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マザコンの呪い③
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だが、愛子の涙を見てしまうと、とても言うことはできなかった。
「わかったよ。これからはキチンと食べるから」
「他の子にあげたりしない?」
「あげたりしない。約束する」
「よかった」
愛子がにっこり笑うと、それまで重苦しかった空気が一変した。部屋の中が明るくなり、かぐわしい香りまで漂ってきそうである。それにしても、愛子の涙を見ると胸がかき乱されるのは、マザコンの症状なのだろうか。とにもかくにも、啓磨は胸をなでおろす。
「じゃあ、そろそろ晩御飯を作ろうかしら」
愛子は冷蔵庫からジャガイモやニンジンを取り出すと、鼻歌まじりにそれらをシンクで洗い始めた。
愛子は家の中では薄着である。Tシャツと短パン姿が定番で、伸びやかな脚がむきだしになっている。素晴らしいラインの脚であり、真っ白な肌をしているせいか、啓磨の眼には輝いて見えた。
だが、愛子は母親であり人妻である。啓磨にとって父は恋敵なのだ。生活力や男としての深み、人間の器という面では到底太刀打ちはできないが、その反面、父は出張で不在がちだ。啓磨には愛子と多くの時間を過ごしているという強みがある。
家の中では、ほとんど二人きりなのだ。愛を勝ち取るには充分なシチュエーションだった。バカな級友たちには死んでも知られたくないが、啓磨はマザコンを自覚しており、言ってしまえば愛子の愛情を独り占めにしたいと思っている。
母を深く愛するあまり父に嫉妬して対抗心を抱くことをエディプスコンプレックスというが、啓磨を悩ませている葛藤はまさにそれであった。
「ああん、失敗。ハチミツを買い忘れちゃった」愛子が心底残念そうな声を上げた。
「晩飯は肉ジャガだろ。何でハチミツがいるの」啓磨は苦笑しながら小首を傾げる。
「隠し味なのよ。啓ちゃん、わかってないのね」
こうして、啓磨はハチミツを求めて、出かけることになった。この時、人生を変えるような出来事が待っているとは、啓磨は知る由もない。
「わかったよ。これからはキチンと食べるから」
「他の子にあげたりしない?」
「あげたりしない。約束する」
「よかった」
愛子がにっこり笑うと、それまで重苦しかった空気が一変した。部屋の中が明るくなり、かぐわしい香りまで漂ってきそうである。それにしても、愛子の涙を見ると胸がかき乱されるのは、マザコンの症状なのだろうか。とにもかくにも、啓磨は胸をなでおろす。
「じゃあ、そろそろ晩御飯を作ろうかしら」
愛子は冷蔵庫からジャガイモやニンジンを取り出すと、鼻歌まじりにそれらをシンクで洗い始めた。
愛子は家の中では薄着である。Tシャツと短パン姿が定番で、伸びやかな脚がむきだしになっている。素晴らしいラインの脚であり、真っ白な肌をしているせいか、啓磨の眼には輝いて見えた。
だが、愛子は母親であり人妻である。啓磨にとって父は恋敵なのだ。生活力や男としての深み、人間の器という面では到底太刀打ちはできないが、その反面、父は出張で不在がちだ。啓磨には愛子と多くの時間を過ごしているという強みがある。
家の中では、ほとんど二人きりなのだ。愛を勝ち取るには充分なシチュエーションだった。バカな級友たちには死んでも知られたくないが、啓磨はマザコンを自覚しており、言ってしまえば愛子の愛情を独り占めにしたいと思っている。
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「晩飯は肉ジャガだろ。何でハチミツがいるの」啓磨は苦笑しながら小首を傾げる。
「隠し味なのよ。啓ちゃん、わかってないのね」
こうして、啓磨はハチミツを求めて、出かけることになった。この時、人生を変えるような出来事が待っているとは、啓磨は知る由もない。
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