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第二の謎

血文字と身投げ①

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 偶然に出来上がったものではない。何らかの意図をもって描かれたことは確かだろう。

「見つけたか、タンテー。その奇妙な印だが、一体なんなのか、おまえにわかるか?」
 貞次郎はしばし考えこみ、
「確かな自信があるわけじゃないし、今は何とも言えません。親分、少し時間をもらえますか」

「ふん、もったいぶるじゃねぇか。けどよ、もしわかったら、いの一番に俺に伝えるんだぜ。奇妙な印の謎解きだけじゃなく、一刻も早く下手人をあげるんだからな」

「下手人の目串めぐし(見当)はついているんですか?」

「ああ、夫婦に金を貸していた男がいるんだが、その金貸しに雇われた取立人が怪しい。隣の女房から聞いた話じゃ、目つきが悪くて血の気の多そうな野郎だったとか」

 いうまでもなく、桐野のことだ。

「その借金の額というのは、いかほどですか?」
「20両ほどって話だ。いっちゃなんだが、二人とも安い命だったな」

「やけになって殺しちまったら、貸したカネの取りっぱぐれ。くたびれ儲けですよ」
「おいタンテー、下手人は他にいるって言いてぇのか」

「まだ材料が少なくて何とも言えません。わかっていることを洗いざらい教えてもらえませんか?」

 亀三によると、殺されたのは魚の行商人,大吉とその妻,加代。一緒になってから半年ほどであり、夫婦そろって働き者と評判だった。

 大吉は生粋の江戸っ子だが、加代の生まれは下総しもふさだという。下総の位置は、現代でいうと千葉県北部と茨城県南部にあたる。

 隣の女房は怪しい取立人以外にもう一人、奇妙な女を見かけていた。薄汚れた風体の若い女だったという。その女は若夫婦を訪ねてきたのだが、邪険に追い返されて、すぐ帰っていった。

 その際、加代は吐き捨てるように、「モカズキめ、とっとと帰れ」と言ったらしい。

「モカズキ? その女の名ですか?」
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