大江戸あやかし絵巻 ～一寸先は黄泉の国～

未来の浮世絵師②

　サブの本名は、井草芳三郎。のちの歌川国芳である。

　幕末を代表する浮世絵師であるとともに、既成概念を打ち破った斬新な表現力は現代アートに通じるものがある。当時のニューウェーブだった、と言っても過言ではないだろう。

　一方のトクは空を見上げて、雲を描き始めていた。

「空気が澄んでいるせいか、今日の空はいい色をしていやがる」

　トクもまた、有名な浮世絵師となる。

　安藤徳太郎。のちの歌川広重である。ゴッホやモネなどの西洋画家に多大な影響を与え、浮世絵に描かれた鮮やかな藍色が「ヒロシゲブルー」と呼ばれるなど、トクは知る由もない。

　疱瘡神は赤い色を嫌うといわれていたため、赤刷りの絵が多い。歌川国芳も赤刷りの金太郎やミミズクの浮世絵版画を残している。

　サブが疱瘡絵の源為朝を模写していたというのは作者の創作だが、歌川国芳になってから同じ源為朝をモチーフにした疱瘡絵を描いている。

「鎮西八郎為朝疱瘡神（ちんぜいはちろうためともほうそうしん）」

　二枚続きの多色刷り大判錦絵である。左側に源為朝、右側に老婆と童子，玩具の動物たち。右側の面々が左の為朝にひれ伏している構図だ。この絵は現在、東京中央図書館・東京誌料文庫に所蔵されている。

　そんな絵を描くことになる、と模写をしていた頃のサブは考えていたのだろうか？
　間違いなく考えていただろう、と作者は考える。

　過去は現在とつながっており、現在の積み重ねが未来をつくりだしていく。
　釣り糸を垂らしているサブの頭は、自分の描きたいものでいっぱいだった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　了