大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

文字の大きさ
上 下
14 / 20

浪人と岡っ引き③

しおりを挟む

 源八が向かったのは、見世物小屋のあった神社の境内だった。魚市のすぐそばなのに、ひと気が感じられないのは、森の闇が深いからだろう。二人は鳥居を潜り抜け、無人の小道を登る。

「ここらでいいだろう」

 源八は足を止めたのは、偶然にも、見世物小屋のあった場所だった。もっとも、小屋自体はとっくに解体され、その痕跡すらなくなっていたのだが。

「薄暗くて気味が悪いねぇ。親分は平気なのかい?」
「闇に生きるものが闇を怖がってどうする。てめぇだって、同じ穴のむじなだろうに」
「いやいや、それは断固、否定させてくれ。これでも、真っ当に生きているつもりだぜ」
「真っ当な男が、俺様を脅したりするかよ」そう言って、狂暴な獣の目で睨みつける。

 岡っ引きとは、現代の警察官のような真っ当な人間ではない。お上に対する非公認の協力者にすぎず、基本的にヤクザ者だ。その本性を露わにしただけである。それは子供なら思わずちびってしまいそうな、外道の目つきだった。

 その時、背後に人の気配があった。源八配下のならず者たちだ。源八と合わせて四人で、希之介を取り囲む。

「おいおい、とんだいいがかりだな。誰がいつ、親分を脅したって?」

 希之介は笑っているが、源八たちは真顔である。

「話し合いの余地なしか。どうしたいんだ? そういうことは、訊くだけ野暮か」

 希之介の目つきが鋭くなる。真後ろの男が襲いかかってきたが、素早く身体をずらして、右の裏拳で相手の顔面を打つ。それだけで男は昏倒した。

 右の男と左の男は同時に拳をふるってきたが、あまりにものろすぎて、希之介をとらえることはできない。腰の入った蹴りを一発ずつ食らい、苦悶の表情で地面をのたうちまわっている。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

最後の一行を考えながら読むと十倍おもしろい140文字ほどの話(まばたきノベル)

坂本 光陽
ミステリー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎる小説をまとめました。どうぞ、お気軽に御覧ください。ラスト一行のカタルシス。ラスト一行のドンデン返し。ラスト一行で明かされる真実。一話140字以内なので、別名「ツイッター小説」。ショートショートよりも短いミニミニ小説を公開します。ホラー・ミステリー小説大賞に参加しておりますので、どうぞ、よろしくお願いします。

マスクドアセッサー

碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作が裁判員に選ばれて1つの事件に出会う事から始まるミステリー小説 朝比奈優作シリーズ第5弾。

シグナルグリーンの天使たち

ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。 店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。 ※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました  応援ありがとうございました! 全話統合PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613 長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

緩やかな波音

三谷朱花
ミステリー
祖母が死んだ。それは自然に訪れた死だったのか。死をめぐるミステリー。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...