25 / 27
第二の謎
下手人の告白②
しおりを挟む
「だから、二人を殺めたんですか? かつて愛していた大吉さんと、姉の加代さんを」
「いけませんか? あたしを裏切って恥知らずな嘘まで吐き、挙句の果てに見捨てるなんて、畜生にも劣りますよ」
「登代さんの怒りはごもっともです。その一切合切の怒りを込めた行為が、加代さんの顔に切り刻んだドーマンだった。例の網目模様の傷であり、星形のセーマンと一緒に、魔除けの意味合いももっていた。登代さん、この理解で合っていますか?」
その問いかけには答えず、登代は鼻で笑いながら、
「ああ、言い忘れていました。この際、洗いざらい言ってしまいます。大吉さんと姉は江戸へ逃げる際、あちこちの借金を踏み倒しているんです。その借金のせいで、あたしは地獄をみたんですよ」
「その地獄とは何でぇ」と、亀三が訊いた。
「大吉さんと姉のせいで、あたしが下総で、どんな扱いを受けたかわかりますか? 毎日のように、柄の悪い取り立て人がやってきましたよ。手籠めにされたのは、一回や二回じゃないです。毎日が地獄のようでした。それもこれも、二人のせいですよ」
「……」
「あたしは黙って、耐え続けなければいけなかったんですか。ええっ、親分さん、教えてくださいよっ」
登代の怒号に気圧されて、さすがの亀三も言い返せなかった。
「登代さん、どうやら、魔除けの効き目がなかったようですね。あんたは今、トモカズキにとりつかれている」
「だったら、どうすれば、よかったんですか。黙って耐えていろとでも言うんですか」
「わかっているじゃないですか。魔物みたいな連中など、関わるべきじゃなかった。ましてや殺めるなんて、自分で自分の首を絞めるようなものです」
「……」
「そうそう、大吉さんと加代さんは江戸に来てから、早々に借金を重ねていましたよ。暮らしは汲々していたんじゃないですかね。お隣の話では夫婦喧嘩も結構していたようだし、決して幸せな暮らしぶりじゃなかった」
「……」
「いけませんか? あたしを裏切って恥知らずな嘘まで吐き、挙句の果てに見捨てるなんて、畜生にも劣りますよ」
「登代さんの怒りはごもっともです。その一切合切の怒りを込めた行為が、加代さんの顔に切り刻んだドーマンだった。例の網目模様の傷であり、星形のセーマンと一緒に、魔除けの意味合いももっていた。登代さん、この理解で合っていますか?」
その問いかけには答えず、登代は鼻で笑いながら、
「ああ、言い忘れていました。この際、洗いざらい言ってしまいます。大吉さんと姉は江戸へ逃げる際、あちこちの借金を踏み倒しているんです。その借金のせいで、あたしは地獄をみたんですよ」
「その地獄とは何でぇ」と、亀三が訊いた。
「大吉さんと姉のせいで、あたしが下総で、どんな扱いを受けたかわかりますか? 毎日のように、柄の悪い取り立て人がやってきましたよ。手籠めにされたのは、一回や二回じゃないです。毎日が地獄のようでした。それもこれも、二人のせいですよ」
「……」
「あたしは黙って、耐え続けなければいけなかったんですか。ええっ、親分さん、教えてくださいよっ」
登代の怒号に気圧されて、さすがの亀三も言い返せなかった。
「登代さん、どうやら、魔除けの効き目がなかったようですね。あんたは今、トモカズキにとりつかれている」
「だったら、どうすれば、よかったんですか。黙って耐えていろとでも言うんですか」
「わかっているじゃないですか。魔物みたいな連中など、関わるべきじゃなかった。ましてや殺めるなんて、自分で自分の首を絞めるようなものです」
「……」
「そうそう、大吉さんと加代さんは江戸に来てから、早々に借金を重ねていましたよ。暮らしは汲々していたんじゃないですかね。お隣の話では夫婦喧嘩も結構していたようだし、決して幸せな暮らしぶりじゃなかった」
「……」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
異・雨月
筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。
<本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています>
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。
南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳
勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません)
南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。
表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。
2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
悲恋脱却ストーリー 源義高の恋路
和紗かをる
歴史・時代
時は平安時代末期。父木曽義仲の命にて鎌倉に下った清水冠者義高十一歳は、そこで運命の人に出会う。その人は齢六歳の幼女であり、鎌倉殿と呼ばれ始めた源頼朝の長女、大姫だった。義高は人質と言う立場でありながらこの大姫を愛し、大姫もまた義高を愛する。幼いながらも睦まじく暮らしていた二人だったが、都で父木曽義仲が敗死、息子である義高も命を狙われてしまう。大姫とその母である北条政子の協力の元鎌倉を脱出する義高。史実ではここで追手に討ち取られる義高であったが・・・。義高と大姫が源平争乱時代に何をもたらすのか?歴史改変戦記です
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
シンセン
春羅
歴史・時代
新選組随一の剣の遣い手・沖田総司は、池田屋事変で命を落とす。
戦力と士気の低下を畏れた新選組副長・土方歳三は、沖田に生き写しの討幕派志士・葦原柳を身代わりに仕立て上げ、ニセモノの人生を歩ませる。
しかし周囲に溶け込み、ほぼ完璧に沖田を演じる葦原の言動に違和感がある。
まるで、沖田総司が憑いているかのように振る舞うときがあるのだ。次第にその頻度は増し、時間も長くなっていく。
「このカラダ……もらってもいいですか……?」
葦原として生きるか、沖田に飲み込まれるか。
いつだって、命の保証などない時代と場所で、大小二本携えて生きてきたのだ。
武士とはなにか。
生きる道と死に方を、自らの意志で決める者である。
「……約束が、違うじゃないですか」
新選組史を基にしたオリジナル小説です。 諸説ある幕末史の中の、定番過ぎて最近の小説ではあまり書かれていない説や、信憑性がない説や、あまり知られていない説を盛り込むことをモットーに書いております。

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる