかして妬いてるの？　クスクスクス」
「バカ、誰が息子に嫉妬なんかするか。もういいかげん、電話を切るぞ」
「ああん、ちょっと待って。話しておかないといけないことがあるのよ」

「何だよ、早く言ってくれ。そろそろ同僚が帰ってくる」
「ええと……、何だっけ」
「愛ちゃん、早くしろ」
「せかさないでよ。ほら、あれよ、あれ。私には珍しく、ど忘れ」

「別に珍しくない。いつものことだろ」
「ひっーどい。剛ちゃん、優しくないよ。久し振りに私と話しているのに、どうしてそんな言い方しかできないの？」
「どうして、そんなリアクションになるんだよ。バッカだなぁ」
「バカ？　バカですってぇ。剛ちゃんの方が、よっぽどバカじゃない。ほら、電車の切符の買い方とか全然知らなかったし」

「何年前の話だよ。それって、町に降りてきた時の話だろ。愛ちゃんだって知らなかったくせに」
「ブーっ。違いますぅ。私は知っていました。だって、町の女の子と文通していたしぃ」
「その語尾を伸ばす話し方はやめなさい。バカっぽく聞こえるから」
「ああ、またバカって言った。ひっどーい。わかった。私のこと、面倒くさい女って思っているんでしょ。もう、愛してないんでしょ」