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第二の謎
血文字と身投げ③
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「タンテーよ、ますます、おまえ向きの話になってきたようだぜ」
そんな風に言われて、貞次郎は苦笑を浮かべるしかない。
「親分、今いえることは一つだけ。その幽霊を捕らえることです」
「おいおい、幽霊をお縄にしろというのか? まさか、幽霊が若夫婦を殺したと言い出すんじゃねぇだろうな。そいつはいくら何でも、荒唐無稽が過ぎるぜ」
「いえ、正確に言えば、そいつは幽霊じゃない。きっと、生身の女なんでしょう。ただ、それが加代さんなのか別人なのか、今はわからない。だから、とっ捕まえて確認しようって話ですよ」
「何だかよくわからねぇが、幽霊でないなら、その女は下手人かもしれねぇ。タンテー、こういうことかい?」
貞次郎が力強く頷いて、
「下っぴきをできるだけ集めて、吾妻橋の下流をあたらせるんです。幽霊が河童でないなら川べりに上がるはずだし、若い女の濡れネズミなら相当目立つにちがいない」
「なるほど、そいつ道理だな。熊、いくぜっ」
亀三は熊太郎を連れて、吾妻橋の方に走っていった。
一人残された貞次郎は、再度、殺人現場を見回して、懐から取り出した帳面に謎の血文字を書きとめる。
「どこかで見た覚えがあるんだが、さて、どこだったかな」
家を出ると、忠助の姿が消えていた。どうやら、亀三と一緒に吾妻橋に向かったらしい。
「口うるさい小僧が消えて好都合」
貞次郎は笑顔で呟くと、そそくさと隣の家に向かう。何度も話に出た隣の女房から、若夫婦に関する話を根掘り葉掘り聞くためである。貞次郎は亀三の手下を装って、堂々と聞き込みを行った。
大吉と加代の人となり、普段かわしていた世間話、加代を訪ねてきた若い女、結婚前の大吉と加代のこと、結婚のいきさつ、本当の夫婦仲……。
その日、貞次郎が長屋に戻ったのは、とっぷりと陽が暮れてからだった。
口から産まれたような女房は、貞次郎の知りたいことを、すべて教えてくれた。大した収穫だった。
あとは、とっちらかった材料を正しい順番を並べなおし、誰の目にも明らかな物語に仕上げるだけである。
物語は幽霊の正体によって変わるが、大まかに言って二通りしかない。顔を切り刻まれた女が加代だった場合と、そうでなかった場合の二通りである。
どちらにしても、下手人は今、耐え難い絶望の中にいることだろう。
そんな風に言われて、貞次郎は苦笑を浮かべるしかない。
「親分、今いえることは一つだけ。その幽霊を捕らえることです」
「おいおい、幽霊をお縄にしろというのか? まさか、幽霊が若夫婦を殺したと言い出すんじゃねぇだろうな。そいつはいくら何でも、荒唐無稽が過ぎるぜ」
「いえ、正確に言えば、そいつは幽霊じゃない。きっと、生身の女なんでしょう。ただ、それが加代さんなのか別人なのか、今はわからない。だから、とっ捕まえて確認しようって話ですよ」
「何だかよくわからねぇが、幽霊でないなら、その女は下手人かもしれねぇ。タンテー、こういうことかい?」
貞次郎が力強く頷いて、
「下っぴきをできるだけ集めて、吾妻橋の下流をあたらせるんです。幽霊が河童でないなら川べりに上がるはずだし、若い女の濡れネズミなら相当目立つにちがいない」
「なるほど、そいつ道理だな。熊、いくぜっ」
亀三は熊太郎を連れて、吾妻橋の方に走っていった。
一人残された貞次郎は、再度、殺人現場を見回して、懐から取り出した帳面に謎の血文字を書きとめる。
「どこかで見た覚えがあるんだが、さて、どこだったかな」
家を出ると、忠助の姿が消えていた。どうやら、亀三と一緒に吾妻橋に向かったらしい。
「口うるさい小僧が消えて好都合」
貞次郎は笑顔で呟くと、そそくさと隣の家に向かう。何度も話に出た隣の女房から、若夫婦に関する話を根掘り葉掘り聞くためである。貞次郎は亀三の手下を装って、堂々と聞き込みを行った。
大吉と加代の人となり、普段かわしていた世間話、加代を訪ねてきた若い女、結婚前の大吉と加代のこと、結婚のいきさつ、本当の夫婦仲……。
その日、貞次郎が長屋に戻ったのは、とっぷりと陽が暮れてからだった。
口から産まれたような女房は、貞次郎の知りたいことを、すべて教えてくれた。大した収穫だった。
あとは、とっちらかった材料を正しい順番を並べなおし、誰の目にも明らかな物語に仕上げるだけである。
物語は幽霊の正体によって変わるが、大まかに言って二通りしかない。顔を切り刻まれた女が加代だった場合と、そうでなかった場合の二通りである。
どちらにしても、下手人は今、耐え難い絶望の中にいることだろう。
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