大江戸ディテクティブ ~裏長屋なぞとき草紙~

坂本 光陽

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第一の謎

先代の残したもの①

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 暮れ六つ(午後6時頃)、貞次郎と左衛門、桐野、番頭が、勘定場に顔をそろえていた。彼らの取り囲んでいるのは、一の土蔵である。

「で、丹葉さん、肝心のお宝は、どこにあるんだい?」
「まぁまぁ、桐野さん。そう急がずに、私の話を聞いてください。先代の言い残した言葉は、『もし、店に万が一のことがあれば、穴蔵を見よ。一の穴蔵にすべてがある』。間違いありませんね」
「うむ、間違いないですよ」左衛門は頷いた。

「左衛門殿、『万が一のこと』とは何を指すと思いますか?」
「屋敷から火が出て焼き落ちてしまった時か、大地震で跡形もなく潰れてしまった時ではないでしょうか」
「なるほど、では、一の穴蔵にあるはずの『すべて』とは何でしょう?」
「そんなものはお宝に決まっているだろ。今更、何を言っているんだよ」

「桐野さんには訊いていませんよ」
「わしも万が一のための蓄えと考えていたのだが、ちがいますかね?」
 貞次郎は足先で穴蔵の蓋をトントンと叩き、
「一の穴蔵の中に、それが見つかりましたか?」
「……」二人は無言で応じた。

「そう、もし見つかっていたなら、他人の私が頼まれることはなかった。ということは、万が一の蓄えではなかったということです。左衛門殿、寿屋は大店です。利益の一部を抜き取って、こっそり隠しておくことが可能でしたか?」

「どうだろうな。決して順風満帆な道のりではなかったが、帳簿に手心を加えることはなかったと思います。先代は何よりも曲がったことが大嫌いだった」

「番頭さんの考えはいかがですか?」
「同感です。先代は金儲けよりも喜ばれる商いを目指していました。後ろ暗い蓄えなど間違いなくなかったでしょう」

「となれば、桐野さんの言うような、お宝ではなかったと考えられます。おそらく、嵩張かさばるものではなかった。だから、一の土蔵に仕舞ってあったのに、うっかり見過ごされてしまった」
「丹葉さん、一体どういうことですか?」

 貞次郎はにっこりと笑って、
「それはずっと、目の前にあったのですよ」
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