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浪人と岡っ引き④
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「たったの三人でどうにかなると思ったか。甘く見られたもんだな」
「てめぇ、これまで面倒を見てやったのに、恩を仇で返す了見かよ」
「そいつはお互い様だろう。難癖をつけられて、マサみたいに俺まで殺られては敵わねぇ。藤本様の心配が的中したな」
「藤本様」とは町名主のことであり、源八が岡っ引きになれたのは藤本のおかげである。もっとも、藤本は源八を信用していたわけではない。ましてや、悪事を黙認していたわけではない。
「親分は知らねぇだろうが、俺は藤本様から密命を受けている。『源八の悪事が度を越した時には速やかに始末せよ』とのお達しだ。気は進まないが、藤本様の言いつけでは仕方がねぇ」
「この野郎、ハナから信用ならねぇ奴だと思っていたぜ」
源八は懐から、物騒なものを取り出した。手ぬぐいを投げ捨てて露わにしたのは、刃渡り七寸の柳刃包丁である。
「やれやれ、俺に抜かせる気かい?」希之介は腰のものに手をやる。
だが、それは竹光ではなかったか。刃物相手に太刀打ちできるのか。
源八は柳葉包丁を素早く突き出したり引き戻したり、と俊敏な動きを見せる。
希之介は円を描くように後ずさり、包丁の切っ先をかわす。最低限の動きで、紙一重でさけている。
「親分、あんた下手をうったな。マサなんざ、殺すことはなかったんだ。蕎麦屋の火事を化け物のせいにしたことで、マサの命運は尽きた。そんなことしたら祟られるとは考えもしなかったんだろうな。遠からず、罰が当たる定めだったんだ」
希之介は包丁をかわしながら、とうとうと語り続ける。
「ほら、何か感じないか?」
源八の動きが悪くなってきた。顔色が悪くなり、息が切れて、足が無様にもつれている。一気に20ほど歳をとってしまったかのようだ。
森の闇は深くなり、気温が低下していた。風もないのに、鬱蒼たる木々がざわめいている。
そして、源八の背後で、人ならざるものの気配が……。
「てめぇ、これまで面倒を見てやったのに、恩を仇で返す了見かよ」
「そいつはお互い様だろう。難癖をつけられて、マサみたいに俺まで殺られては敵わねぇ。藤本様の心配が的中したな」
「藤本様」とは町名主のことであり、源八が岡っ引きになれたのは藤本のおかげである。もっとも、藤本は源八を信用していたわけではない。ましてや、悪事を黙認していたわけではない。
「親分は知らねぇだろうが、俺は藤本様から密命を受けている。『源八の悪事が度を越した時には速やかに始末せよ』とのお達しだ。気は進まないが、藤本様の言いつけでは仕方がねぇ」
「この野郎、ハナから信用ならねぇ奴だと思っていたぜ」
源八は懐から、物騒なものを取り出した。手ぬぐいを投げ捨てて露わにしたのは、刃渡り七寸の柳刃包丁である。
「やれやれ、俺に抜かせる気かい?」希之介は腰のものに手をやる。
だが、それは竹光ではなかったか。刃物相手に太刀打ちできるのか。
源八は柳葉包丁を素早く突き出したり引き戻したり、と俊敏な動きを見せる。
希之介は円を描くように後ずさり、包丁の切っ先をかわす。最低限の動きで、紙一重でさけている。
「親分、あんた下手をうったな。マサなんざ、殺すことはなかったんだ。蕎麦屋の火事を化け物のせいにしたことで、マサの命運は尽きた。そんなことしたら祟られるとは考えもしなかったんだろうな。遠からず、罰が当たる定めだったんだ」
希之介は包丁をかわしながら、とうとうと語り続ける。
「ほら、何か感じないか?」
源八の動きが悪くなってきた。顔色が悪くなり、息が切れて、足が無様にもつれている。一気に20ほど歳をとってしまったかのようだ。
森の闇は深くなり、気温が低下していた。風もないのに、鬱蒼たる木々がざわめいている。
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