裸のプリンス【Ｒ１８】

熟れきった初夜⑦

「気にしないで。無理なお願いをしていることは、自分でもよくわかっているから」

　仕事さえいなければ、何もいらない、恋人も夫もいらない、と冬子さんは言っていた。ただ、子供は欲しい。半年ほど前、友人の子供を預かった時、自分の中の母性を発見したらしい。

　友人の子供でも、こんなに可愛いのだ。自分の子供なら、もっと可愛く思えるだろう。そう思い立ち、直ちに行動を起こす。冬子さんは１８ヵ月の長期休暇をとり、綿密な出産計画を立てた。

　僕とのデートは、その導入期にあたる。僕はめでたく彼女に気に入られ、〈ひとり結婚式〉の初夜のお相手を務めることになったわけだが……。

　まさか、セックスの目的が受精だとは思ってもいなかった。

　そのことを電話で聞かされたのは、実は、つい昨晩のことなのだ。こんな御依頼は初めてだし、とても驚いた。

　お客様の性欲を満たすことと妊娠させることは、同じ行為でありながら目的が１８０度ちがう。後者の方がリスクと責任が比べものにならないほど大きい。

　冬子さんの御期待には沿えることは無理だ。僕は電話口で、丁重にお断りをした。

　今日のために『キャッスル』は既に先行投資をしていたが、キャンセルされても仕方ないと思った。お客様の目的が受精である以上、僕にできることはほとんどない。

　でも、冬子さんはキャンセルしなかった。