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未来の浮世絵師①

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 マサが殺され、源八が消えた後にも、予言獣は現れた。今度の場所は、深川である。

「まもなく江戸で疫病が流行る」と、化け物が告げたらしいが、江戸時代には疫病騒ぎが頻繁に起こっている。安政5年〔1858〕から5年以上、虎狼痢ころりと呼ばれたコレラが大流行しているが、50年後の話では予言が的中したとは言えない。

 まさに当たるも八卦はっけ、当たらぬも八卦である。もっとも、現代の感覚でいえば、タブロイド紙が一面で「UFOが目撃された」と報じたようなものだろう。

 サブも予言獣の瓦版を見たが、希之介から「嘘の皮だ」と聞かされていたので、以前ほど怖がったりはしていない。今日もトクと肩を並べて、いつかと同じように裏通りの川べりで釣り糸を垂らしていた。

 今度こそフナを釣ろうとしたのだが、なかなかうまくいかない。しびれを切らしたトクが、またもや釣り竿を地面に突き刺して、

「そういえば、源八親分がいなくなったので、新しい岡っ引きがやってくるそうだ」と、寝ころびながら言った。「腰が低すぎて頼りなさそうな奴だ、と父ちゃんが言ってたぜ」

「へぇ。俺は腰が低い人の方がいい。えらそうな人は苦手だ」
「けど、俺たちが目指している絵師なんざ、えらそうな人ばっかりじゃねぇか」

 その通りである。絵の才能と人の好さは反比例するものなのか、どこもかしこも高慢な絵師ばかりである。けど、俺はそういう絵師にはならない、とサブは思う。

 疱瘡絵の源為朝から始まった模写であるが、今は北尾重政の『絵本武者鞋(えほんむしゃわらじ)』、北尾政美の『諸職画鑑(しょしょくえかがみ)』にとりかかっている。4年後に描いた「鍾馗提剣図(しょうきていけんず)」が歌川豊国の目に留まり、彼の弟子になるのだが、この時のサブは知る由もない。
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