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裏切り愛①
しおりを挟むとても短い秋だった。慌しかった夏が過ぎると、あっという間に冬になったような気がする。サンマなどの秋の味覚は味わえなかったし、キンモクセイの甘い香りを嗅ぐこともなかった。コールボーイの仕事が忙しすぎて秋を感じる余裕がなかった、と言った方が正確かもしれない。
ただ、短い秋の間に大きな変化があった。先輩コールボーイ、タクマさんが〈上がった〉のである。つまり、コールボーイを辞めて、『キャッスル』から去っていったのだ。
よく顔を合わせてきたのに、僕には一言の挨拶もなかった。最も付き合いの長いレイカさんも、事後承諾の形で、突然知らされたらしい。本人は決意を固めていたし、引止めもしなかったという。
タクマさんは、カズとナンバー1を争ってきた売れっ子だ。『キャッスル』にとって大打撃になることは間違いない。タクマさんの抜けた穴は、残された者たちで埋めていく必要がある。
最近、タクマさんの常連客の方々から指名を受けた。もしかしたら、タクマさんのことを根掘り葉掘り訊かれるかなと思っていたら、案の定、そうなった。
「本当は、どこかの金持ち女の専属になったんじゃないの?」
「タクマくんが事業を立ち上げるなら、ぜひ投資したいわ。タクマくんに会ったらそう伝えてね」
「一億円程度なら私が買ってあげたのに。これ、必ず伝えてよ」
まるで、伝言板の役回りである。
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