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第一の謎

判じ物②

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 貞次郎はしばらく眺めていたが、
「ふん、なるほどな」と、太一に突き返した。「てめえで考えてみなよ。粘り強く取り組めば、太一の頭でも解けるはずだぜ」

「考えてみたさ。頭をしぼりにしぼってみたけれど、とんとわからないんだ」

「本当に粘っこくやってみたかい? 三日三晩、悩みに悩みなよ。それでもわからなきゃ、俺ンところに持ってくるといい」

「そんなこと言うなんて、タンテーさん、わからないじゃないの?」と、太一はいたずらっぽく笑う。

「はっ、そんな手にはのるかよ。他人に頼ってばかりいると、ろくな大人にならねぇぞ」

「ちぇ、けちだな」と、太一は舌打ちをする。「あーあ、絵解きができれば、お宝がもらえるのに」

「んん、そいつはどういう意味だ?」

「判じ物を解いて、その店に行ったら、お宝がもらえるんだとさ。配っていた兄さんがそう言っていたよ」

「なるほど、こいつは引き札か。そういや、山東京伝が判じ物の引き札をつくって評判になったことがあったな」

 引き札とは、現代の広告チラシのこと。メディアの発達していない江戸時代には、自分の店の商品をアピールする販売促進ツールだった。中には鮮やかな多色刷りのものもあったが、今、二人の前にあるのは墨の単色刷りだ。

「太一、お宝がもらえるってのは本当か」
「うん。配っていた兄さんがそう言ってた。タンテーさん、金銀財宝がもらえるかもしれないよ」

「おいおい、そいつは引き札だぜ。店が宣伝のためにやってんだ。もらえるのは、その店の新商品に決まってら」そう言って、貞次郎は腰を上げた。「仕様がねぇな。退屈しのぎに行ってみるか」

「えっ、どこへ行くの?」
「もちろん、太一のいうお宝をもらいにいくのさ」

 さっさと表に出ていくので、太一は後を追った。どうやら、貞次郎は判じ物を一目で解いてしまったらしい。

 季節は春の終わり。桜は葉桜に装いを変えている。

 貞次郎と太一の暮らす長屋は横山町にあった。現代の中央区日本橋横山町であり、衣料・雑貨の問屋街があることで知られている。江戸時代にも小間物や紙煙草入れなどの問屋があったので、その意味ではあまり変わっていないのかもしれない。
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