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第一の謎
食い詰め浪人①
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話が長引いたせいで、貞次郎たちが寿屋を出た時には、陽が傾きかけていた。川風に吹かれながらの帰り道で、太一が言った。
「タンテーさん、さっきの頼まれ事だけど、おいらにも手伝わせておくれよ」
貞次郎は笑みを浮かべて、
「ほぉ、太一、聞かせてくれよ。おまえさんに何ができるっていうんだい?」
「何だってできるさ、タンテーさん、おいらをガキ扱いするのかよ」
「いや、そんなことはねぇ。太一は食いしん坊だが、意外と頭が切れる」
「食いしん坊とか、意外とかは余計だよ。それより、さっきの寿屋さんの話って」
貞次郎は唇に人差し指をあてると、太一の帯をつかんで早足になった。裏通りへの角を曲がると、いきなり太一を小脇に抱えて、走り出す。
「何だよ、離してくれよ」
「黙ってねぇと、舌を噛むぞ」
貞次郎は気づいていた。寿屋を出たところから、不審な男につけられていたのだ。チラと見た風貌は、一言でいうと食い詰め浪人。腹をすかせた無法者たちは、江戸に掃いて捨てるほどいる。下手に関わると剣呑な相手だった。
貞次郎は迷路のような裏通りを駆け抜けて、どうにか浪人をまくことに成功した。
「そんな浪人が本当にいたの? 見間違いじゃないの?」
太一はそんな風に言ったが、貞次郎には確信があった。浪人は何らかの思惑があって、後をつけていたのだ。思惑といえば、一つしか考えられない。寿屋がらみである。
貞次郎の脳裏に、寿屋左衛門からの頼まれごとがよみがえる。
「父が亡くなる前に、こんなことを言い残したのです。『もし、店に万が一のことがあれば、穴蔵を見よ。一の穴蔵にすべてがある』とね」
穴蔵とは、家の土間や庭に掘られた大きな穴のことである。現代でいえば、キッチンなどの床下収納が近いだろう。
江戸時代に火事が起こった時には、大切な財産などを穴蔵の中に放り込んでいた。厚い板でふたをして、その上から土をかけて、火から守っていたのだ。穴蔵の普及は、明暦の大火の後といわれている。
さて、先代が残したものは何なのか? お宝の類だろう、と左衛門は考えていた。
「葬儀が終わって落ち着いてから、もちろん穴蔵を改めましたよ。それらしきものは見つかりませんでした。しかし、今わの際に嘘など吐くはずがない。丹葉さん、父の残したものは一体、どこにあるのでしょう」
それを探し出す知恵を貸してもらいたい。それが左衛門の頼みだった。つまり、先代が残したというお宝の探索である。
「タンテーさん、さっきの頼まれ事だけど、おいらにも手伝わせておくれよ」
貞次郎は笑みを浮かべて、
「ほぉ、太一、聞かせてくれよ。おまえさんに何ができるっていうんだい?」
「何だってできるさ、タンテーさん、おいらをガキ扱いするのかよ」
「いや、そんなことはねぇ。太一は食いしん坊だが、意外と頭が切れる」
「食いしん坊とか、意外とかは余計だよ。それより、さっきの寿屋さんの話って」
貞次郎は唇に人差し指をあてると、太一の帯をつかんで早足になった。裏通りへの角を曲がると、いきなり太一を小脇に抱えて、走り出す。
「何だよ、離してくれよ」
「黙ってねぇと、舌を噛むぞ」
貞次郎は気づいていた。寿屋を出たところから、不審な男につけられていたのだ。チラと見た風貌は、一言でいうと食い詰め浪人。腹をすかせた無法者たちは、江戸に掃いて捨てるほどいる。下手に関わると剣呑な相手だった。
貞次郎は迷路のような裏通りを駆け抜けて、どうにか浪人をまくことに成功した。
「そんな浪人が本当にいたの? 見間違いじゃないの?」
太一はそんな風に言ったが、貞次郎には確信があった。浪人は何らかの思惑があって、後をつけていたのだ。思惑といえば、一つしか考えられない。寿屋がらみである。
貞次郎の脳裏に、寿屋左衛門からの頼まれごとがよみがえる。
「父が亡くなる前に、こんなことを言い残したのです。『もし、店に万が一のことがあれば、穴蔵を見よ。一の穴蔵にすべてがある』とね」
穴蔵とは、家の土間や庭に掘られた大きな穴のことである。現代でいえば、キッチンなどの床下収納が近いだろう。
江戸時代に火事が起こった時には、大切な財産などを穴蔵の中に放り込んでいた。厚い板でふたをして、その上から土をかけて、火から守っていたのだ。穴蔵の普及は、明暦の大火の後といわれている。
さて、先代が残したものは何なのか? お宝の類だろう、と左衛門は考えていた。
「葬儀が終わって落ち着いてから、もちろん穴蔵を改めましたよ。それらしきものは見つかりませんでした。しかし、今わの際に嘘など吐くはずがない。丹葉さん、父の残したものは一体、どこにあるのでしょう」
それを探し出す知恵を貸してもらいたい。それが左衛門の頼みだった。つまり、先代が残したというお宝の探索である。
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