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黄泉の国①
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希之介は素早く、源八から距離をとった。
「ほら、化け物が怒っているぜ」
源八の手下どもは、その化け物を目の当たりにして、悲鳴を上げながら逃げていった。
だが、源八は凍りついていた。恐怖で振り返ることができないのだ。全身に鳥肌が立ち、嫌な汗が背筋に沿って流れていた。
そいつは化け物というには、あまりにも不確かな存在だった。真っ暗な穴がドロンと、ただ、そこにあるだけなのだ。深い闇は巨大な鮫の顎に似ていた。凶暴な顎が大きく開いて涎をたらしている。何であろうと、貪欲に飲み込んでしまう。
源八も彼自身の恐怖ごと、〈闇の顎〉の中に吸い込まれた。悲鳴一つ残さずに消え失せてしまった。
希之介がゆっくりと後ずさっていると、小道の方で悲鳴が上がった。どうやら、〈闇の顎〉はもう一体いたらしい。逃げていった源八の手下どもが、その餌食になったようだ。
これで希之介は逃げることもできなくなった。
「やれやれ、仕様がねぇなぁ」
能天気な声音とは裏腹に、彼の顔は青ざめていた。〈闇の顎〉との距離がジワジワと縮まっているからだ。
「俺を食っても、うまくねぇと思うんだが」
すり足で木漏れ日のある場所に辿り着くと、そこで腰の竹光を抜いた。キラリと光ったのは、刀身に銀箔が貼られているからだ。
時代劇の撮影用に使われる竹光に貼られているのはアルミ箔だが、希之介の竹光の輝きはそれに勝るとも劣らない。熟練の職人の手によるものか、まるで本物のように見える。
希之介はひらひらと、刀身を左右に踊らせる。それは光の渦を生み、次第に輝きを増していく。かすかな陽光を幾度も反射させて大きな光を作り出し、化け物の深い闇を照らし出そうというのだ。
「ほら、化け物が怒っているぜ」
源八の手下どもは、その化け物を目の当たりにして、悲鳴を上げながら逃げていった。
だが、源八は凍りついていた。恐怖で振り返ることができないのだ。全身に鳥肌が立ち、嫌な汗が背筋に沿って流れていた。
そいつは化け物というには、あまりにも不確かな存在だった。真っ暗な穴がドロンと、ただ、そこにあるだけなのだ。深い闇は巨大な鮫の顎に似ていた。凶暴な顎が大きく開いて涎をたらしている。何であろうと、貪欲に飲み込んでしまう。
源八も彼自身の恐怖ごと、〈闇の顎〉の中に吸い込まれた。悲鳴一つ残さずに消え失せてしまった。
希之介がゆっくりと後ずさっていると、小道の方で悲鳴が上がった。どうやら、〈闇の顎〉はもう一体いたらしい。逃げていった源八の手下どもが、その餌食になったようだ。
これで希之介は逃げることもできなくなった。
「やれやれ、仕様がねぇなぁ」
能天気な声音とは裏腹に、彼の顔は青ざめていた。〈闇の顎〉との距離がジワジワと縮まっているからだ。
「俺を食っても、うまくねぇと思うんだが」
すり足で木漏れ日のある場所に辿り着くと、そこで腰の竹光を抜いた。キラリと光ったのは、刀身に銀箔が貼られているからだ。
時代劇の撮影用に使われる竹光に貼られているのはアルミ箔だが、希之介の竹光の輝きはそれに勝るとも劣らない。熟練の職人の手によるものか、まるで本物のように見える。
希之介はひらひらと、刀身を左右に踊らせる。それは光の渦を生み、次第に輝きを増していく。かすかな陽光を幾度も反射させて大きな光を作り出し、化け物の深い闇を照らし出そうというのだ。
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